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第30話 没落令嬢とおちた無限工房


「うーーーわーーー!」


急いで宙を飛ぶ私とキュウの後から、銃弾の雨が猛追する。

はじける銃弾のヒットエフェクト、回転するシリンダー、ドクターの高笑い──。

今この場で響きわたる音のなにもかもが、私たちを殺しに来ている!


「逃げろ逃げろお、ちょっとでも遅れたらハチの巣じゃぞお!」


「くっそう、調子に乗っちゃって……!」


悪態をつきこそすれ、今の私たちは逃げまどうネズミそのものだ。

ドクターの駆る巨大ロボ、【偽・無限工房】アタノール・アニマの周りをぐるぐると旋回して、からくも銃弾の雨から逃れている。


「く、くううう!」


「キュウ、大丈夫?」


「ま、まだへーき……!」


キツそうならキツいって言っていいのに。

この状態もいつまでもつかだ、いつかは来るだろうガトリングの切れ目を狙うつもりでいたけれど……それより早くキュウがバテそう。


「わかった、作戦はこうしましょう! Step.1、私がちょっかいをかける! Step.2は……まあおいおい!」


「何をごちゃごちゃいっとる!」


で、あれば……ちんたらなんてしていられない。

即断即決即行動、ばれちゃう前にStep.1!


「ブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツ!!」


ドクター攻略Step.1『ちょっかいをかける』!

キュウのジェットが保つ限り、小回りはこっちに分がある。


流れで手にした【全自動かき混ぜ棒】をドクターへ向けて乱射、乱射、乱射。

あの巨大ロボを動かしているのはドクターだもの。

であれば逆もまた然り……コイツを倒せばロボは停止する。


「【ディヴァインシールド】!」


もちろんドクターは防御するでしょうね。

赤く輝く赤い石に合わせ、手すきになっていた左のクローが盾に変化。

そしてドクターの周りで光の壁が顕現し、私の【ブリッツ】を阻んだ。


「ムダじゃムダじゃあ、その程度の魔法がワシに届くと思うなよ!」


ええ、だからこそあえて狙った。

戦闘の前にみれてよかったわ!

そういう対魔法用の防御があるなら、別のアプローチをしかけるまで。


「キュウ! 私をあいつの上にブン投げて!」


「ええっ、なんで!?」


「反撃するからよ! はい3、2、1!」


「うわうわうわ──ええい、ままよ!」


というわけでStep.2『飛びつく』!

キュウに投げてもらい、Gを全身にあびながら上昇、上昇──なるべく上限いっぱいまで上昇する!


「なんじゃ──くっ!?」


「ブリッツ! ほらほら防御してないと当たるわよ! ブリッツ! ブリッツ!」


──搭乗者の命令に呼応して自在にパーツを作り変えるロボ。

確かにすごい技術だけど……それを動かすのは人間であるという前提は変わらない。

右はガトリング、左は防御。

両腕を使ってるいま、突っ込んでくる私を迎え撃つ手立てはあるかしら?


「【クラックフォール】・オン!」


天井ギリギリ、投げ上げられた最高地点からの急降下!

狙うは──いい具合に大きく伸ばされた右腕!


「ぬお!?」


ズドン!

落下のエネルギーにスキルが乗っかった着地。

その衝撃でホバーなのか魔法なのか……とにかく謎パワーで浮かぶ【偽・無限工房】アタノール・アニマのボディが傾き、ドクターも少しよろめいた。


ただ、それだけだ。

壊れもしなければヘコミもない……悲しいかな、これでも威力は足りないらしい。


「……見くびられたもんだのう! その程度で傷つくほどこいつはやわじゃないわい!」


「でしょうね──こんなんでダメージになったら逆に拍子抜けだわ」


そりゃあそうでしょ。

相手は部品ひとつひとつ手塩にかけた、ドクター肝いりの決戦兵器──見過ごしていれば外へ飛び出して街を破壊し、レイドボスとしてプレイヤーたちと戦うことになるはずの巨大ロボだ。

そんなのに非戦闘要員である【生産職】が攻撃したところで、カスリ傷ひとつもつけられないでしょう。


だけどこのタイミング、この場所で、こうして相対することができるのはキュウと出会ってここまでやってきた【生産職】だけ。


──うん。

ふつうに考えたら、詰んでる。


「なんじゃ、やぶれかぶれになっただけか! ならば無意味な抵抗などやめて、そのままおとなしくせい!」


「いやよ──」


けどさ。

キュウと一緒にあれやこれややって、ここぞってところで「お前は知りすぎた」とばかりに蹂躙されるような負け確定イベントバトル、ふつうあり得る?

私はゲームに明るくないけど、それだけはNoだと言い切れる。


「──だってそんなの、つまんないじゃん!」


「なに?」


これは小説じゃない。マンガじゃない。アニメじゃない。ゲームだ。

演じてるのは俳優じゃない。声優じゃない。役者じゃない、私だ。


楽しくならない道なんて、最初からあっちゃいけないのよ!


だからこれは、見せ場であるはずなんだ。

【生産職】なんて弱者が、巨大兵器を駆るヴィランを相手に大立ち回りを演じる、物語フォークロアの大一番。


このロボに打ち勝つことができる、【生産職】ならではの方法は必ずある。

そしてその方法を私は……もう手にしている!


「【分解】!」


さあ、そろそろStep.3を始めましょうか!

ドクター攻略戦Step.3……その内容は『ぶっ壊す』だ!



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