「ねえドクター、なんでそうやって隠そうとするのさ。 はぐらかさないでちゃんと伝えてよ……オイラバカだからわかんないよ、どうして教えてくれないのかとか、全然、わかんないよ……!」
「キュウ……」
言いながらどんどん泣きそうな声になっていったキュウは、しまいにはさめざめと泣き始めてしまう。
そんな彼の様子を見ていたドクターは……首をかしげていた。
「なぜ教えてくれないのか、だと? それがなんだというのだ? 教えるも何も、包み隠さず伝えたところで理解できんだろう! 貴様とは、【オートマタ】とはそういうアイテムだ! 命令されたことをただ──」
「【ブリッツ】!」
「うおっ!?」
ちっ、よけられた……言葉を遮ることはできたからいいけど。
今の言い分を最後まで聞かせちゃいけない。
信頼されてるのか否か……キュウがいっとう気にしていたことをこのクソジジイ、いうに事欠いて今なんつった?
命令されたことをただ守っていればいい、ってか?
「サイッテー! サイテーよあんた……どうせわかんないからってアゴで使ったり、テキトーに流したり、ウソ吹き込んだりしていいワケないでしょう!?」
「何なのだ貴様まで! 元からこいつはワシの言うことを必ず聞くよう作られて──」
「【ブリッツ】!!」
しゃべるな!
「キュウはね、あんたのパートナーになりたかったのよ! ずっと何も言わずに言うことを聞いてあげてたのだってそう、自分を信じて任せてくれてると思ってたから! それをあんたは……! ほんっっっとキュウがかわいそうだわ、そんなにひとり身になりたいなら私がもらってあげましょうか!?」
「はあ? 何がどうして貴様にくれてやらにゃいかんのだ!?」
コイツ……この期に及んでまだわからないのか!
「【ブリッツ】! 【ブリッツ】! 【ブリッツ】!」
「ええいうっとうしい!! 【ディヴァインシールド】!」
いうが早いか。
ドクターの眼前に光る盾が現れ、私の放った電撃を完全に遮る。
【ディヴァインシールド】……たしか対魔法用の防壁、だったか。
「いい加減にしろ小娘! ちょっと話が分かるからとおいてやれば、さんざん好き放題しやがって、もう許さん! 貴様はこの場で、コイツの試し台にしてくれる──【オートマチック】・オン!」
そこから、おなじみのスキルが行使された瞬間。
──警報音とともに部屋全体が赤い光で染まった。
『施設内重要区域、
『──者権限により、待機中の各員に第一級戦闘配備を要請する』
次いで、機械音声によるアナウンスが施設内に響き渡る。
いますこしだけ音に乱れがあったのは……やっぱり古いものだからかな?
『これより
「って、わわ──!」
聞き入っていたところに、小刻みの揺れが襲い掛かった。
「リーズ、手を!」
どんくさいことに足を取られてしまったけれど。
そこへ手を伸ばしてくれたキュウが、私を宙へ連れ出してくれた。
「ありがと!」
「えへへ……」
『現場各員は直ちに急行し、敵をせん滅せよ』
『これは訓練ではない、繰り返す、これは訓練ではない』
「キュウ、もう涙は大丈夫?」
「大丈夫、もう泣いてるどころじゃないしね。 ドクターと戦うんでしょ? オイラも手を貸すよ……そんで、二人でぎゃふんっていわせちゃおう!」
「……おお、心強い!」
なおも床は奈落へと落ちていき……
「いでよ!」
言いながらドクターはもう一度指パッチン。
すると……先ほど
「なに、あれ……」
全容を言うなら、かなり生物感のない……マニアからゲテモノって言われるような感じの【キカイ】だ。
青白い光を放つ意匠が刻まれた、漆黒の外殻。
ドラゴンかってくらいにでっかい羽と、重機のアームかってくらいにでっかい腕。
それがこの【キカイ】の大半を占めている。
それらを結びつけるはずの中心部はかなり簡素なものだ。
交差する2つのリングに守られた大きな玉のパーツと、それが鎮座する柱のようなパーツ。たったそれだけ。
そのアンバランスないでたちは、まるで魔法の杖が凶悪な腕と羽をはやしたような……そんな不可思議な印象があった。
にしてもこの玉のパーツ、どっかで見たような気がするんだよなあ。
デジャヴってやつかな?
「ほーほほほほほほ!」
そんな杖型ロボのてっぺんには手すり付きの甲板と何かの装置たちが並んでいて。
ドクターはそこに立ち上がり、コッテコテの高笑いを上げた――!
「驚いたか? 驚いたろ! 驚いたといえ! これがワシの人生をかけた究極兵器
━━━━━━━BOSS━━━━━━━━
Dr.カリオストロ
属性 土
Lv 50
属性 なし
Lv ??
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ああ、わかった──
あの天球儀にも似たオブジェクト!
輪っかの数が少なかったりちょっとした違いはあるけど、
けれど……。
ようやっとデジャヴの正体をつかめたところで、また新たな疑問がわく。
「なんだってそんなものを中心に据えてるのかしら?」
「わかんない……わかんないけど、ドクターのことだから、特に意味はありませんなんてことはないと思う」
「ほーほほほほほほほ! いっとれいっとれ……見せてやる、見せてやるぞ! 今からたーーーっぷりこいつの力を見せてやるぞお!」
ようやくお披露目となったのがよほどうれしいか、大興奮のドクターは何かを天へと掲げた。
「あ、赤い石!」
ちらりとだけ見えた光にキュウが反応する。
確か【フクロウの一族】直伝の貴重な触媒だっけ。
なんか嫌な予感がする。
というのもだ──
模造品とはいえ……もし、データの量もコピーされてる、もしくは同じところにアクセスできるんだとしたら。
レシピ、生産職、生産装置……アイテムの制作に必要なもの全てが、あそこでそろってることにならないか!?
「キュウ! いったん距離を──!」
距離をとろう、と言いかけたところで──
そのボディに不釣り合いなほど大きいアームクローはみるみるうちに変貌を遂げ……
「くらえい!」
円形の筒がいくつもある銃のカタチ。
ガトリングガンと化して、無数の銃弾が放たれた──!