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第28話 没落令嬢とキュービック・前


「──貴様ァ! ワシの【無限工房】アタノールで何をやっとる!」


「げ!?」


キュウの調合が終わるって時に、ドクターがやってきた!

そういうイベントなんだろうけど、あんまりにもタイミングがいやらしすぎて声出ちゃった! 


【無限工房】アタノールの稼働音が聞こえたかと思えば貴様……キュービックをどこへやった! まさか破壊したわけではあるまいな!?」


「…………」


「どうしたハトが鉄砲を受けたような顔して……! 早う答えい!」


「……驚いた」


「ハァ!?」


意外だった。

毎度周りのことを見下してきて、キュウの扱いなんかもかなり悪かったのに……。

いざこうして安否のしれない状況になると真っ先に問いただそうとしてくるなんて。


ちょっと歪んでるけど、ドクターなりにキュウのことは気に入っていたのかな。


「──もうよいわ! 【オートマチック】・オン!」


感心するばかりの私にしびれを切らしたか。ドクターが右手を振り上げる。

するとその後ろから4体、ラグビーボールのような【キカイ】……飛行ドローンが飛んできて、私の周りを取り囲んできた。


「な、なに?」


「ひとまず貴様は死ねい! もういちど閉じ込めてからキュービックの居場所をじっくり吐かせてやるわ! ……幸いなことに、まだ調合中のようじゃしのう!」


いうが早いか。

ドローンたちはおのおの4対のクローを展開、ラグビーボール風からマニピュレーター風へと早変わりする。

そして全体が赤く光ったかと思えば、先端のレンズに集まっていって……うわあ、完全にレーザーで焼き殺す算段だ!!


「わ、わーっ! 待って待って待って!」


「あ~ほ~っ! ここまでコケにされて待つやつがどこの世界におるんじゃい!」


まずいまずいまずいまずい!

調合やってる最中だから魔法なんか撃てないし、【スーサイド調合】だからHPもそろそろ危険域……こんな状態で攻撃を受けたら間違いなく私は消し飛ぶ!


いま消し飛んだら、もれなく調合も失敗で……キュウの復元は叶わぬ夢になる!


「バカバカバカバカ! 今私を殺したらひどいことになるわよ! そりゃもう……えっとひどいことになるわよ!」


「うるせー! やってしまえ!」


ドクターの無慈悲な合図で、四方を取り囲むドローンたちはいっせいに私へレーザーを放つ!

もう無理だこれは死ぬ……!

だったらせめて最後の悪あがき、正面のドローンだけでも叩こうと釜からかき混ぜ棒を引き抜こうとした……その時だった。


「──【インターセプト】・オン!」


ざっぱん。

足元の釜から飛び出した影が、私と前方のドローンとの間に割り込んだ。


「貸して、伏せて!」


状況を飲み込む前に体が動いた!

【全自動かき混ぜ棒】を手放し、私はその場にうずくまる!

そして飛び出した影──キュウはそのままかき混ぜ棒をひっつかんで引き抜き、思いっきりぶん回した!


「どおーーりゃーー!!」


力さえあれば、思いっきりぶん回すだけでリッパな攻撃になる。

横殴りの暴力に突然さらされたドローン4機は、そのままコントロールを失い……全機仲良く対面の壁へたたきつけられた!


「……ふう! あっぶなかったねえ、リーズ!」


次いで起きた小さな爆発を見てから、キュウは私の前へ着地。

軽く利かせたバーニアにより風が生まれ、巻き上がった砂ぼこりが私にかかる。

けほっごほっ――。


「わ、わ……ごめんリーズ!」


「いいって! それよりも体は大丈夫? 変なところはない?」


「へん? うーん……いや、ぜーんぜん! どこもなんともない、いつものオイラだけど……なにかあったの?」


……どうやらゾンビ状態だった時のことは覚えてないらしい。

ならそれでいいやと、「まあいろいろとね……」とだけいって水に流してやる。

そこのところを掘り返して、気にされても困るもの。


「……ていうか今のドローン、ドクターのやつでしょ! 今度は何したのさ!?」


「ああ、それなら簡単なハナシよ……今ね、ドクターとケンカしてるの──!」


「ケンカ!?」


立ち上がって、埃を落として、向き直った先。

……そこにはもちろん、お口をあんぐりとさせたドクターがいる。


「な、な、な、キュービック!? なぜ釜の中から出てきて……!? まさかこやつ、キュービックを釜で……ぬうう!」


さしものドクターも、この展開は予想だにしなかったらしいわね……冷静に分析してるつもりでも思考と感情がごっちゃになってる。


まあそうか、わざわざ敵だったものを直すなんてふつうはしないもの。

けども、やっちゃうんだなこれが……どうも私はふつうじゃあないもんで。


「……ドクター」


「おほん……ちょうどよかったキュービック! そのはねっかえりをどうにかしてしまえ! その女は……そう、騎士どもの仲間じゃ! この【無限工房】アタノールのことを探るため、好奇心がどうのといってお前にいい顔をして近づいておったのだ、だから──!」


「ドクター」


ドクターは何とかとり繕おうとするけど……有無を言わすまいとする雰囲気を感じ取ったか、途中で言葉を途切れさせ、押し黙ってしまう。


「ドクター、それはあり得ないんだよ。リーズは騎士たちからオイラを助けて、指名手配されて……それでオイラからここに連れてきたんだから」


「なに!?」


「ねえドクター、なんでそうやって隠そうとするのさ。はぐらかさないでちゃんと伝えてよ……オイラ、バカだからわかんないよ、どうして教えてくれないのかとか、全然わかんないよ……!」


「キュウ……」


言いながらどんどん泣きそうな声になっていったキュウは、しまいにはさめざめと泣き始めてしまう。

そんな彼の様を見ていたドクターは……首をかしげていた。


「なぜ教えてくれないのか、だと? ……それがなんだというのだ?」


「……は?」


コイツ、ぶち殺してやろうか?



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