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第27話 没落令嬢とオーバーホール


ヘンだとは思っていたんだ。

いくらマインドコントロールめいたものをされているんだとしても、ドクターの一声と指パッチンでブースターが勝手に稼働したり、機械音声に切り替わったり。

……どうにもキュウ、というか【キカイ】に対するドクターの権限が強すぎるように思えてならなかった。


この世界における【キカイ】というのはモンスターだというのが通説だ。

ぱっと見はマスコットのような存在だけれど、その実凶悪な装備や能力をもっている存在。

けれどその認識は半分くらいしか当たっていなかったんだ。


「いやあまさか、あれだけ【キカイ】のことをモンスターって言ってたのがミスリードで、実際は自動で動く【アイテム】の方が近い存在だったとは……」


そう思えば。

この工房にあるものことごとくが、ドクターの指パッチンひとつで何でも思いのまま動いてしまうのにも納得がいく。

あの指パッチン……【オートマチック】は私の手にした【尸解】と同じく、自分に所有権のあるアイテムに対して干渉することができるスキルなんだ。


「そう、自分に所有権さえあれば……ね」


そこで私は考えた。

ということはこの所有権を更新さえできれば……ドクターに生殺与奪を握られてる状態は、解除することができるんじゃないの? ってさ。


「もしそれができたなら──来るドクターとの戦いの前に、キュウを助け出すことができる!」


というわけでさっそく【イヴェイド】を発動。

かつてキュウの体であったものをありったけアイテムボックスに詰め込み……【無限工房】アタノールへとやってきたのである。


「ドクターいませんように……っと」


軽く扉を開けて中をうかがってみたけど、ドクターらしき影は見受けられなかった。

兵器に必要なアイテムを造り終えて……取り付けにでも行ったのかしら?


「それなら調合中にドクターとバッティング、なんてことはなさそうね」


とりあえずの危険はないと判断し、そのまま工房へと入りこむ。

……急ぐに越したことはない。

兵器が完成するまでに乗り込んで、ドクターを叩ければそれがベストなのだから。


「いつか使いたい、いつか使いたいって思ったけどっ、こんな土壇場で使うことになるなんてね、【無限工房】アタノール……よっと」


ところどころに敷かれたレールやケーブルに引っかからないよう、慎重に……かつ最短距離を通っていく。

目指すは、最奥にそびえたつ大きな天球儀とコンソール……【無限工房】アタノールのマザーコンピューターだ。


この球の中には、あの資料室にあるレシピすべてが入っており、その根元にあるコンソールを操作することで、何を作るか、どの生産道具を経由していくかなどを決めていくのだという。


「ということは、この中にきっとあるはずよね……【オートマタ】」


それが今回のお目当てだ。

【キカイ】と呼ばれるモンスターたちの本来の名前、【オートマタ】。


かつての【フクロウの一族】は、この【キカイ】を作るのを得意としていた。

であればこっちにもデータとして入っているのは自明の理……はたしてその単語は膨大な量のアイテムたちが並ぶ画面の奥底で確認できた。


ということは、だ。


「……キュウはここで生まれたのね、この【無限工房】アタノールで」


【無限工房】アタノールの大まかな構造や使い方は、キュウにここを案内されたときに聞いたものだ。

その時の彼は……いつか【マーケット】で出店した自分の店を紹介してくれた時と同じく、大興奮冷めやらぬ様子だった。


今にして思えばあれは、自分の家のことを自慢していたのね。

このアジト初の客人であるこの私に「オイラが生まれた家はこんなにすごいんだよ!」と言って、その凄さに驚いてほしかったんだ。

実質の家主に等しいドクターじゃ、そういうことできないもんね。


「スゴいわよキュウ、あんたの生まれたこの家は」


……そんなキュウに聞いたことで、キュウを作り直す。

聞くひとが聞けばこういうのも【やりなおし】とか、【胎内回帰】とか言ったりするんだろうか?

ひとりで小さく笑いながら、使用する素材アイテムたちを映し出された画面が示すラインの通りに並べていく。


【ギアボックス】、【インゴット】、【エレキテルチューブ】……そして歯車もたくさん。


「大丈夫……私ならできる」


そう自分に言い聞かせながら、【無限工房】アタノールの稼働スイッチをONにする。


そこから始まったのは、いつぞやに見た【キカイ】制作のプロセス。

【マニピュレーター】と工具が、キュウの体を形にするさまをやきもきしながら眺め……やがて四肢と頭のパーツが完成した。


「これで残りの調合を私がやれば……所有権はこっちに移る、はず」


失敗すればキュウは完全に死ぬだろう。

……不安にならないか、と言われたらウソだわ、ばりっばりに不安だわ。

だって私はまだまだペーペーの【錬金術師】、ドクターの腕前からは程遠い。

そんな私がドクターを基準にしたレベルの調合ができるか、というと……ちょっと厳しいかなって思ってしまう。


ただ……このゲームにおける【錬金術】の定義によれば、万物に魂は宿るもの。

で、あれば──もともとキュウだったこのパーツたちには、キュウの魂が宿ってなければ筋が通らない!


「信じてるわよ……錬金術! 【スーサイド】・オン!」


両手両足、胴に頭。

くみ上げられたパーツたちを放り込んでから、【スーサイド】発動──完成形を思い描きながらかき混ぜていく。

時間にして数分のはずなんだけど……体感にして数時間。


「やっと光り始めた……!」


いつもとやってることが変わらないのに、こうも長く感じてしまうのは緊張のせいなのかしら。

……とはいえ、これで残すところあと──


「──貴様ァ! ワシの【無限工房】アタノールで何をやっとる!」


げ!?




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