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第53話 聖魔大戦_Ⅺ_奇妙な共闘

 別段、疑いがあろうとなかろうと私がくま君をどうこうすることないとだけは断言しておこう。


 しかしぽかーん氏の懸念も分かるのだ。

 普段でこそ、彼らは自由気ままに過ごしている。

 協力プレイに慣れてるからこそ、疑いの念を持ったらチームとしてやっていけなくなる。

 その事を恐れてだろう。


 そしてこのイベントでは、プレイヤーの事情など意に介さずチームを組まされた形。

 何かと文句をつけたくなるところでたまたま目についたのがくま君。

 要は不満のぶつけやすい相手の登場だ。


 それでもね、私はそんな些細な情報で彼を疑う事はしたくないんだよ。

 そもそもの話。ここはゲームなんだから。

 ゲームに本気になるのもいいけどね、本筋を履き違えてはいけないよ。


 ここは疑わずに如何やって協力を取り付けるか考える方が優先すべき結論だ。

 疑心暗鬼に陥らせたら思考が鈍るからね。


 もしかしなくたってそういう計算で仲間割れさせるのがナイアルラトテップの目論見だろうか?


 巨大に成りはじめる魔導書陣営。

 一枚岩ではないところに付け入る隙を作ることで攻略を容易くする。そう思えば理にかなってるんだよね。


 どこからどこまでがナイアルラトテップのシナリオによるものかわからぬ限りは疑いを持つのはやめておいた方がよさそうだ。


「それよりもぽかーん氏」

「( ゚д゚)なんだ?」

「神格の召喚は如何程で?」

「( ゚д゚)痛いところを突いてくる爺さんだな。ぶっちゃけ現状は芳しくねぇ。爺さんとその婿くらいだろ、そんな尖ったステータスしてるの」


 ぽかーん氏曰く、彼のステータス構成は平均的だ。

 40、40、10、10と幾つか尖った部分もあるが、めぼしいステータス更新情報は得ていないらしい。

 この場合は極端に100振ったもりもりハンバーグ君や、一切降らないでステータスを伸ばした私がおかしいのだそうだ。


 彼の場合は見た目からして交渉とは不向きだからねぇ。

 ロールプレイとはいえ、態度が高圧的すぎるんだ。

 そもそも彼の場合は能力が防御系だし、攻めるのも不得意。

 回り回って神格召喚が遅れてしまってるのは自身でも気にしてるところだろうか。


「取り敢えずそこら辺は追々なんとかするとして。まずは拠点に戻ろうか。紹介したい人達もいるから」

「お義父さん、それでは新しく手に入れたアーカムの防衛が手薄に成るのでは?」

「それもそうか。じゃあどうしよう?」

[ならば余を守護神に据え置くが良い]


 心の中からの反応に、そんなことが可能なのかと疑問を呈す。

 帰ってきた返答は自信なさげであるが、可能とのこと。

 『拠点』と『神格』のメリットは何もプレイヤーに与えるステータスの確保だけではないようだ。


 与えた神によって街の防衛が可能に成る。

 確かに五人しかいないプレイヤーだけで回すのは大変だからそれもシステム的にはありなのかな?

 一人納得してるところにもりもりハンバーグ君が答えを出さない私の様子を伺ってくる。


「うん、取り敢えずクトゥルフさんが守護神になりたがってるので据え置いてみようと思う」

「( ゚д゚)おい、新情報」

「流石お義父さんですね。神格とも仲がよろしいようで」

「君にだっていつか心を開いてくれるはずだよ。でもやり方がわからないんだよね。どうすればいいのやら?」

「( ゚д゚)専用メニューとか出て来ないか? この中で拠点持ってて尚且つ神格召喚成功者は爺さんだけだ」

「おお、そう言えばそこは調べてなかったな。情報感謝」


 気にしていたのは数値の上昇くらいだったからね。

 よくよく調べてみれば取得した拠点の横に鉤括弧が置かれており、下に配置された青い文字で表記された召喚済みの神格を設置できるようだ。


 しかし黄色い文字の友好を結んだ神格を設置するには至らなかった。


 守護神の設置自体は拠点獲得者にのみ得られた恩恵。

 神格を召喚しただけでは出て来ないギミックに、情報の後出しが過ぎると唸った。


 取り敢えず現状はこんな感じにした。


 ◼️拠点/アキカゼ・ハヤテ

【1】ダン・ウィッチ村[ガタトノーア]

【2】アーカムシティ[クトゥルフ]


 ◼️召喚済み神格

 クトゥルフ/アキカゼ・ハヤテ【設置済み】

 ガタトノーア/もりもりハンバーグ【設置済み】

 ヨグ=ソトース/ウィルバー・ウェイトリー【設置不可】


 ダン・ウィッチ村にウィルバー君のお父さんを設置しようとしたら弾かれてしまったので、仕方なくガタトノーアさんを置いた。


「! お義父さん、ウチの神様に何かされました?」


 表情に驚愕を添えて、もりもりハンバーグ君が私を見ている。

 向こうからコンタクトがあったのだろうか?

 困惑するような、戸惑いの表情の中で、何処か嬉しそうな一面を見せている。


 当時、街の中でクトゥルフさんから呼びかけられる事があった時のように、彼にもその経験が今しがた得られたらしい。


「君の神様をダン・ウィッチ村の守護神に据え置いたのだけど気に入ってくれたのかな? そうだったら嬉しいね」

「とても喜んでいるみたいです。今まで一つのところしか縄張りを持っていなかったらしいので。多分それ以外にも言いたい事はたくさんあるらしいのですが、感情が前に出過ぎて言葉にならないんだと思います」


 そう結論づけるもりもりハンバーグ君は、父親の顔をしている。そういえば君の娘さんは無口だものね。

 息子さんは元気いっぱいだったようで、その経験があったのだろう。当時を思い出しているようだった。

 ヤディス君がそうであるように、ガタトノーアさんも精神年齢が若いのだろう。

 そもそも意識があるのかすらあやふやな存在である。


「それは良かった。その村にはヨグ=ソトースの落し子であるルイス君や人に近い肉体であるけど本質が異形のウィルバー君もいるからね。お父さんともども仲良くしてあげてほしい」

「はい! そう伝えておきます」

「( ゚д゚)側から聞けばどんな地獄だよ、その村。その上住民が爺さんの眷属なんだろ? 絶対行きたくねぇわ」

「そんなそんな。良いところだよ? サービス精神旺盛の人たちで手を取り合って共生してるし、お土産だってたくさん用意してるんだ。絶対気に入ってくれるはずだよ。やはり奉仕種族は素晴らしいよね。世の中のみんなが奉仕種族になるだけでこの世界から争いは消えるのに」

「( ゚д゚)理想はなんら間違っちゃ居ないが、発想が旧支配者そのものだぞ。自覚あるか?」

「えー」

「|◉〻◉)じゃあモヒカンさんはここに居残って貰えば良いじゃないですか。あ、サイちゃんは僕が一緒に連れて行きますね?」

「( ゚д゚)おいこら魚類。人の幻影を持ち去ろうとは良い度胸だなこの野郎。分かったよ、行くよ。そのかわりこの街の防衛は頼んだぞ?」

「|◉〻◉)お姉ちゃんに伝えとくー」

『勝手なこと言わないでくださいます?』

「|◉〻◉)やべ、お姉ちゃんにバレた。じゃあ僕はここら辺で」


 シュタ、と片手をあげてスズキさんが持ち場に帰った。

 そして束の間、私の影が伸びてルリーエが優雅に浮かび上がる。

 先程までの軽快さが嘘のようにおっとりと、どこかの令嬢のような仕草でみんなにお辞儀する。


『ウチの妹分が失礼致しましたわ』


 心に直接響く声で謝罪する本体。

 スズキさんが魚の方で、人型の方がルリーエなのかと( ゚д゚)氏は頭がこんがらがったような、片付かない表情だ。


「( ゚д゚)お得意の漫才か? にしては手が込んでる」

『あの愚妹とは血を分けた姉妹ですのよ』

「そういう設定なんだ。ちなみにこれは過去改ざんの影響ね。私の預かり知らぬところで勝手に増えたんだ。聞いた時はびっくりしたよ」

「( ゚д゚)やっぱ爺さんは面白すぎるわ。聞いてもないのにバンバン未知の情報が開示されてくし。情報班はご愁傷様だけどな」

「カネミツ君は喜んでくれているよ」

「えっ」

「えっ」


 私の言葉を聞いたもりもりハンバーグ君が意味深な発言を残した。それに対して自分の感想のどこに食いついたのか知らずに同じ言葉を返した。


「あれ? そんなに喜んでなかった? だってあんなに楽しそうに頭を抱えて床を転がってたのに。きっと楽しくて心が弾んでしまったのかと思っていたよ。違うんだね」

「( ゚д゚)爺さん、身内は大事にしとけよ?」

「肝に銘じておくよ」


 大量のスズキさんシスターズに見送られて、私達はアーカムシティを旅立った。

 守護神となった途端、街の住民がサハギンに置き換えられたのはなんの因果か?

 サハギンというには些か太々しい顔ぶれ。

 そこは既にインスマスの民に支配された空間となっていた。


 どうも守護神の効果の様で、街の住民の種族を置き換える様だ。じゃあダン・ウィッチ村の住民はどうなってるんだろうか?


 掌握領域で領域内を一っ飛びすると、村一面に触手の化け物が点在するでは無いか!

 それはかつてもりもりハンバーグ君が変身して神格をその身に宿した時の姿と酷似していて。


 姿は二足歩行でありながら、長く伸びた触手が身体中を覆っている奇怪な生命体になっていた。

 普通なら正視に耐えられずSAN値チェックするところだが、メンツが正気度を保ったまま異形に身を落とした傑物しかいないのでそれを受け入れられた。


 だが村人たちは決して自分たちの恩人を忘れないようで、私の姿を見るなりいつもと同じ様な態度で接してくれた。

 妙に細い触手をビタンビタンと過剰に振って。


 意思の疎通はできているのだけど、やはり目の行き場が困るというか。

 と言うより、ガタトノーアさんが喜んでいた理由はこっちだったりするのだろうか?

 奉仕種族の獲得。

 その力ゆえに支配者として君臨したガタトノーアさんは、近寄るものは自分の糧としてきた存在だ。

 敬うものすら持たずに長い間一つところにいたと聞く。

 その地がヤディス君だと聞くのだけど、それ以外の拠り所ができたのだろう。

 もりもりハンバーグ君に心を開く程度には成長したのかもしれないね。

 これは喜ばしい変化である。


 そして聖魔大戦の本当の意味を知る。

 これは魔導書vs聖典では決して無いのだと。


 確かに神とその信徒によっては相容れない存在が複数存在する。

 けれどそれは些細な問題なんだ。


 真相はもっと根深く。

 何だったらいまだに顔すら見せていないけど。


 本質はようやく掴めていた。


 これは神格をより深く掘り下げる。

 もしくはプレイヤーとの絆を深めるための世界なのでは無いだろうか?


 一見して争奪戦の装い。

 わかりやすいルールすらも見せかけで、もっと単純に神格の裏の一面を知ってほしいのではないかと、あの曲者のGMの一面が垣間見得た。まったく、回りくどいことをするんだから。


「おかえりなさい! おじさん」

「ただいま、ウィルバー君。お父さんのお迎えに成功したんだって?」

「はい! それを伝えたくてお待ちしたんですが、どうしてもう知ってるんですか?」

「私くらいになるといろんなところに耳があるのさ」


 側に寄り添うルリーエに瞳を向けると、察したのかウィルバー君が得心する。

 それ以外にも積もる話はあるからと手を引かれ、私たちはウェイトリー家へ迎えられた。

 すっかり変わり果てた家族によって。

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