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第54話 聖魔大戦_Ⅻ_奇妙な共闘

 あれから私達は家族水入らずで語らうウェイトリー家に迎え入れられ、それぞれの神格と幻影を交えてお話しした。


 まぁあれだよね。それぞれがどの様な立ち位置でこの世界に君臨するかのすり合わせはしておきたいよね?

 こちらのスタンスはその辺はっきりしているので説明しやすかった。

 それは種族の垣根を取り払うことを目的とした慈善活動だ。


 なるべくなら自らの意思で種族変更してもらいたいけど、聖典側がそうさせてくれなさそう。

 向こう側からしたら信者を減らされる訳だからそこは奪い合いだもんね。争う論点になるのは仕方ない。


 なにせ大会のルールがそうだと開示されたモノ。

 そうであれば向こうはこちらの邪魔をしてくるわけで、そこら辺のことをヨグ=ソトースさんにお話をしたら、


[その様な有象無象に構うほど余は暇ではない]


 などの力強い言葉をいただいた。

 うん、まぁこの人(?)も王様気質で同時に子煩悩である。

 ウィルバーくんを自慢の息子として捉えてるし、なにやら新しい力を与えていたよ。眷属思いのお父さんみたいだ。

 そりゃ召喚するための儀式を整えたのは彼だし、それくらいのご褒美はあげるか。


 場を整えたのは私だけど、それは私から言い出した事なので別にいい。そもそも辺に敵対するよりお近づきになっておこうって下心もあったし、そこら辺は叶えられたからね。


[その心、向こう側へダダ漏れであるぞ?]


 おっと、いけない。

 私は口が滑った様なニュアンスでニコニコしながらウィルバー君に笑いかける。

 なんせ彼のイメージがそのまんまヨグ=ソトースさんに伝わってるイメージがあったから、よもや心を読んでくるとは思わなかったもの。

 クトゥルフさんは私の心に住んでるから別に驚きはしないけど、ヨグ=ソトースさんは別じゃない?


 でも神格の権能の一つだとすれば納得はできる。

 そりゃ超常的な現象の一つや二つ起こせるか。


[オマエ、オレサマ、カンシャ、シメス]


 と、同時に私の頭にノイズ混じりのメッセージが届いた。

 まだ言葉に慣れてない感じからするにガタトノーアさんかな?

 意識の中でそれらしく振る舞うと、もりもりハンバーグ君の降ろしたガタトノーアさんがウネウネ蠢いた。

 どうやら当たりらしい。

 ヤディス君も嬉しそうにその触手と握手して喜んでいる。

 なんかそのまま捕食されそうな絵面だけど気のせいだよね?


[あの者の求愛行動は食事と同等なので捕食されても彼女は一切の後悔もないだろう。ウチのと違って従順でいい子だ]

『|◉〻◉)!』


 あ、反応した。

 クトゥルフさんの声も相手にダダ漏れじゃないですか。

 他の誰かと比べるのはタブーですよ?

 自分だけがその良さをわかっていると言っても相手は言葉にして伝えて欲しいモノですから。


[覚えておこう。そういうところは普通に生活しているうちでは気付かぬところ故な。肝に銘じておくとする]


 ですって。よかったですね、ルリーエ。


『|◉〻◉)b』


 君も顔文字でコンタクト取るのやめなさいよ。

 二人して不器用なんですか? 私も人のことあまり言えませんが、こんなことまで私の真似しなくったっていいんですよ?


「お義父さん、そろそろ話を詰めましょうか」

「ああ、そうだね」


 もりもりハンバーグ君に言われて思考の渦から帰ってくる。

 ぽかーん氏だけがまだ神格を降ろしてないので仲間外れと言った顔つきだ。

 幻影からコンタクトを取っているのでまるっきり仲間外れというわけでもないけどね。

 それでも疎外感を感じてるかもしれないね。

 だって私ともりもりハンバーグ君の独り言がうるさいもん。

 神格の声はプレイヤーの脳内に直接反響するから他の人には全く聞こえないんだよね。

 だから第三者からしたら独り言がうるさい人になるんだ。


 ヨグ=ソトースさんの場合は眷属のウェイトリー家全員に聞こえてるっぽい。そして直接私にも聞こえたあたり、ここら辺は友好関係を結んだのがうまく生きてるんだと思う。

 全く違うかもしれないけど、他に情報もないからそう思ってるだけ。まぁ困ったら別の可能性を考えるよ。


 さて、思考は大きく脱線したが、今後私達の方針を決めていく。私はダン・ウィッチ村周辺とアーカムシティに至るまでの地図を羊皮紙に新しくペンで書き起こしていく。

 そこにもりもりハンバーグ君のいた場所であるカダス、レン高原からどのルートを通ってアーカムシティに到着したのかを合体させて全員に情報の共有をした。


 ムーンビーストとは同盟は組めたが掌握まではできていないらしい。まずはそっちの応援として私が派遣される。

 道案内はぽかーん氏がやってくれるそうだ。


 もりもりハンバーグ君はダン・ウィッチ村に残って居残り。

 拠点でできる事を検証してくれるそうだよ。

 私はそこら辺ノータッチだったからね。

 情報は発掘して丸投げしていたツケがここにきて出てきているみたいだ。


 しかしもりもりハンバーグ君ならそこら辺心配要らない。

 彼もまた第二世代。カネミツ君やオクト君と同じく情報検証勢だ。

 でもそれを言ったらぽかーん氏も第二世代の筈なんだけど……


「( ゚д゚)なんだよ爺さん。俺の顔になんかついてるか?」

「いいや、なんでもないよ。相変わらずイカした髪型だと思ってね。私ならその髪型にする勇気が湧かないと思っただけさ」


 あえて貶めず、カッコいいねと褒め称える。

 満更でもないのか( ゚д゚)だろ? イカスだろ」とご満悦だ。

 恥ずかしくて無理だという気持ちは吐き出さずに飲み込んでいる。


「で、スズキさんは急に出てきてなにしてるの?」

「|◉〻◉)え、それを僕に聞きます?」


 突如私の影が伸びてスズキさんがぬるりと這い出る。

 そしてこれ見よがしに私の前で頭から背中にかけて生えてる鰭を長櫛で整え始めたのである。

 もしかして私がぽかーん氏のモヒカン褒めたから自分も褒めて欲しくて真似してるのかな?

 この人時々よくわからない行動起こすからな。

 ルリーエは我関せずといった感じでクトゥルフさんと駄弁ってるし。


「取り敢えず鰭を痛めちゃうから無理に梳かさない方がいいよ」

「|ー〻ー)あぁん、いけずぅ」


 スズキさんから長櫛を取り上げると涙を流して縋り付いてくる。

 体を労ってあげたのに何故か周囲の視線はその対応は酷いだろうと悪者に向けるものになっている。

 はいはい、どうせ私は乙女心のわからない男ですよ。


 真っ先に茶番を始めたこの人が悪いのにね。

 さてそれはともかくとして、ヨグ=ソトースさんの今後を聞くことにする。


[ふむ。特に余達は急ぎの旅でもない。しかしそうよの、主らの手伝いをしてやっても良いと考えている。こうして我が子も懐いているし、そしてガタトノーアと言ったか。そこの者とも少し話して似たような性格であると知れたからな。なに、これも余興よ。目的ができるまでの場つなぎ的な余興と捉えれば良い]


 おや、随分と好意的に解釈してくれたものだ。

 やはり触手生命体同士惹かれ合うのだろうか?

 そういう意味じゃクトゥルフさんとツァトゥグアさんはそれほど触手まみれ! って感じじゃないしね。

 やっぱり生まれも影響してるのだろうか?

 それはともかくとして、せっかくその気になってくれてるんだし、ここは協力体制を結んでおこう。


「ではお願いしますね。ウィルバー君。私は少し出かけるけど、お土産は何がいい?」

「おじさん、僕にお土産を買ってきてくれるの?」

「おじさんは生憎とここの世界のお金を持ち合わせてないんだ。でもちょっと面白いお土産なら持ってくることもできるよ。例えばこういう者はどうだろうか?」


 フレーバーの一つ。神格武器であるリングを手渡してみる。

 他人に渡せるか不安だったけど、譲渡ではなくおくだけなら可能みたいだ。プレイヤー同士じゃないからいいのかな?

 それはそれで良し。


「これ! ルイスに使ってみせたリングだね? 僕にくれるの?」

「預かっていてもらうだけさ。そして面白いアイテムを持ち替えれたらそれと交換して欲しい」

「うん、いいよ! でもおじさんは困らない?」

「私には頼れる相棒がいるからね」


 このカメラ然り、そして変質化するブーメラン然り。

 目の前でカメラをブーメラン変えてやれば、何故か私の横にやってきてドヤ顔で胸を張ってるスズキさん。


 君は呼んでないよ?

 私のあまりな態度に悔しそうに突然泣き出すスズキさん。

 膝立ちで地面をドンドンと叩く演技は迫真だ。

 この人はすーぐ場を濁すんだから。


 それに、君はもう私の仲間じゃないの。

 道具以上に仲間として見てるから、それ以外でまで出張ってこなくていいでしょ?


「|>〻<)ハヤテさん……僕が間違ってました。何にでも嫉妬してしまって恥ずかしい限りです。これからはもっと役に立てるように精進します!」


 なんでそこで感動のシーンみたいになってるの?

 急に三又の矛を磨き出してイキイキすだす。

 出番を勝ち取らないと死ぬ病気かな?

 ともかく、話を進めるよ。


 ヨグ=ソトースさんはもりもりハンバーグ君と一緒にダン・ウィッチ村とアーカムシティを気にかけてくれるようだ。

 ウィルバー君はもりもりハンバーグ君に師事して魔術士として色々勉強するみたいだよ。

 これからどう成長していくところか非常に気になるところだね。

 って言うかこれもうイベントでしょ?

 NPCがプレイヤーに師事するとか今後の成長値に影響しそうだもんね。

 ものすごく攻撃的な魔術師になっていたりして。


 もし私が弟子を取ったらどのような成長を遂げるか楽しみだな。特に彼は成長が早いからね。

 私のことをおじさんと呼ぶけど、見た目だけなら彼の方がすっかりおじさんだ。

 精神年齢を加味すれば私はおじいさんだからそんな事でめくじらは立てないけどね。


 さて、方針を決めたら行動だ。

 私とぽかーん氏でアーカムシティに赴き、スズキさんに置き換えられたアーカムシティを出て南に進む。


 レン高原は海を越えた先にあるそうだ。

 そういえばアンブロシウス氏も港町に居ると聞いた。

 あれから会ってないけど無事でいてくれてるだろうか?

 彼の戦力ならまず撃破されないと思うけど、相手にシェリルも居るから油断できない。

 あの子は単体ならそう怖くないけど、軍を率いた時の統率力はバカにできないからなぁ。


「( ゚д゚)ほら爺さん、船乗るぞ」

「今行くよ。そんなに慌てなくてもいいじゃないの。急ぎすぎると何かを見落とすよ?」

「( ゚д゚)いや、残り時間少ないのに悠長にしてる余裕すらないんだが?」


 全くもってその通りなのでぐうの音も出ない。

 とはいえのんびりと見回る余裕すらないのはねぇ。

 こうやってカメラを向ける余裕くらい欲しいものだよ。


 そして海に向けてカメラを向けたその時だ。


 海のそこからこちらに向かって黒い影が近づいていた。

 とても大きい、船すら軽々と超える大きさ。

 私の知りうる水棲生物でこの大きさとなると限られてくる。


「スズキさん、あれはなんだと思う?」

「|◉〻◉)え、どれです?」

「あれだよ、船の下。見えない?」

「|ー〻ー)えっと、どれの事です?」


 私のカメラには映るのに、スズキさんが目視では確認できないと問うてくる。

 慌てる私達の様子のおかしさにモヒカン頭を尖らせたぽかーん氏がやってきた。

 そして撮影したデータをフレーバーとして渡して確認してもらう。


「( ゚д゚)なんだこりゃ? この船って、今俺たちが居る船か?」

「ええ」

「( ゚д゚)でも現状なんも見えねぇぞ?」

「スズキさんでも見えないらしいんですよね。私のカメラだけが捉えられる怪奇現象です」

「( ゚д゚)そりゃ謎だな。それも神話武器の類か?」


 ブーメランに変質するだけかと思いきや、カメラそのものが神話武器だった可能性?

 そんなこともあるのか。


「入手した経緯を考えると100%その可能性が高いですね。手渡してくれたプレイヤーの名前を全く思い出せないんですよ」

「( ゚д゚)なんだそりゃ。くま公の雇い主と同じ奴か? 厄介な匂いしかしねぇぞ」

「どの道、これを通して見る事でこれから何かが起きると思うんです」

「( ゚д゚)見えてる物が今現在なのか、それとも未来なのかで価値が変わってくるな。どっちみち今考えてもしょうがねぇことは考えるだけ無駄だぜ? こっから先はなげーぞ。休める時に休んどきな」


 それ、とんでもないフラグじゃないです?

 もしこのカメラで通して見た物が未来で起こる現象とか、とんだ厄介ごとの前触れじゃないですか。

 でも海に生物ならワンチャン仲良くなれる可能性はあるか。

 そんなことを考えつつ、海上で波に揺られて私はその時を待つことにした。

 どうか何事もなく船旅が終わりますようにと願いつつ。

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