空飛ぶコタツに揺られること30分。
すっかりコタツの民と化した猫っぽい生き物は、頭だけこたつからニュッと出してすやすやと寝顔を視聴者に見せていた。
私もお茶を飲みながら風景を眺めてたまに撮影している。
スズキさんはさっきからクトゥルフさんの編みぐるみを作っていた。ずんぐりむっくりとしているのだが、意外と似ているあたり流石だ。
荒野はそろそろ終わりかな?
少しだけ海の匂いが近づいてきた気がする。
ここじゃ私もすっかり海の民のようだ。
近づくたびに実家のような安心感を覚える。
コメントもどこかのんびりとしている。
そして、何かの爆発音がこちらへ向かってきた。
また聖獣の類かな?
私がクトゥルフの鷲掴みを構え、スズキさんが一つ空いてるコタツの場所を気にしていると、
[ギャォオオオオオオオオオ!!!]
:なんか明らかにやばいのが食いついた件
「でも求めていた相手じゃないのでスルーで」
「|ー〻ー)ですね」
[◼️◼️◼️♪]
:聖獣www
:コタツ気に入ってんじゃねーよ! 一緒に入ってるのは神敵やぞ!
:すっかり心ゆるしやがって
:もうコタツの魔力に取り憑かれてしまったんや
:お外寒いもんねー
「すっかりコタツが気に入ってしまったようですね。猫はやはりコタツが正解でした」
:俺はツノが生えてる猫を知らんのやが
:大丈夫、俺だって暴れるだけで竜巻起こす猫は知らない
:スフィンクスとかそっち系の聖獣では?
:猫でそんなのいたっけ?
:スフィンクスはどっちかといえば犬系
:人面犬だろ
:人面犬wwww
正体はわからないものの、このままじゃ直撃コースなので掌握領域で位置を交換しつつ障害を排除。
勢いよくそのまま走り去っていったのでやり過ごせたかな?
走り去っていくのを見送り、私たちのコタツは海の上を流れていく。
:この人達、イベントをスルーしやがった
:明らかに放っておいていい奴じゃなかったろ、アレ
「そうは言ってもこの子をどうにかしないとね。散策も満足にできやしない。今はまだ落ち着いてるけど、いつまた機嫌が悪くなるかわからないじゃない?」
:機嫌っつーか、虫の居所っつーか
:それよりこのコタツ、どんな原理で浮いてんの?
:今更?
「そう言えば知らないや。スズキさん、原理は?」
「揚力です」
:揚力www
:揚力って何?
:飛行機の羽根が揚力で浮いてるとは聞いたことあるな
:飛行機www 歴史の授業で習った事あるわ
:今の時代じゃ家から出ないもんな
:それ
「私も詳しくは知らないけどね。世代だけど通勤は電車だったから」
:あー、そういえばアキカゼさんリアル体験者かー
:外の世界ってどんな感じなんですー?
:早速質問がドリームランドに関係なくて草
「|◉〻◉)海から何か来ますね」
あみぐるみの手を止めて、スズキさんが下からの気配を察知する。
「浦島太郎的な?」
:亀も助けてねーのにかwww
:海の上、コタツに乗った三人、何も起きないわけもなく……
:海の上でコタツなんてパワーワードがすぎるぞ!!
:ボートならワンチャンあった
:ねーよ! 沈没しておしまいだよ!
「あれ、これって前回の写真のアレかな?」
コタツの真下に、グラーキを思わせる影が落ちたと思った時だ。海の底から幾重もの棘が伸びて、
コタツを逸れてどこかにいった。
うん、掌握領域でコタツの位置を入れ替えたんだ。
猫っぽい生き物ものびのびとあくびしてるし、まるで気がついてない感じだ。呑気なものだね、コタツの同居人は。
:これもスルーしていくのか
「探してる相手じゃないからね」
:あ、向こうがこっちに気がついた。追ってくるぞ
:魚の人、あみぐるみの二つ目を作りはじめてるんだが
:なんというマイペースwww
:アキカゼさんに任せとけば安全だしな
:なんという安心感
:と言うよりも、出会う相手が最初から殺意高すぎるんだが
:それ
:アキカゼさんじゃなきゃ絡まれた時点で死んでるぞ
「|◉〻◉)逆にバックにヨグ=ソトース様がいるから絡まれるまでありますけどね」
:は?
:いや、それは初耳なんやが
:え、邪神と同盟組んでる系?
:だから聖獣が突っかかってきたのか
:自業自得じゃねーか!
「ほぼ言いがかりなんだよねぇ。陣営入りも成り行きだし」
:無自覚の煽りはやめてもろて
:中には陣営に入りたくても入れない人もいるんですよ!?
:入った結果がこれだと知ってて入りたい奴、居る?
:ソロでいるより気持ちが大きくなれるとか?
:ヨグ=ソトース相手にそんな態度取れるならどこでもやっていけそうだけどな
:さっきから敵対者に煽りしか入れてない自覚ないんやろなぁ
:なんか可哀想になってくるやで
:それな
:お、港発見
:めっちゃこっち見て騒いでる件
:そりゃ船でもなく浮いてるコタツなんて何事だと思うだろ
:それ以前にコタツなんて見たことないだろ
:まだ怪異の方が理解できそうまである
:草
:棘怪人振り切れそうか?
「あれは多分グラーキだね」
:グラーキ?
:ゾンビの親玉
:あ、そういえば前回戦ってましたね
:あれ? 聖典陣営に倒されたんじゃ?
「アレはカケラに過ぎないよ。どうもこのカメラはそれを写し込んで回収する役割を持ってるみたいだ」
:今明かされるカメラの謎!
:明らかにやばいブツじゃねーか
「ナイアルラトホテプ曰く神格武器らしいからね。私のブーメランと一緒だよ」
首にかけたカメラを外して変質かさせたロイガーをコタツの上にあげると、コメントが勢いよく流れ出す。毎度毎度飽きないものだ。
考察が捗るのかな?
「|◉〻◉)港につきました。ここ、どこでしょう」
「そろそろ降りようか? そこの猫の人はそのままで。人の多いところで暴れられても困るからね」
「|ー〻ー)はーい」
:良かった。ここもスルーしていくのかと思った
「探し人が見つかったからね。預けるなら今だと思った」
:【悲報】猫の押し付け相手が見つかっただけだった
:移動手段はずっとコタツ安定かな?
:魚の人、コタツにリード付けてやがる
:シュールwww
:ペットかな?
「|◉〻◉)揚力で浮いてますので、どっちかに重心傾けてないと明後日の方に行っちゃうんですよね。だからこそのリードです」
:まだその説を押すのか
:もう誰もそれ信じてねーから
:それ以前に興味の対象絶対魚の人だぞ?
:魚人来襲すれば仕方ない
:仕方ないじゃすまないんだよなぁ
「|◉〻◉)少しイメチェンしますか。ハヤテさん、影借ります」
「どうぞ」
ぬるっと影に入り込むスズキさん。
そしてお化粧直ししてもう一度私の影から出てきてコメントが騒然とする。
「|◉〻◉)ハロー。これが人間モードの僕だよ!」
:誰?
:リリーちゃん?
:ふぁ!? どうしてリリーちゃんがこっちに?
「彼女が私の幻影だからだね。因みに他の子とユニットを組んでアイドルデビューも果たしている。既にどこかで見たことある人もいるんじゃない」
:やっぱりお前幻影だったのか!
:どうして黙ってたんですか!?
「きっと彼女なりの配慮ですよ。ね、スズキさん?」
「|ー〻ー)その方が面白いと思ったんでー」
:意思疎通の取れてない主従がこちら
:草草の草
:でも今回はどうしてバラしてくれたんです?
「どうせいつかバレるだろうし、なら今バラしておいた方がお得かなって」
:こっちきてる時点でライダーではないもんな
:むしろなぜ否定してたのかの方が謎
:きっと面白いからで片付けるぞ、この人
:人かなぁ?
物議を醸し出すコメント欄。
まぁ詳しくは本人に聞いてって感じで。
「やぁ、お久しぶりだねとろサーモン氏。相変わらず忍ぶ気ないでしょ、君?」
「ぬ、前回のクリアライダーが何用で?」
「そう警戒しないで。もしかしたら君の役に立つかもしれない相手を連れてきたんだ。リリー、あの子をこちらに」
「|◉〻◉)はーい!」
リードを引っ張り、揚力で浮いてるコタツを手繰り寄せてとろサーモン氏に預ける。
そしてコタツのカーペットを鷲掴みし、勢いよく振って中で寝てるお猫様を引き摺り落とした。
引き摺ったのは相手が抵抗したからだ。
どれだけコタツの民になる気なんだろうね、この子は。
:リリーちゃん、パワフル!
:中身魚の人だから
:カーペット、束ねるぐらいに硬かったんだな
:三人乗せて荒野と海の上渡ってきたんやで? そりゃ硬いやろ
が、そんなコメントを他所にスズキさんはカーペットの横にある空気穴を外し、空気穴から勢いよく抜き出る空気、そして空気が抜けて萎むコタツという怪現象を視聴者へと叩きつけてSAN値チェックのスペシャルコンボをお見舞いしていた。
萎んだコタツセットを畳んで丸めてポケットにしまうまでが彼女の中のテンプレらしい。
ツッコミ待ちらしい顔をしてくるので私は敢えてスルー。
とろサーモン氏の腕の中でコタツ欲しさに暴れるお猫様を視界の端にやり、私とスズキさんはその場を全力ダッシュで駆け抜けていった。
気に入ってくれるといいのだが。
:本当に押し付けていった、この人www
:顔見知りっつーから身内かと思ったけど、普通に敵対した相手じゃねーか!
:とろサーモンて料理ネーム連盟の幹部だろ?
:あいつのあんな顔初めて見たわ
:普段飄々としてるのに、さっきはブチ切れそうだったもんな
:そりゃあんなよくわからないもの押し付けられたら誰だってそうなる
:案外うまくいくんじゃね?
:どうしてそう思う?
:猫ちゃんはコタツから追い出したアキカゼさん達が憎い
:とろサーモンだって同じだろ?
:脆い共闘条件だなぁ。コタツ与えるだけでホイホイ裏切りそう
:料理が名前の人かわいそう
「|◉〻◉)ハヤテさん言われてますよ?」
「言わせておけばいいんだよ。さて、もう捲けたかな?」
:捲けてないんだよなぁ
:物凄い形相で追ってきてる件
:そりゃ前回あれだけコテンパンにされたら
:むしろあそこまでフレンドリーに行けるアキカゼさんがおかしい
:それ
ひどい言われようだよ。まぁそんな気はしてたけど。
だってさっきからなんか体が重い気がするし。
「|◉〻◉)ここ、聖典側の拠点だったぽいですね」
「あー、やっぱりそう思う? 私もそんな気がしてたんだ」
:拠点だと相手陣営の行動阻害ができるんでしたっけ?
:その拠点に相手が何人いるかで行動阻害のパーセンテージが上がっていくらしいぞ
「ここであったが100年目、覚悟ぉ!」
「人違いだよ」
斜め上から袈裟斬りに振り下ろされた忍者刀をしゃがんで躱す。
初めから必殺の一撃ではなかったのか、忍者刀を捨てながらその場でバックステップ、懐から撒菱を投げ捨て距離を取ると満を辞して宝貝を披露した。
そのやれるだけやってみるスタイル嫌いじゃないよ。
でもね、誰を相手にしているのか忘れない方がいい。
「残念だけど食らってあげるわけにもいかないんだ。掌握領域」
「ぬ、既に領域展開済みであったか!?」
「撒菱+宝貝+コタツ」
「|◉〻◉)あぁ! 僕のコタツがーー!」
「ちょうど武器が欲しいと思っていたんだ。良かったね、スズキさん」
「|ー〻ー)ぶえー、もっとかっこいい武器が良かったです」
「その都度取り捨て選択していけばいいじゃない」
「|◉〻◉)それもそうですね」
:とろサーモン氏、今の流れにブチ切れる
:そりゃ必殺コンボを使い捨てにされるって聞けば誰だってそうよ
:クトゥルフの能力やば過ぎない?
:前回優勝者が弱いわけないんだよなぁ
:ソロできたこいつが悪い
[余もそう思う]
:クトゥルフ様まで同意してるじゃねーか!
:って、アイエエエエ!? ナンデ、クトゥルフ様ナンデ!?
[余も暇を持て余しているのでな。こちらに駆けつけた次第だ。構わぬか?]
「はいはいいらっしゃいクトゥルフさん。別にわざわざコメント残さなくたっていいのに。来てるのはなんとなくわかってましたよ。あ、こたつ入ります? ほらもうちょっと右寄って」
「|◉〻◉)あれはクトゥルフ様が座るのにふさわしくないです」
「まぁ庶民向けだもんね」
:そういう問題じゃない!
:世界の半分を支配してる王にこの配慮
:配慮してるか? 不敬では?
:リリーちゃんですら嫌がってるじゃんか
:やっぱ神格を一番に思ってるのは幻影か
:リリーちゃん幻影説は何も間違ってない説
[良いのだルリーエ。余は今王としてではなく、アキカゼ・ハヤテの友として来ている。コタツと言うのを体験してみるのも悪くはない]
「|ー〻ー)クトゥルフ様がそう仰るんなら……」
:俺たちは一体何を見せられているんだ
:神格と幻影の仲睦まじい風景やろ
:そこに割り込む異物が一人
「私は仲人だよ?」
:と被告人は訴えており
:ま、アキカゼさんだからこそこの二人がラブラブなんやろ
:果たして二代目はここまでグッドエンドに導けるのか?
:プレッシャーかけるのやめろや
:絶対ルルイエ異本のライダーやりたくないな
:それ、毎回この人と比べられるんだろ?
まーた私が悪者扱いだよ。
まぁ思い当たる節は多いのでいいんだけどね。
今は夫婦水入らずでゆっくり腰を落ち着けてもらえば良いんじゃないかな?