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第12話 ドリームランド探訪_Ⅲ

 とろサーモン氏を横にコタツでイチャつき始めるクトゥルフさんとルリーエ。この二人の邪魔をさせる訳には行かないと仲人の私はなんとか逃げる算段を講じる。


「さて、とろサーモン氏。悪いけどここは引いて欲しいね」

「怨敵を前に引く理由が見当たらぬでござるがな?」


:そりゃそうだ

:訳もわからずコタツ猫を預けられたら誰だってそうなる

:むしろアキカゼさんが賞金首の自覚なさすぎ


 煽んないでよ。

 ここに至っては誰かの足を引っ張るより敬う神格と仲良くした方が得られるものが大きいんだ。

 確かにそう言うシステムではあるけれど、それを行うのは神格との意見が合致した時の方が断然良い。

 プレイヤーの判断だけで突っ込むのは愚の骨頂とも言えるのだ。


「あいにくとこの件については我が神も同意している」


 おっと、神様との共通の敵と認識されてしまったか。

 ならば戦うほか無いね。


「それは残念だ。変身する猶予を与えよう」

「その減らず口がいつまで叩けるか見ものであるな、来れ元始天尊、我が身に力を与え給え。神格召喚!」


 とろサーモン氏の身に雷が迸る。

 その様は突如雷に打たれた被害者のようにも見えて、しかし倒れ伏すことはなく纏った雷を徐々に肉体に形作っていく。

 土煙が明けると、そこには中華的な正義のライダーが佇んでいた。


「行くぞ、宝貝三重操作──〝雷・仙・印〟」


 言葉から察するに頭文字を取ったか、それとも文字のどれかを当てはめたかのような合成宝貝と言ったところか。

 私の掌握領域と同様に、向こうは宝貝そのものを合わせて使うことができるようだ。原作と違うのでは無いか?

 ツッコミどころは多いが、それだけとろサーモン氏に任せている部分もあるのだろう。


 案外後続は育っているのかもしれないね。


「よそ見していてもいいのか?」


 迫る雷公鞭。しかし予測していたよりも速度が速く、周囲一帯を巻き込まんとする威力を有していた。

 成る程、合成したのは宝貝の属性か。

 宝貝種は雷公鞭で固定、そこに異なる宝貝の属性を付与して扱うのだね?

 それは見方によっては脅威と言える。

 しかし領域展開済みの私には関係なくそれらも搾取対象だ。

 有り難く頂かせてもらうよ。


「掌握領域──」

「させぬぞ?」


 むしろ本命はこっちであるとばかりに、もう一人のとろサーモン氏が私の影からぬるりと現れた。

 スズキさん専用の通用路だとばかり思ってた影に潜むなんて、忍者みたいだね!

 忍者刀が背後より突き刺さり、私の心臓を貫く。


「天誅!」

「ぐふっ!」


:ああ、アキカゼさん1乙

:もう少し心配してやれ

:ここはとろサーモンの方が上手だったな


「おっと、刺しただけで私の命が潰えると思ったのならもう少し私の配信を見返した方がいいぞ?」


 言葉の意味がわからず、狼狽えるとろサーモン氏。

 確かに手応えはあっただろう。しかし撃ち貫いたはずの私がブレて、忍者刀が貫いていたのは……


「そう言えば貴殿はテイマーでもあったか」

「そうだよ。みんな私のジョブを忘れて突撃してくる。確かに私はパッシブ極だ。対人戦だって苦手だよ。でもできないとは言ってない」


 掌を返して笑みを浮かべる。

 その手の先から現れいでるは古代獣ウロボロス。

 愛称はヘビー。

 それを掌握領域で接収して武器の一つとして扱う。

 そっちが雷を纏う武器ならこっちは目からレーザーを放つ武器だ。サイズの違いはあるけど、まぁ大体似たようなもんでしょ。


「さて、覚悟の準備はできたかな? 君の武器と私の武器。力比べと行こうか」

「戦闘職ではないからと油断が過ぎたか。アヴェスターめ、嘘の情報を掴ませおって」


 口ぶりから察するに、どうやら探偵さんの口八丁にケムに巻かれたか。

 あの人味方なら頼りになるんだけど、絶対に裏切る立ち回り見せるから言葉を真に受けない方がいいよ。

 程々でいいんだ。

 これ、親友からのアドバイスね。


「仲間同士でいがみ合いとは悲しいね。でも武器を手にした以上、こちらも引くことはできなくなった。お覚悟を!」

「然らばごめん! 今日は撤退するでござる。その首洗って待っておれよ?」


 そう言って煙に巻かれて逃げていった。

 こういうところがシェリルとそっくりなんだよね、聖典陣営って。死に物狂いでこないから扱いやすいんだ。


「ヘビーも悪かったね。次に召喚するときは君の意思で動いてもらように配慮するから」

[キシャッ]


 うんうん、いい子だ。

 短く返事して光となって消えていく。


:だいたい言いくるめで撃退してるの草なんだよなぁ

:やり口がえげつな過ぎない?

:クトゥルフ様の能力のやばさがテイムした古代獣にまで及ぶとかずるいでしょ


「他にもブーメランとかレムリアの器とか持ってることを忘れがちだよね、私の前に現れる人って。その上で卑怯とか言われる私の身にもなってよ。なんでわざわざ手の内明かしてるのにこうも後先考えずに突っ込んでくるのか私には理解しかねるよ」


:普段からそれ使ってないからね

:クトゥルフ様の能力が単体でやばすぎるんだよなぁ

:そういやそうじゃん、あのクソやば破壊力のブーメランとレムリア陣営のレーザー兵器も使えるんじゃん。隙なさ過ぎねぇ?

:その上でアトランティス陣営のテイマーだもんなぁ


「ちなみに探偵さんもレムリアの器使えるからね? 私だけじゃなくあの人も要注意だよ」


:あ、うん。あの人も友情破壊ロールしなきゃいい人っぽそうなのに

:立ち回りが裏切り前提だから全然信用できないからな

:笑顔で近づいて来て背後から撃ちそう

:それ

:その上で巨大ロボ乗りとか色々やばい


「そうなんだよ、私のクランメンバーって私の影に隠れてるけど凄い人いっぱいいるから。そういう意味ではどざえもんさんも要注意だよ」


:あの人も凄いの?

:温厚そうなイメージあるけど、戦闘出来る?


「あの人はムー陣営で誰もやりたがらない精霊術士だからね。力こそ正義のムーで手探りの検証が出来る人が弱いわけないじゃない。その上で拡大縮小の能力持ち。ムーって一見暴力万歳なところあるけど、その本質は裏工作に向いてるって私は思うんだよね」


:ほえー、そういう見方もあるんだ

:実際に聞く限りじゃそうとも取れるんだよな

:言われてやれる人がそうそう居ないだけで

:ジョブだって民族大移動みたいなやつだし

:草

:スタンピードな、なんだよ民族大移動って

:百鬼夜行的なやつをイメージした

:妄想がすぎる!


 コメントに受け答えしながら、私もコタツにお邪魔する。

 そこにさっきまでイチャラブしていたスズキさんが私の前にお茶を出してくれた。

 クトゥルフさんも既にそれを頂いてご満悦だ。普段からこういうやりとりとかしてなさそうだもんね、この人達。

 スズキさんに取っては同じ食卓で席につくのも烏滸がましいとか思ってる相手だし、仕方ないとは思うけど。

 そういうしがらみは壊していきたいものだ。

 せっかくお互いを尊重しあってるのに、会話がないのは寂しすぎるよ。


:出た、絶対に茶柱が浮かぶお茶だ

:後から添えるだけ!


「|◉〻◉)でも立ってたら嬉しいでしょ?」


:確かにな。けどこういうものって普段から立たせてたら意味ないような?


「茶化さないの。私はスズキさんの配慮にいつも感謝してるよ。それに、こういうものだって慣れてしまえば特に取り立てて噛み付く必要もないからね」


:はえー、大人な対応だ

:つってアキカゼさんもういい歳だし

:銀姫ちゃんから見たらお爺ちゃんだしな

:普段から老人らしさを見せないから忘れてた


「アバターの見た目が若いからそう思うんだろうね。こう見えて私は61だよ。子供も孫もいる歳だ」

[年齢の積み重ねなど余に取ってはどうでも良いがな]

「そりゃクトゥルフさんはそうでしょうけど」


:クトゥルフ様と比べたら俺たちなんてミジンコっすよ

:長命種と比べちゃあかん!


[ふむ、たまにはこうやって下々の声に耳を傾けるのも良いものだな。ウチのルリーエが入り浸るのもわかる気がするぞ]

「|◉〻◉)ふふふ。クトゥルフ様ったら」


:ルリーエ? リリーちゃんじゃなく?

:愛称かなんかやろ?

:ルルイエ的な?

:多分そう

:リリーちゃんめっちゃ笑顔やん

:そりゃクトゥルフ様とルルイエは相性バッチリでしょ

:ある意味で寝床だしな

:ビジュアルに目を瞑ればあまーい画像なんだけどな


「そこはそうっとしてあげて。本人達が納得してたらそれでいいんだよ。ちなみにスズキさんは私と出会ってこんな人格になったと訴えて来てるけど、私と出会う前からこうだったから騙されちゃダメだよ?」


:草

:了解です

:幻影ってある程度ライダーに似るもんじゃね?

:あー、それは思ってた

:サイちゃんとか思考がぽかーんにそっくりだし


「|◉〻◉)僕はハヤテさんに傷モノにされてこうなりました」


:ちょ、言い方www

:これは確信犯ですわ

:お前確信犯の意味分かってて使ってるか?


[なに、では責任をとってもらおうか]


:クトゥルフ様までノリノリで草

:これだけノリの良い神様もそうそうおらんで?

:配信に姿を表す神様すら史上初では?


「ちょちょちょ、クトゥルフさんまでその気にならないでくださいよ。それに責任ならもうとったでしょ?」

[冗談だ。貴殿には余を眠りから覚まして貰った大恩がある。それにルリーエとの付き合い方も示してもらえた。これ以上望めば罰が当たるかもしれんな]


:クトゥルフ様に罰与える存在なんているか?

:ヨグ=ソトース様ならワンチャン

:上位神格を出してくるのはやめろ!


[実際にあのお方の前では余も萎縮する。それに対して対等に立ち向かえるアキカゼ殿がおかしいのだ]


:それは、ウチのプレイヤーが大変ご迷惑をおかけしまして


「なんで私が悪いことになってるんだろうねぇ?」

「|◉〻◉)自分の胸に聞いてみたら良いんじゃないですか?」


:リリーちゃん辛辣ぅ

:今までこんな自由な幻影が居ただろうか?

:と言うか神格までフレンドリーなのはアキカゼさん効果だろうなぁ

:やらかしの数が圧倒的に俺らと違うんだよなぁ


 流れるコメント欄がいつものようになったので視線を逸らしつつ、私達はコタツに揺られながら港町を後にした。

 たびたび行動が阻害される感じを受けつつも、やはりその場に神格を召喚してると行動の阻害そのものが受け付けなくなるのは新しい発見だと思う。


 そう思うとあのシステムは神格が自分の意思でプレイヤーの下までやってくるまでの場繋ぎ的な立ち位置にあるのかもしれないね。


 とはいえ神格によっては性格にばらつきがあるからねぇ。

 こればかりは誰かを参考にするのは難しいだろう。


 こう言う手探りを楽しめるかどうかでプレイヤーの成長につながるのだと私は信じてやまないが、果たしてその他のプレイヤーがどう思うか。それだけが問題かな?

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