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第14話

 音だ。

 ただ音だけが聞こえて来る。


 移動時はドシン、ドシンだが、敵を見つけた時の移動は違っていた。


 まるで薄氷を割るように、パキッパキパキッと小気味良い音が近づき、全員が衝撃に備えて妖精誘引を身に纏う。


 次第にグオン! と勢いをつける圧が周囲に広がり、ドカン! と大地が陥没するほどのエリアダメージが入った。


 これは確かにポルターガイスト系だ。

 しかし音によって律儀に教えてくれるのは優しくないか?

 ちなみに妖精誘引を纏ってたお陰でメンバーにダメージはない。


 一人胴体しかない奴もいるが、まるで問題ないように動き回った。


 肉体を覆う部分が減ってEP消費コストが抑えられてるのか、食事をせずとも空中をホバリング移動している。

 普段静かな分、行動のうるさい奴である。


 レムリア人がどうやって食事をするのか知らないが、そこはプレイヤー。

 なんとかなるのだろう。


「|◉〻◉)ギョギョギョー! 秘技、流水撹乱!」


 欲に駆られて魚類が動いた。

 三又の槍の穂先からは溢れんばかりの水の玉。


 それが地面の上に落ちたように、空中で大きく広がっていく。

 ただの目眩しか? と思われた時、音精霊からの攻撃で狙いが分かる。


 ドカン!

 再びエリア全体にアタック。

 水の玉が振動で揺れる。


 爆心地程揺れが少なく、大きく揺れた場所が敵の居場所なのだろう。


 野生の勘で飛び出した村正がその場所に縮地で肉薄し、刀を振るった。


 右手に物理攻撃の刀を。もう片方はビームサーベルの二刀流だ。


 オメガキャノンにはあれこれ言いたいことがあるが、ビームサーベルを作ってくれたことだけは感謝している。


「やったか!?」


 陸ルートが余計なフラグを建てる。

 いや、同時に妖精誘引を周囲に散布してるので囮役なのだろう。魔法使いなのに近接特化なこいつのことである。


 俺は今まで理解できていなかったが、タンクを希望していたのでヘイト管理の一環での掛け声だと思えば腑に落ちた。


「ぐっ、重い一撃! だが捕まえたぞ! 村正さん! ここだ!」

「応! 秘技、沙斬華」


 ここだ、と言われてもまた逃げられる可能性もある。

 切り払いだけではなく乱れ付きで対応する村正。


 オメガキャノンは目標が見えない限り迂闊に攻撃できない。

 あいつの攻撃手段は強力故、弾数制限がある(本人談)


 実際は身を守るのを優先させてるんだろうな、あいつ攻撃力に特化しすぎて防御関連紙だから。


 だが、水の振動で相手の位置が把握できるのなら俺にもやれる事がある。ナイスだぜ、リリー。


「ウォーターバレット!」


 俺のスキルは水属性。

 単純に森林に一切ダメージを与えないのと、生物特攻。

 泥人形のボールや、スワンプマンなども封殺できる理由からそれにしていたが、リリーからの意思表示で新たな可能性が閃いていた。


 スキルに契りは重ねられるか?

 水と言うエネルギーは分散して潰えるが、そこに何もなければ再集結して再度利用可能と言う利点がある。


 普通ならこの温度で気化するが、俺は魔法にパッシブ効果のマグマ耐性を付与して放ってる。

 炎の熱で蒸発しない水の完成だ!


 マシンガンの様に放たれた水は、陸ルートの捕捉していた場所を通り抜け、少し前でぶつかって波紋を広げた。


 もう攻撃するためというより位置特定装置として操ってる俺。

 あわよくば攻撃に参加しちゃると、程々にEPを消費しておく。


「モーバ、水魔法はここじゃ効果薄い筈だろ? なんで維持出来てるんだ?」

「今それどころじゃないんで後でな?」

「関係あるだろ。ネタバレはよはよ」


:こいつwww

:肝心な時は働かないくせに、情報はタダでくれという浅ましさ

:いつものオメガキャノンだな!


「ったく、教えたら働けよ? これは契りを載せたんだよ。俺たちが手に入れた契りはスキルに載せられる。上位クランの連中がよくやってるだろ。あれの応用だ」

「把握」


 聞くだけ聞いて何やら動き出すオメガキャノン。

 とてもいい笑顔で腰を上げると、俺の水魔法に向けて冷凍ビームをばら撒いた。

 こいつ、やりやがった!


 ……が、同時に水がぶつかって波紋が浮き出たところが固まって凍りつく。


 音が凍るだなんて聞いたことはないが、スキルに何を載せたらこうなる?


「今だ、ぶった斬れ!」

「うぉおおおおおおお! 斬!」

「|◉〻◉)ちょいさー!」


 鬼気迫る表情の村正と打って変わり、非常に気の抜けた声で鋭く三又の槍を突き出すリリー。

 武器が交差する空間では、確かな音が鳴った。


 ザクッ!

 グシャァ!


 ダメージ音まで搭載とは恐れ入った。

 だが同時に、これが聞こえない限りずっと空振りし続けるのか。こりゃ大変だ。


「ダメージ発生源からナビゲートフェアリー共鳴大!」


 炭鉱のカナリアの如く危機察知担当のジャスミンが吠える。


「全員、防御態勢!」


 周囲を妖精誘引で保護しながら迎えた3秒後。

 エリア全体を高熱が溶かし尽くす。


 閃光による光で視界がホワイトアウトし、マグマ耐性を授けたとはいえマグマそのものが地面を割って噴き上げたら流石に対処しようがなかった。


 グルルルルルッ!


 次いで唸る様な音、いや鳴き声か。

 それが集まったマグマの中心部から聞こえてくる。


 マグマまで自在に操るとか聞いてないんですが?

 誰だよ、火の契りを5まで上げずにここまできたバカは!


 パスカルがいい表情でサムズアップする。

 クッソ、確かにこいつの先導だ。


 誰だ、こいつに道案内を任せた奴は!

 そうだよ、俺だよ!


「オメガキャノン、足場を固めろ!」

「合点!」


 言わなきゃ自ら動かないオメガキャノンを焚き付け、足場を確保。お決まりの冷凍ビームだ。


 あたり一面のマグマが一瞬凍るが、しかし活動期の火山の如く全てを覆えずまた地表からこぼれ出てくる。

 それでも一面マグマよりはマシか?


 動き出すマグマの獣。

 だが同時にパキパキパキッと言う移動音が別に聞こえた。

 じゃあ目の前のこいつは?


 位置把握の水玉対策か!

 一目見て放置したら厄介な事になる。

 そう思わせる凄みを備えてるマグマドラゴンが囮とは参った。


「リリー、ペット対決だ。どっちが主人に相応しいペットか白黒つける必要がある! やれるか?」

「|◉〻◉)それは相棒としての頼みですか?」

「ううん、命令。やれ!」

「|◎〻◎)キエエエエエエッ!」


 やけくそになって躍り出るリリーに、任せて良いのでござるか? と村正の同情を誘う言葉が添えられる。

 一体全体誰のせいでこうなってると思ってるんですかねぇ?


 俺だって貴重な戦力を分散だなんてさせたくねーよ。

 だが現状、マグマの海に浸かってもピンピンしてるのはこの中じゃリリーが一番の適任だ。


 その他に音の精霊もいる。

 適材適所だよ。

 そう言えばなんとか引き下がってくれた。


 本当はお前の親父さんの前で下手な動きできないだけなんだわ。

 村正、俺のポジションはお前が活躍できる様に場を整えてやることだけだ。


 お前と言う素材を生かすための舞台としてせいぜい暴れてくれよ!?


「よぉし、リリーがあいつを引き受けてくれてる間、ボスを獲りに行くぞ! 準備はいいか、野朗共!」

「「「「応!」」」」


 メンバーの声を聞き、音の精霊戦第二ラウンドが始まった。

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