マグニアの振りかぶった鎌が横凪に払われた。
すぐにその場から飛び退き、全身に妖精誘引を付加してガード。
だが貫通属性でも付与されていたのか、破壊の衝撃はエリアを壊しながら突き進んだ。
ズズン……
倒れた石柱が入り口を塞ぐように折り重なる。
[これを受け切るか、面白い!]
今度は縦に振り被る。
「オメガキャノン、ビームだ!」
「冷凍ビーム!」
[フン、こんなもの効かぬわ]
片手で払うマグニア。
効果なしと見るなりオメガキャノンは武装を入れ替えた。
だが隙を晒した相手にマグニアが加減できるはずもなく、先ほどよりも早い斬撃がオメガキャノンを襲う。
「オメガキャノン!」
オメガキャノンの前に立ちはだかったのはジャスミンだった。
妖精誘引で覆って居たとはいえ、それすら貫通してくる斬撃に、ジャスミンは少なくないダメージを受けていた。
「どうして、お前は俺のことが嫌いだと思ってたが」
「ああ、私はお前が嫌いだ。大っ嫌いだ!」
「だったらどうして、そんな傷だらけになってまで庇うんだ?」
「確かにお前は嫌いだが、今この状況でお前を見殺しにする程私は状況を諦めてはいないだけだ。それに、傷はアイテムで回復する。私はお前が嫌いだが、お前の作るアイテムには期待してるのさ。時間は稼ぐ、準備を進めろ!」
「らしくねぇ事すんじゃねぇよ」
どう考えても物理攻撃は効かない精霊体。
それでもジャスミンは踊りかかり、文字通り時間を稼ぐ。
ナビゲートフェアリーの役目を終えて、それ以外の役割とは何かをずっと考えたあいつの答えがこれなのだ。
それにこれは俺に課せられた試練。
あいつにばかり美味い思いをさせるのは違うよなぁ?
「村正、俺は射掛けるまで現状維持。牙を研ぎ澄ませ!」
「承知!!!!!」
「リリーは俺と一緒に出陣だ」
「|◉〻◉)え、僕は囮なんじゃ?」
「それで一回痛い目見てんだろ? お前一人に負担かけるのも違うしな。これからは俺も前に出る。射線確保も俺の役目だ。ジャスミン、手伝うぜ!」
「助かる! 一人では攻めあぐねていたところだ」
「僕も忘れて貰っては困ります!」
ジャスミンとスイッチして俺が中距離、リリーは近距離で対応する。ジャスミンと入れ替わりように陸ルートがホバリングしながらブラスターを照射する。
レムリアの技術はよく知らないが、燃費最悪の切り札だと言っていたな。
それを惜しげもなく使うところから見ると、こいつの活動時間も残り少ないのだろう、半ば特攻のような自暴自棄具合が見受けられた。
「|◉〻◉)ふははははは! 見切れまい、僕の絶技!」
リリーの水を纏った連続突き。
マグニアはそれを鬱陶しそうに払いながら、しかし手攻撃の手を休ませることに成功していた。
のけぞり効果でもあるのか、攻撃姿勢がキャンセルされるようだ。多分妖精誘引が付与されてるのだろう、マグニアが苛立たしそうにヘイトをリリーに集める。
[この、鬱陶しい!]
横一閃に払われる大鎌だが、俺の影に入る事で回避。
俺は地熱によって照りつけるこのエリアに、水魔法を操って薄い影を刻んでいた。
一見して意味のないこの攻撃は、しかしてリリーの一次避難場所として優秀な役割を果たす。
「私もいることを忘れて貰っては困るな! 霊装〝疾風怒濤〟」
ジャスミンの拳に風が巻きつく。
ボクシングのワンツーが、疾風を纏って放たれた。
物理攻撃そのものにはなんのダメージを与えてる風もないが、炎を吹き飛ばす方がマグニアは困っている風だった。
やはりその本体は炎と同じで空気が無ければ消えるのではなかろうか?
しかしスタミナを持つ以上、俺たちも空気がなくなっては困る。
どこかのプレイヤーが呼吸しなくても生きていけるらしいが、あんなのは稀だ。
狙って獲得できるやつなんかいねーって、そう言い切ることができるぜ?
「準備できたぜ、野朗共! ファイア!」
あの野郎、俺たち毎狙いやがった!
が、同時にパスカルが動き出す。
「氷製作!」
現れたのは巨大なレンズだった。
それでレーザーを屈折させて乱反射。
俺たちをうまく避けてマグニアにだけ集中する軌道を作り上げていた。
今まで動かなかったのはずっとその計算式を頭で描いていたからかよ。
ずっと後ろで何やってるかわからないやつだったが、もしかしてオメガキャノンが暴発しないように見守ってくれてたのかもな。
流石に氷作製じゃ毒ガスは防げなかったと。
「レーザーなら俺も操れる! オメガキャノンの対策は任せろ」
「そういう事だ、掌握領域!」
なんとなくできる気がした。
領域は展開していない。
俺にアキカゼさんと同じ事はできない。
でも、俺にはこんなに心強い仲間がいる。
俺一人じゃできなくても、このチームならやれる!
そんな確信があった。
水魔法を掌握し、それを片手で飲み発現させる。
アキカゼさんほど能力はない。
でもそれでいい、俺は俺なりの育成をする。
[あぐ、なんだこの力は! 力が、炎が吸われていく!]
狙った通りに弱体化した。
村正! と叫ぶ前にマグニアの体を村正の二対のヤイバが両断していた。
弱体化中のマグニアを見て野生の勘でも働いたか?
最高のタイミングで入ってきてくれた。
さて、ここからがむしろ本番。
風精霊の時は風が渦巻いて復活した。
<ネームド精霊マグニアの沈黙を確認>
<炎の断章を獲得>
<掌握属性に炎が加わりました>
「あん?」
「倒したのでござるか?」
「どうした、モーバ?」
俺が不可解とばかりに目の前にポップアップしたい情報を閲覧してると、村正とオメガキャノンが討伐できているかの心配をした。しかしこのアナウンス、本当に俺しか聞こえてないのか?
『リリー、お前俺の能力がどうなってるかわかる?』
『|◉〻◉)わかりますよー。極小範囲で水、風、炎を掌握できますね』
『感覚的にはわかる。だが、このアナウンスが聞こえたのはさっきが初めてだぞ?』
『|ー〻ー)あー、それはきっと音の契りがなかったから。僕は聞こえてましたよ。マスターが僕を手にしてくれて、討伐後に入手したんです』
『ちなみに俺のシステムにはなんも載ってないんだが?』
『|◉〻◉)本来のシステムとは用途が違いますからね』
む、それは簡易的なとか言うやつか?
『|ー〻ー)いえ、本来正気度を削って発現させる事象はフィールドに及ぶんです。けどマスターはそこまで大きくなくてもいい、掌だけでの発現を望みましたよね?』
全く記憶にはないが、アキカゼさんのようには俺はなれねーからな。
多分俺なりの成長を望んで、それが反映された?
『|◉〻◉)だからじゃないですかね? 正気度を一切消費しない異能が扱えたのは。僕もこんな事象初めて見ます。後でお姉ちゃんに自慢しよ』
『まぁラッキーではあったな。ちなみに水しか扱ってなかったが、今度から風と炎も扱えるようになったと思っていいのか?』
『|ー〻ー)掴める対象に炎と風が加わった感じですね~』
『あれ? 普通に強くね?』
『|◉〻◉)アキカゼさんとは天と地ほど差はありますが、強いと思いますよ?』
『正直な感想をありがとよ』
リリーとの会話を打ち切り、手のひらに風と炎を順に宿す。
掴むといってもどうやって掴めるか謎だったのだが、普段掴めないものを握り込む事で事象の活動を停止させるみたいだ。
勿論停止させられる時間は短いが、要はチェインアタックの足踏みのようなものだ。
こんな異能が手に入れられるって知ってたら風と火の魔法も取っておくんだったな。
まぁ今更と言うやつだ。
どっちみち、俺のクランは炎の持ち込み厳禁の森林組合。
エルフにとって植物は生きる糧だかんな。
「よーし、炎の契りも5になったし、これでマグマも怖くないな! 次は何育てる?」
「風か音を決めてしまいたいと思います。音は前回行ったので風でしょうか?」
「じゃあジャスミンはお休みで陸ルートが入る形か。それよりお前、エネルギー持つのか?」
「一度転送でボディ取り替えてもいいですかね? お時間はかけません」
「別にいいぞ。陸ルートは戦力として頼りになるし」
「では直ぐに」
その場に召喚ゲートを置いて消えたと思ったらすぐに戻ってきた。
ボディチェンジってそんなに素早く交換可能なのかよ。
すげーな、レムリアの技術って。
「パスカルもさっきは助かったぞ。いつもあんな大掛かりな仕掛け用意してたのか?」
「まぁな。俺が唯一誇れる仕掛けだ。オメガキャノンと一緒にいる時以外で使う事はないが、育てておいて損はないと探偵の人に唆されてな」
「あー、あのアキカゼさん以上にぶっ飛んだ?」
「あのクランはうちの親父を筆頭に頭の上がらん人たちが幅を利かせてる。そのトップを張ってるアキカゼさんが普通じゃないのは今に始まった事ではないが、それでも足掻いてみたくなるのさ」
「そうやって上ばっか見てると首が痛くなんねーか?」
「眩しくて目も潰れそうだよ」
なんだかんだ、こいつと俺は似てるんだよな。
ただ、同族嫌悪かお互いに認めたくなくて嫌いなんだ。
ま、別に仲良しこよしってわけでもないんだ。
それでもいいんじゃねって気持ちで協力してる。
<精霊の契り>
地(視覚+) _3
水(妖精誘引) _3
火(マグマ耐性)_5
風(スキル+) _2
音(聴覚+) _2
<聖魔大戦専用コマンド>
マスター:モーバ
魔導書 :ルルイエ異本
幻影 :リリー
正気度:100/100
侵食度: 3/100【|◉〻◉)親密度!】
神格 :???
断片 :0/10枚
断章 :水、風、炎
信仰 :0
権能 :
: