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第16話

 取り敢えずこれまでの戦いを振り返って、痛感した事をみんなで話し合う。


 何が辛かったかと聞かれたら、まず間違いなくマグマに対しての耐性の無さが挙げられるだろう。


 現状この中で生き延びられるのは魚類くらいだ。

 そして音の精霊戦で懲りたが、マグマに耐性持ってるだけで随分と楽になるのが分かった。


 なので音、風に行く前に火を5にしてしまおうという作戦だ。

 そうすればオメガキャノンのワガママを聞かなくても、ゴリ押しでアトラクションを乗り越えられるからな。


 あいつに好き勝手させると俺たちも危ない。

 いつ爆発するかわからない爆弾を抱えてる状態で戦闘なんて勘弁願いたいってーの。


 ちなみに毒で瀕死になったリリーは、一度死んでる。


 本体は俺の内側に居るとかで、俺の影から出てこられる様だが、一度死ぬと数分間復帰できなくなるのだとか。


 不死という言葉に騙されたが、確かに即座に復帰するとは聞いてないもんな。

 時間経過で復帰できるだけ十分ありがたいが、こういうところで本家の幻影との違いを痛感する。


 アキカゼさんとこの幻影は即復活、どころか分身までする。


 本体を動かしながら分身でキレッキレのバックダンスを踊って見せる精度の高い遠隔操作。


 影から影へショートワープをし、さらにコタツワープとかいう訳のわからない移動技を駆使する。


 そこまで欲するなら、それこそアキカゼさんクラスの育成をする必要がある。


 単品でも十分強いが、上を見たらキリがないのだ。

 それでも俺なんかの為に協力を惜しまない幻影。


 今はまだ俺に懐いてくれてるが、このままの扱いでいいのかわからん。程々に取り繕っておくか。


『さっきは悪かったな、リリー。オメガキャノンは後で〆とく』

『|◉〻◉)別にいいですけどー。あとで熱いハグを要求します!』

『お前にハグして俺に何の得があんのよ?』


 どうして村正もだがこの魚類も俺にハグを求めるのだろうか?

 ぶっちゃけその絵面から俺の立場が悪くなるだけな気もするんだが。

 もしやその狙いで?


 村正はまだ小動物的可愛さがあるからいいんだが、魚類に至っては生臭さがつきまとう。

 出来ればハグはお断り願いたかった。


 そんな感想を抱く俺に、しかし魚類はステータスに出ていない情報を出してくる。


『|◉〻◉)ハグをすれば僕との親密度がアップしますよ? 親密度が溜まると復帰時間も早くなりますし、いい事づくめです!』

『ちなみに今の俺に蓄積されてる親密度は?』

『|◎〻◎)3』

『あれだけ扱き使ってむしろプラスになってるのが不思議でならない』

『|◉〻◉)助けてもらいましたから。あと名前で呼んでくれたのが嬉しかったです』


 そんなもんで上がる親密度とかちょろいなぁ。

 だが待てよ?

 上がりやすい分下がりやすくもあるのか?


 そもそも何をどうやったかで上下するかは魚類の申告制だ。

 実際にそんな数値があるかもわかったもんじゃねーしな。


『わかった。今度からお前を活かす方法で考えるな?』

『|◉〻◉)ハグは?』

『村正と拗れるからダメ。つーか、お前は村正に嫉妬しすぎなんだよ。あいつの何がダメなの?』

『|ー〻ー)だってー、あの子から聖典の匂いがするんですもん。僕じゃなくたって嫌がる魔導書の幻影は多いですよ?』

『は?』


 チラリと村正を見る。

 腰にベルトは巻かれてないが、すっとぼけた面を見せてくる。

 確かにこいつは根暗というより聖属性みたいな奴だ。

 常に前向きで、前向きすぎて猪突猛進。

 前方不注意が服着て歩いてるような奴だが、だからってイコール聖典てわけでもないだろうに。


「どうしたでござるか、モーバ殿?」

「んにゃ、なんでもねぇよ。リリーがお前から聖典の匂いを嗅ぎ取ったらしい。だから生理的に受け付けねぇんだとよ」

「なるほど。某も何故かこう、リリー殿を見てると負の感情が湧き上がってくるのでござるが、もしかして某の内に秘められてるフレーバーが聖典に繋がっているからと?」

「同族嫌悪の可能性も捨てきれんがな」


 パスカルが眼鏡の位置を直して口を挟んでくる。

 お前にだけは言われたくない。


 この疫病神め! そう口汚く罵ると、ふとパスカルの腰に装備されたベルトが気になった。

 あれ、こいつこんな光り物を装備するような奴だっけ?


「パスカル、お前もライダーだったのか?」

「まぁな。言う必要はないから黙ってたが」

「じゃあ俺がお前に対して不信感を抱いているのはこれが原因か?」

「いや、プレイヤー同士でそういういざこざは起きないってアキカゼさん言ってたぞ?」

「そっか。じゃあ俺、お前が嫌いなのは素からかもしれねーわ。悪いな、先に謝っておく」

「お前は……まぁそうだな、俺もお前が嫌いだ。ということでお互い様だな?」

「モーバ殿は某の事は嫌いでござるか?」

「村正は嫌いじゃないぞー?」

「わぁい」

「ちょっと鬱陶しく感じるだけで」

「モーバ殿~~?!」

「冗談だよ、冗談。なんかお前の顔見てるとからかっちまいたくなるんだよ。なんでだろうな?」


 雑談をしてるとあっという間にアトラクションエリアへとやってくる。


 またマグマがバンバン湧いてあふれて利用な場所だった。

 だが、これくらいならリリーの力がなくてもなんとかなりそうだ。


 冷凍ビームの準備をしているオメガキャノンを牽制し、地下スキルの扱いがわかってきた俺は水魔法に火の契り、風の契り、水の契り、音の契りを載せてそこへ放った。


「思った通り、ここのマグマ、火精霊からの攻撃だったな。あの全画面攻撃でなんとなくそうじゃないかと思っていた。今の契りを重ねた俺たちなら余裕で対処できる」


 アクアボール。

 水属性魔法スキルの初級技。


 ここからいくつにも派生するある意味で基本中の基本。

 俺はこいつの操作が巧みだった。


 増幅と拡散を繰り返し肥大化させ、蒸発しない高熱の水を妖精誘引で包んでエリアを包み込み、見事マグマを押さえ込むことに成功していた。


「モーバ、お前……どんどん遠くに行っちまって」

「俺はどこにも行かねーよ。こんなものはただの応用だろうが。俺ができたんだ、お前らもできると思うぜ?」

「チッ、交渉し損ねたぜ」

「オメガキャノンはさぁ、そういうところだぞ?」

「モーバ、私にもその応用は出来るだろうか?」


 減らず愚痴を叩くオメガキャノンとは違い、真剣に今のままでは足手纏いになりかねないジャスミンが声を上げる。


 地下という環境で役に立てない自分を、どのように活躍させるか悩んでいたのだろう。


 まぁその気持ちもわかるぜ。

 俺も戦闘指揮してなかったらジャスミンのこと言えねーもん。

 パスカル、お前もだぜ?


 この中で戦闘中活躍できてるのは悔しいが村正、陸ルート、オメガキャノンくらいだ。あとは助っ人のリリーだ。

 リリーについては俺の幻影ということでの参戦。


「焦らず行こう。ぶっつけ本番の配信に誘ったのは俺だ。活躍できる、出来ないはプレイヤーの素質による。俺だってぶっちゃけ活躍できてるかといえば怪しいもんだ。でも、立ち止まらなきゃそのうち見えてくるもんがあると思うぜ? 俺はそう思うがジャスミンはどうだ?」

「そう……だな。派生スキルばかり多くて、こういう環境でまるで役に立たなくなって漸くわかるようになった。私はきっと今までの環境にあぐらをかきすぎていた。新しい時代の到来に置いていかれていたんだ。だからモーバ、私達を導いてくれないか?」


 なーに言ってんだこいつ?

 自分のプレイスタイルを人任せにするとか頭大丈夫か?

 俺は俺のやりたいようにするんだよ!


 その為に誰でも彼でも使って、最高の結果を引き寄せてやるんだ。


 だからジャスミンの気持ちとかは関係ねーんだよな。

 黙って俺の配信の視聴率の糧になりやがれ!


「わかった。一緒に日の出を見ようぜ、ジャスミン。全ての契りを交わして、奥で待つ龍人様とやらから陣営についての情報を得る。そんで新しいジョブを手に入れる。そっからようやくスタートだ。だからそれまで、力を貸してくれないか?」

「勿論だ!」

「|◉〻◉)僕も戦いますよ!」


 いつの間にか復帰した魚類がジャスミンと並び立ち、パスカルに導かれたエリアで、燃え盛る炎を擬人化した少女と出会う。


[ようやく来たか、真なるものよ。待ちくたびれたぞ、いざ契りを交わそうではないか]


<DANGER>

 ネームド精霊:煉獄のマグニアに遭遇しました。


 はて、ネームド? 

 もしかして前回の理不尽イベントの連続だった風もネームドだったのか?


 少女型の精霊は、他にもいる。

 だが風精霊は二段回の姿を持ち、そして操る武器が決まっていた。


 マグニアは命を刈り取る形をした鎌を携え、三日月を思わせる笑みを浮かべていた。

 風精霊の時より強そうだ。


「パスカル、ネームドに心当たりは?」

「ネームドってなんだ?」


 何? 今のアナウンスが聞こえてなかったのか?

 上げてる契りの数は同じ。


 だが、腰に巻いたベルトの色は違う、か。

 じゃあこいつは魔導書のイベントなのか?


 そう言えば俺が初めて遭遇したネームドも、少女型だった。

 偶然では、ないのか?

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