「これは、あんまりですマスター……」
「似合ってるでござるよ、ヴェーダ君?」
先ほどまでクソガキ感マシマシだった幻影ヴェーダは、犬の着ぐるみを着せられて、四つん這いにさせられていた。
首輪には平仮名で【ゔぇーだ】と書かれており、羞恥心が限界突破したような顔で現実と向き合っていた。
「リリー、よくこんな着ぐるみ持ってたな?」
「|◉〻◉)作りました」
「そっか」
詳しく聞いたら負けな気がする。
俺は話を流して次の図書館の場所へと向かった。
そこはファイべリオンの地下へ用意された海底迷宮。
アキカゼさんはそこで図書館を見たと報告していた。
道中地下の契りが必要になる場所もあると聞くし。
精霊魔法の活躍もあったと聞くし、多少精霊姫の出番もあると思ってた方がいいな。
今正気度は20まで回復した。
なぜか途中で減ったりもしたのでこれでも回復してる方なんだよ、マジ。
幻影は一般プレイヤーから見られないとはいえ、人前でこんな姿をしている自分という羞恥心がヴェーダの心を抉るのか、一緒に連れ歩く度にそいつの顔色はみるみる青くなっていった。
「村正、そいつ大丈夫か?」
「少し躾をしてるだけでござるよ?」
「|◉〻◉)後は喜びを尻尾で表せられるようになったら一歩前進ですね? こうですよ。こうやって尻尾を振るんです。ふーり、ふーり」
「貴様ーーッ!!」
リリーはリリーで煽り芸に磨きがかかっている。
ヴェーダの前まで行って尻尾を振ってる様を見せつけては悦に浸っている。
こいつの根っからの芸人魂には俺も一言物申したいことがあったが、今回ばかりはよくやったと褒めてやってもいいだろう。
さて、そんな茶番を挟みつつ。
俺たちはポータルを通ってファイベリオンへ。
未だに古代獣討伐イベントが開催中ではあるが、人はまばらに散っている。
ヤマタノオロチを単独で討伐できる相手なんてそうそう居ない。
それこそ俺たちのようなライダーなら……とそこで顔見知りに遭遇する。
「おーい、フォリオーー!」
「あれ? モーバじゃん。マスターからクランを追放されたって聞いたぞ? 何の用だよ?」
「追放はされてねーよ。って他人みたいな扱いは寄せ。同じクラメンだろうがよ。今はその疑いを晴らすべく活動中でさ」
「どちら様でござるか?」
「ん? うちのクラメン。森林組合つってな。エルフだけがメンバーになれるクランで、環境保護を目的とした活動をしてるんだ。俺の攻撃手段に火が入ってない理由もそこだな」
「お、なんだよモーバも隅におけないな。彼女?」
「彼女じゃねぇ!」
否定するが、彼女と例えられた村正は満更でもなさそうに胸を張る。
こんなのただの社交辞令だろうに。鵜呑みにしやがって。
「村正でござる」
「村正ちゃんね。いつもうちのモーバが世話になってると思うけど、こいつが無茶したら俺に教えてくれ。マスターに言って正式にクランから追放するから。引き取ってくれたらウチも助かるよ」
「わかったでござる」
おぉおおおい!
人の了承のない場で何勝手に俺の進退決めてるんだ。
あと勝手にフレンド申請すんな。
あの親父さんから監督不行き届きを突きつけられるのは俺だぞ!?
「ザマアミロ」
拗ねたヴェーダから嘲笑を受けた。
こいつめ、すっかり暗黒面に落ちてやがる。
聖典の幻影ってもっと神々しいもんじゃねーのか?
「リリー!」
「|◉〻◉)はぁい!」
即座にリリーを召喚し、煽り芸を披露してストレスを溜めることに成功した。
俺もこいつの躾を手伝ってやるよ。
どっちが上か上下関係を教えてやんねーとなぁ?
じゃあな! そう言ってフォリオと別れた。
あいつ、ちゃっかりライダーになってたみたいだ。
つまりヴェーダの姿も目に入ったらしい。
こっそり個人コールで、あの趣味の悪いぬいぐるみは何なの? って聞いてきた。
村正の趣味だと教えれば、数秒返事が返ってこなかった。
幻影への躾だと返してようやく納得はいかないが理解はしたとの返事をいただいた。
マスターと幻影についての付き合い方を考えてしまったらしい。
ダンジョンは掲示板を情報媒体に図書館のルートを割り出して歩いて行く。
いちいち探索とかアホみたいなことはしないのである。
先人の知恵を生かしてこその第3世代だぜ!
「ここで妖精誘引か、リリー?」
「|◉〻◉)はいはい。そーれ」
俺はEPを維持するためにリリー任せで進んでいく。
しかし精霊召喚を必要とする場合は俺が出張る。
「召喚、エアリード」
[御身の前に]
ソナークリー戦の様に同時召喚+憑依でもしない限り正気度の減少は微々たるもんだ。
だからって所持量が少ないのでぼやぼやもしてられないんだが。
エアリードは風の精霊姫。
マグマの栄える海底迷宮でどうしてこいつを呼び寄せたかと言えば。
「切り裂け、最短ルートを突破じゃあ!」
[風塵!]
どうせ消費するのなら、消費が少なくて済む最短ルートを進むのは間違いではあるまい。
肝心のフィールドを破壊してもらったら、精霊姫を送還してその殺傷力の塊を掌握領域で掴んで再活用させてもらう。
侵食度は増えるが、やむを得ないだろう。
どうせ増えるリリーの能力はピーキーに決まってるしな。
正気度まで減るとあっては頼りにしすぎるのも問題だ。
今ある能力でどこまでやれるかが問題だよな。
と、そこで。
今までそれらしい活躍をしてこなかったリリーが何かに気付く。
「|◉〻◉)どうやらこの先に例の図書館があるみたいですね。僕の気配にびんびんきてます!」
「フン? 本当だかな。私が行って直に確かめてやろう!」
すっかり慣れた四足歩行でヴェーダが我先にと飛び出し、
「ぐあーーー!!」
マグマの海に飲まれた。
知ってた。
だって俺の方にそれっぽい気配感じなかったし。
どう見たって景色が図書館に至る雰囲気じゃなかったし。
って言うか幻影は不死だろ?
「村正、ヴェーダのやつは復帰できるのか?」
「クールタイムが設けられてるので可能ではござるが……」
普段はっきりと物を言う村正にしては今回は随分と歯切れが悪い。
「24時間後になるでござるな」
「使えねー」
その上でマグマ耐性持ってないのは出オチもいいところだろう。
ウチのリリーが特殊すぎるって?
そりゃ最初はクールタイム二時間とかだったけど、今じゃ5分待たずとも現れる。
何だったら呼んでないのに来るし、完全に俺の手を離れてやがる。
扱いやすさではヴェーダを超えるが、扱い切れるかは未だに定かじゃねのが玉に瑕だな。
マグマの海を泳いで渡り、俺たちはうるさい奴がいない間に図書館で読書に勤しんだ。
念願の断章が一枚増えたのはいいが、例の如く正気度は10減った。
まーた1桁だよ。
もうちっと正気度増やす策考えねーとな。
行き当たりばったりすぎっと、0になるのも時間の問題だわ。