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第28話

 ついさっき暴走したのもあり、今後もソロで頑張る必要はないとして、次に向かう火の精霊戦ではサポートに準じる事にする。


 とはいえだ、新しく手に入ったチェインの能力の程を確かめてみるのも悪くない。


 つい先程誘爆したのは何かの間違いだと思いたいが、せめて方向性ぐらいは掴んでおきたい。


 そして導きだされた結論は……


 一人が攻撃すると、残り二人がどんな姿勢を取っていようと、攻撃したという結果だけがついてくるぶっ壊れ能力だった。


 一人が戦闘してる横でカードゲームしてても、お茶を飲んで寛いでいようとも、一匹がチェインのスキルを発動すれば、他の二匹も一匹目に釣られて攻撃に参加する。


 この技能、使い方次第では非常に効果的なんじゃないか?

 ただでさえリリーティアは遊撃に向く。


 三匹に増えた時の運用は最初掌握合成をしても一匹を遊撃に回せる程度の認識しかなかった。


 しかしこっちのチェインが本命だとしたら?


 足りない火力を三匹で補う。

 正に文殊の知恵、三本の矢。

 俺は司令塔としてデンと構えていればいいわけだ。


 ちょっとばかし俺の能力は扱うのが難しいからな。

 広大な海の広がりに肉体がついていけなくて溺れちまうんだ。

 大海の中をたった一人、泳ぐのは俺にはちょっと早すぎた。


「っし、もう平気だ。次行くぞ次」


 領域展開中の掌握合体、掌握領域の過度な使用は俺の精神が持たないことが露見した。


 俗に言うオーバーヒートだ。

 回復速度を上回る正気度の消費にメンタルが保てないのが原因だ。よく小型端末とかを充電しながら処理の重いデータを読み込むときに熱が発する時がある。


 あれとまんま同じことを俺はしちまったわけだ。


 何でもかんでもできるようになったからとはいえ、同時に何個もやれるほど俺のスペックは高くなかった。

 この指輪が、俺の切り札だ。


 そしてリリーティアの強化で俺は無理をしなくてもいいくらいの戦力を得ていた。


 だからもう平気だ。

 リリーティアの能力も概ね把握したしな。


「正気度は回復したでござるか?」

「わんわん『次マスターを泣かせたら殺す。心配させても殺す。私は本気だぞ?』」

「|◉〻◉)ふっふーん、ゔぇーだ君にそれができるんですかねぇ? 僕がマスターを守りますよ?」

「|◎〻◎)僕も」

「|>〻<)僕は嫌です!」


:一人反抗期なのいるけど……

:チェインで無理やり行動させられるから関係ないんだよなぁ

:強制労働こっわ


「ダメでござるぞヴェーダ君? 無事でいてくれてよかったではござらんか。リリー殿も茶化さないでくれぬか? この者は純粋ゆえ、額縁通りに受け止めん」

「くぅーん『しかしマスター』」

「悪かったな、村正。ちょっと大きな力を得てなんでもできるって気を大きくさて心配させちまったか。いつもはお前を俺が心配する側だってぇのに、どうやら功績を焦っちまったようだ」


 実のところ配信の半分くらい自分の立ち位置は本当にこれであってるのか不安で仕方なかった。


 俺も攻撃に参加できれば、もっと活躍できたなら……そんな焦りがあんな失敗を生んだ。

 邪神に心の隙を付け込まれたのかもな。


 でも俺のことを最後まで信じてくれた村正。

 俺のために祈ってくれて、俺の復活をそれこそ手繰り寄せた。


 いつもはただの聞かん坊でこっちの話を聞かないばかりか余計なトラブルを持ってくるようなやつだとどこかで思っていたが、それは俺の思い込みだったのだ。


「それに役得でござったからな?」

「うるせーよ」

「もう少し某の前で素直になってくれてもいいのでござるよ?」

「そ、そう言うのは配信終わってからにしろ。プライベートでなら付き合ってやらんでもない」

「言質は取ったでござるよ?」


 気がつけばいつも通り、向こうのペースに飲み込まれている。

 勝気な少女の瞳に、射抜かれていた。


 ああ、そうか。俺は最初からこいつに認めてもらおうと必死に足掻いていたのかもしれない。


 こいつが活躍すればするほど嫉妬していたんだ。

 活躍できない自分に。


「じゃあ次は火の大精霊に行くぞ、全員でだ」

「おいおい、パスカル。もう俺はあんなバカな真似しねーぜ?」


 いつになく険しい表情で俺たちに言葉を放つパスカルは、振り返りざまに俺にこう言った。


「実際、あのまま暴走されていたら俺たちは全滅していたよ。だからモーバ、履き違えてくれるな? お前の暴走はお前が能力を扱えなかったで済む問題じゃないんだ。俺たちの身の安全を守るための保険はいくら掛けていてもいいと思ってる。その為に多少の無茶振りくらいは引き受けるつもりだ。見ろ、さっきの暴走モードを見てまだ俺の肌は震えてる。他のみんなも、お前の内側に潜んでる奴に恐怖してるよ。そこの子犬も同様だ。お前の内に飼ってる存在はお前が思った以上に凶暴だぞ?」

「そうなのか?」


 ジャスミンとパスカルは頷く。

 陸ルートに至ってはよくわからないと首を横に振った。


 オメガキャノンに至っては、放心していた。

 パスカルが水流操作で包んで引きずっていたようだ。


 正気度が1になる自爆技どころじゃねーな。

 いったいどれほどの被害を生むんだ?


 村正が居てくれて良かったどころじゃない。

 パスカルの言う通り、戦況によっては自爆になりかねんぞ。

 だからこそ、地に落ちた信用を取り戻すべく邁進する。


「お前たちに迷惑を掛けていたのを今になって思い知るとは俺もどうやら完全に焼きが回っていたらしい」

「俺だって前回お前の合体に巻き込まれて難を逃れてなけりゃ、今回手を差し伸べちゃいなかった」

「そうか」


 借りを返しただけだ。

 これからは貸し借りなしで行くぞと語気を強めるパスカルに、これはちょっとどころじゃない恩返しをする必要がありそうだと意気込む。


 意気込んだ火の精霊戦は、秒で片がついた。



:リリーちゃんの自爆特攻TUEEEE!

:モーバの武器化からの足止め、そこからチェインでだいたいの敵たおせるんじゃね?


「モーバ、正気度はどれくらい減った?」


 確かめるように聞いてくるパスカル。

 さっきの今だ、心配するのもわかるよ。

 なので正直に言う。


「いや、1射だぞ? 確かに3ヒットはしたが正気度なんてみじんもへらねぇよ」

「領域を展開せずにあの攻撃力か?」

「まぁそれまでにリリーが足止めしてくれてたから射線が通ったのも大きいが」

「普通に手強いぞ、これ。もし聖魔大戦でカチあってもお手柔らかにな?」

「そういやお前らさ、なんで魔導書だから、聖典だからっていがみ合うんだ? 普通に一緒に行動してたら問題あるのかよ?」

「あるんだよ、それが。基本的に聖典側は劣勢に立たされていて、パワーアップイベントは魔導書陣営のデメリットに他ならないんだ」

「へぇ、でも魔導書はそれなりに優遇されてはいるんだろ?」

「アキカゼさんが暴れてる時点でこれ以上ないくらい有利だよ」

「そりゃそうか」


 なんだかんだで聞けば教えてくれるパスカル。

 そのかわり聞かない限り絶対に教えてくれないが。


「モーバ殿? モーバ殿は某と一緒にイベントワールドをまわってくれるでござるか?」

「あったりめぇだろ? 俺の暴走はお前じゃなきゃ止められねぇんだぜ? どうして別行動するって話だよ!」

「ふふ、そうでござった。なら某もモーバ殿に負けないくらい侵食度を増やしてみせるでござるよ?」

「なら、もしバラバラに飛ばされたらどっちが先に会いに行けるか競争だな?」

「フフフ、その勝負乗ったぁ!」

「なんでこの人達、まだエントリーされてもないのにこんなに乗り気なんだろう?」

「放っておけよジャスミン。二人の世界に入っちまってる。こりゃ周りが何言っても無駄さ。配信中だってこと忘れてるんじゃねぇかって心配しても無駄だろう」

「違いない」


:リスナーを置いてけぼりにする配信者のクズゥ

:取り敢えず炎上させんぞ、人もっと呼んでこい

:聖典側から見たら普通に正気度案件なんだが?

:正気度程度で文句言うな!

:これだから魔導書陣営はイカれてるって言われるんだ

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