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第29話 エピローグ

 周りは無視して村正との絆を取り戻す。

 というかジャスミン達のなんとも言えない顔はなんだ?


「まぁいいや。残りは消化試合だな、いくぞみんな」

「|◉〻◉)ほら、いくよみんなー」


 ばっちこーいとばかりにリリーが張り切る。

 本当に同一人物なのかと疑わしくなるほどに分裂体は個性豊かだ。


 一匹は元気よく返事するのだが、どことなく目が死んでるリリー。

 もう一匹に関しては隙あらば怠けようとするズボラなリリー。


 正直チェインがなければ統率が取れないレベルで動きにばらつきが出る。


 最初は普通にリリーが三匹居ただけなのに、いつの間にか個体差を出してきたのは何なんだろう?



「|>〻<)ボ、僕はここで休憩したいです」

「|◎〻◎)ダメだよ、一緒においでよ。楽しいよ?」

「|>〻<)ヤダー」

「|◉〻◉)まぁみんな無理矢理連れて行くんですけどね?」


 結局リーダーシップの強いリリーが水操作で他二匹を無理やり連れて行く。


 このコントでリスナー達のツッコミが追いつかないので場繋ぎはできているのかもな?


「さて、火の契りもこいつでラストだ! 村正、今度はお前が仕掛けてみろ。俺は領域展開でリリーを放流させるだけにとどめる!」

「任されたでござる! ゔぇーだ君! サポートを任せるでござるよ?」

「わんわん『この格好でですか、マスター!?』」

「どんな格好ででも成果をあげるのがサポーターの務め! それともゔぇーだ君は形にこだわるタイプでござるか?」

「ぐるるるる!『そんなわけないでしょう! そこの魚には負けませんよ!』」


 最早背景と化したリリー三姉妹。

 一匹泳ぎながら寝ているのも居るが、リリーティアがチェインで無理矢理叩き起こした。


 寝てても三又の矛が火の精霊を貫いているので、受けた方も精神的ダメージがひどい。


「斬!!!!!!!」

「わおーん『滅!!!!!!!』」


 村正とヴェーダの斬撃がクロスした。

 ヴェーダの奴は爪で攻撃?

 タイミングがぴったりなのは村正の幻影ならではか?


「俺たちも居る事を忘れてもらっちゃ困るぜ!」


 村正達に目掛けて放たれる極大レーザー砲は、パスカルの用意したレンズで乱反射して火精霊にのみ注がれた。


 妖精誘引を纏わせた爪でジャスミンと陸ルートが追撃。


「ゔぇーだ君!」


 村正の声と共にその肉体が大きく膨らんだ。

 獣の姿が現れる。

 そっちが本性か!


 ヴェーダの噛み付いた精霊がもがき苦しんだ。

 これは? 俺の掌握領域と似たような効果だろう。


 俺が掴んだ時と似たような反応をしていやがる。

 そこに縮地で飛び込む村正。


 ヴェーダが、その場から離れると同時、火精霊の肉体を村正のビームサーベルが貫いた。


 火精霊の肉体が消滅して行く。

 リリー達はほぼ賑やかし要因だったが、今回は俺の正気度回復ターンだからいいのだ。


 さて、続けて風行くぞ。

 精霊姫が出張って来なければ、最早精霊戦は消化試合だった。

 地精霊は相変わらず憑依型だし、音精霊は見えないだけで音で教えてくれる。


 風精霊でスキルが強化されてるらしいのだが、魔導書の力が強すぎて実際どの程度の強さなのか全くわからないんだよな。


 そして俺たちは随分と遠回りして龍人の里へとやってきた。


 レムリア人、アトランティス人とは敵対関係にあるそうなので陸ルートは一度戻って通常ボディになってもらう。


 オメガキャノンは武装解除してもらった。

 常日頃から大砲持ち歩いてるのはお前くらいだからな?


「ここからが正念場だぞ、お前ら?」


 正直ここで領域が展開できれば水の精霊姫の召喚でゴリ押し出来そうなものだが、案の定無理だったよ。


「よくぞまいられた地上人よ、歓迎しよう」


 門番の龍人は厳つい男ではなく、女性だった。

 民族衣装の上から突き出す暴力的なボディラインに見惚れそうになる。


 それを察してか村正からつねられる。

 ちょっと目が奪われただけじゃんよ。

 痛ってー。


「モーバ殿、今は抑えられよ。成功するものも失敗に終わってしまうぞ?」


 ただの嫉妬かと思ったら違った。

 普通に嫌われる可能性を鑑みての忠告だった。

 にしては随分と力入ってなかったか?


「わんわん『デリカシーのない奴め。本当、マスターは何故こんな奴に……』」


 ヴェーダからもお小言が飛んでくる。

 最初何でこんな奴が村正の幻影なんだ? って疑問だったが、こいつなりに村正を立てているのかもな。


 って言うか、ツンケンしてる感じが出会ったばかりの俺に似てるのは気のせいか?


 いや、気のせいだ。

 偶然似るなんてある訳がねぇ。


 龍人は俗に言う長老枠だ。

 空の世界では天使だなんて存在がお出迎えしてくれるらしい。


 こっちも見た目は美少女だっつーんだからプレイヤーの心理をわかってるって言いたいね。


 やたら喧嘩っ早い長老達を妖精誘引で宥めつつ、話を最後まで聞くのはちょっとしたリズムゲームのようだった。


 そして最後の龍人を説き伏せた後、俺のシステムに条件解放のメッセージがポップアップした。


 それが地下ルートでしか入手できないムー陣営のジョブ。

 “精霊術師”の解放だ。


 何故か陣営に与してジョブについたら精霊王だなんてジョブに変化したが。

 条件を達成しましたって?


 何だこれ?


 たしかにノーマル精霊どころか精霊姫を使役してるから精霊使いを大きく逸脱してるよ?

 だからっていきなり精霊王はやりすぎだろ。


 つーか、精霊姫召喚に正気度が減らなくなったんだが?


 そのかわり、分母の方の正気度が10減ったけどな。

 デメリットに比べたら随分と安い。


 ランクはⅠだから召喚できる数は一体が限界だが、これはランクを上げていけば同時に使役できる数が増えて行くって話だから伸び代はあるよな。

 問題はランクを上げる相手がムー陣営の先輩精霊術師だって言うんだから気が引ける。

 知ってるだけでもアキカゼさんの認めた聖典の上位プレイヤーとかだろ?

 今からブルっちまってる俺がいるぜ!


 そして村正は『チャンピオン』のジョブについた。

 そんなジョブあったか?


 パスカル曰く初めて聞くそうだ。

 能力の情報は後々出す事にして、今回の配信は恙なく終わった。


 当初は失敗に終わると思われたこの企画。

 物理的に炎上した時はどうなることかと思ったが、実際に終えてみればいろんなドラマがあったように思う。


「今回はこれでおしまいだ。また企画を思いついたら配信するからよろしくな! 実況は俺、モーバと!」

「村正でござる!」

「|◉〻◉)他にリリーと愉快な仲間達でお送りしました!」

「「「「おい!!!」」」」


 最後雑に締めたリリーに対してフレンド達から総ツッコミが入ったが、コメント欄も最後まで視聴してくれたリスナーが続々とコメントを投下させていった。


 そして……



 ◆ ◇ ◆



 アーカイブ化された画像を見つめながら、腕を組んでいたリーガルが重い吐息をはいた。


「村正、本当にこいつでいいのか?」

「お父さん! 今回モーバさんは私に弱みを見せたり、身を挺したり助けてくれました!」

「たしかに結果的に見ればそうだが、触手の化け物に融合させられたり、暴走したあのエルフをお前の涙で正気に戻したりは確かに涙を誘うものがあった。あったけどなぁ?」

「良かったわね、村正ちゃん。お父さん許してくれるって」


 親子の団欒の席。

 母セレンは娘を気遣うように先ほど作ったたこ焼きをテーブルに配膳する。


 つい先ほどモーバがこの化け物になったのを見ておきながら、この結果を出すのがこの母の怖いところなのだ。


 しかし思惑に気づかない親子は楊枝を器用に扱って、それを口に頬張った。

 カリッ、トロッとした味わい。

 噛めば噛むほど味の出るタコの食感に舌鼓を打つ。


「母さん、何で今の話でそんな結論になる?」

「このタコ、モーバさんからの差し入れなの」

「何!?」

「なんでも自身の身を切り落として、詫びを入れたんですって。男じゃない。それにお出汁が出てとってもおいしいわ。自分を潔く差し出せるって相当惚れ込んでないとできない芸当よ?」


 軽く正気度が減りそうな事を宣う母に村正は……


「モーバさん、私のために身を挺して!」


 余計にのめり込む。

 なお、セレンの台詞は半分くらい作り話だが、モーバが詫びとしてタコの切り身を持ち込んだのは本当のことである。


 どこで入手してきたのか、たこ焼きが大好物だと言うリーク情報を得て仕入れてきた。


 よもやセレンによってその情報が捏造されたとも知らずに、モーバは寒気を覚えてくしゃみをしていた。


 そしてたこ焼きに惹かれつつあるリーガルもまた陥落寸前まで追い込まれていた。


「く、俺は絶対にこんなもので絆されんぞ!? 確かに美味い! 美味いが! くそー!」


 バクバクと食い進めるリーガル。

 すっかりたこ焼きのタコをモーバの肉体と信じ込み、咀嚼する事で溜飲を下す。


 そしてモーバと言えば、リーガルからの感情的な赦しを得る事ができずに正式にクラン『森林組合』から追放された。


 もうリーガルのクラン『餓狼の遠吠え』に参加する事でしか行き場を失ってしまった状態だった。


 ◆ ◇ ◆



「で、お前の親父さん、俺のこと許してくれた?」


 一晩経ち、翌日。

 俺はすっかり上機嫌になったハーフマリナー状態の村正へと尋ねる。

 リリーとはすっかり仲良しになったようだ。

 ただ、ヴェーダのやつの眼光だけは日増しに鋭くなっている。


「お付き合いすることは正式に決まった感じでござろうか?」

「そっちじゃねぇ!」

「えー、照れなくてもいいではござらんか……」


 結局俺は村正といい感じに連む事を許可されはしたが、それ以外の一切合切を失う事になった。


 なんでクランから追い出されにゃならんのよ。一応幹部よ、俺? そんなに嫌われてたなんて思わなかったぜ。


「|◉〻◉)いえーい、マスター冷えてるー?」


 突如巻き込まれた聖魔大戦の片道チケットである魔導書を手にさせられ、後に引けないレベルの正気度を失いつつ。


 俺の報われることのない旅の一ページはこうして幕を閉じた。


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