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第18話 大人を頼ろう!

【ハヤテちゃんを】AWOアイドルの卵を探せ!【見守る会】


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0612『そんじょそこらの査定員』

 はぁ、ハヤテちゃんかわゆ



0613 『そんじょそこらの査定員』

 トキちゃんだって可愛いだろ?



0614 『そんじょそこらの査定員』

 いやいや、このチームはみんな可愛いどころが揃ってるだろがい!

 俺、直接手渡しされちゃったぜ

 ハヤテちゃんのホットサンドうまいんだよなー

 可愛くてお料理上手とか、将来有望すぎかよ



0615『通りすがりの保護者』

 はい、みんな

 愛でるのはいいけど一定の距離を保つように

 あまり接触して気取られたら元も子もないからね


 YES、ロリータNOタッチだ

 いいね?



0616 『そんじょそこらの査定員』

 プロデューサーから保護者になってる



0617 『そんじょそこらの査定員』

 この人がなんだかんだ押し付けがましくないか?



0618 『そんじょそこらの査定員』

 草




 ─────────────────────────



「ほら、ここ」


「うわ」



 この仕切り具合、確実におじいちゃんだ。



「ハヤテちゃん、身に覚えは?」


「これ、きっとおじいちゃんだ。こういうことやめてって言ったのに」


「おじいちゃん?」



 私はここで遊ぶときに一度顔合わせしたことがあると話す。

 お姉ちゃんはその時学校だったので、まだ面識はないけど。

 まぁそこで色々と取引をしたのだ。


 厳密には借金だけど。

 向こうは保証としてアイドルになってくれたら借金をチャラにしてくれるといった。

 そのことを語れば。



「だから隙を見てアイドル活動をさせようと?」


「うん、私にそのつもりはないけどね」


「でも借金があるんだよね?」


「おじいちゃん、私に甘いから色々理由つければ踏み倒せると思う」


「ハヤテちゃん、いつからそんな悪い子に!」



 肩を掴んでガックンガックンされた。

 まぁ急にそんなこと言い出したらそりゃ驚くか。

 なのでここで借金の値段を提示。



「二億?」


「うん、アベレージでだよ? これ絶対吹っ掛けてると思うんだよね」


「それだけすごいアイテムってこと?」


「すごいかどうかって言われたらすごいかもしれないけど」



 私は一番最初に選ぶスキル骨子を、未使用の状態にした上で、別の初期スキルを設定できる権利だと話す。



「え、チートじゃん!」


「チートじゃないよ。そういうアイテムなの」


「誰もが欲しがる素敵アイテムじゃん!」


「いっそ、みんなでもらいに行く? そうすればハヤちゃんだけ背負わなくても良くなるし」



 リノちゃんがとても悪い顔をする。

 困ったなぁ、私は別に借金を背負わせたいわけじゃないのに。



「あの、無理して背負わなくったっていいんだよ?」


「ハヤっち、あたしたちマブダチなんだよ? 一人だけ重い借金を背負ってるって聞いてなんとかしてあげたいと思ってるの」



 ミルちゃんがらしくないくらい真面目な顔で迫ってくる。

 ちなみに稼ぐ気はない。

 踏み倒す前提での借金だ。



「本音は?」


「どうせここから吟遊ロールするんだから、実質アイドルだよね? それでチャラになるんなら、いっそみんなで踏み倒そうかなって」



 ミルちゃんに引っ張られて全員その気になっている。

 これ、止めた方がいいんだよね?

 でも私が言い出しっぺだしなぁ。



「お姉ちゃん、私のこと言えないくらい悪い顔してるよ?」


「そんなことないよ、見てよこのつぶらな瞳」



 無垢な小動物を装っているが、どこからどう見ても悪意満々の腹立たしい顔だった。

 おふざけで億単位の借金をする方も、踏み倒せると思ってる方もどうかしている。

 え、言い出しっぺの私が言うことじゃない?

 それもそう。



「でもなー、私のおじいちゃんだしなー。みんなのおじいちゃんじゃないんだよなー」


「なら、ワンチャンあたしはもらえるってことよね」



 諦めるつもりがこれっぽっちもないお姉ちゃんのセリフを聞いて、リノちゃんもミルちゃんも黙ってられない感じだった。

 そこからはどれだけおじいちゃんに愛されてるかの勝負になり。

 野菜の犯罪そっちのけで自分たちの将来性にどれだけかけられるかの勝負に発展した。

 呼び出されたおじいちゃんは、困った顔をしながら私のところにやってきた。



「ハヤテ」


「なぁに」


「お前がいてどうしてこの喧嘩を止められなかったんだろうね」


「無理だよ、おじいちゃん。私だけ贔屓して、みんなが納得できるわけないじゃん」


「まさかだとは思うけど、僕を強請ってるのかな?」


「違うよ、先行投資だよ。私やお姉ちゃんの将来性にどれだけ投資できるか。今求められてるのはそこなんだよね」



 だからさっさと出すものを出したほうが丸く収まるよ?

 そう言いくるめる。



「ものは言いようだな」


「おじいちゃん、あたしもハヤテちゃんみたいなの欲しい! 一個! でも欲を言うなら二個!」


「この欲望の際限がない感じ、マリンそっくりだ」


「お母さんもこんな感じだったの?」


「知ってるくせに」



 どこか呆れたような、かつての私に向けたような物言い。

 どうだかな。

 私は求められたら求めた以上に渡す人だったから。

 だからおじいちゃんの苦労はわからないんだ。


 結局、お姉ちゃんのねだり勝ち。

 流石に二個は投資してもらえなかったが、これで同じ借金をしたね、と喜ぶ。

 借金をして喜んでるんじゃないよ、この子は。



「まいった、まいった。うちの孫が世話をかけた」



 うん、この人は確か。

 リーガルさんだよね?

 じゃあ、やっぱりリノちゃんて。



「おじいちゃん!」


「おう、元気にしてたかリノ。お母さんとお父さんはまだ用事があるからログインできないが、じいちゃんがきてやったぞ!」


「おじいちゃんは私にどれくらい投資してくれるの?」


「オクトさん、こりゃ一体なんの話だ?」


「どうにもこうにもなくてね」



 かくかくしかじかと説明をする。

 内容を聞いたリーガルさんは、額を手で打ち、子供のうちからおねだりする金額のスケールがビッグすぎるとため息をついた。



「在庫はいくつある?」


「モノはいくらでもあるけどね」


「じゃあ、五個だ」


「毎度あり」


「リノ、じいちゃんあんまり一緒に遊んであげられないけどな。こう言うプレゼントならできるからいつでも頼ってくれていいからな?」


「わぁい! おじいちゃんすきー」


「はっはっは」



 うんうん、これが正解だよ。

 私でも絶対同じことをする。

 孫にせっつかれたら何億でも提供して然るべきだよね?

 うちのおじいちゃんときたらケチくさい。



「いやはや、なんでしょうね、この騒ぎは」


「じいじ!」



 続いてやってきたのは、やっぱりねと言う存在。

 カネミツさんだ。



「ミルモ、こっちで会うのは初めてだったね。お母さんはこのことを知ってるのかな?」


「絶対言わないで! もう勉強部屋に缶詰はいやーー」


「その約束をする保証はどこにもないが、一体どんな状況なのかを説明できるかい?」


「あのね、あのね」


「なるほどな。投資額で愛情の深さを図るか。なんとも理解しかねるが」



 うちのおじいちゃんと同じ頭脳タイプのカネミツさん。

 さて、どう出る?



「オクトさん、こちらにも五個だ。孫が欲しがってるんだ、是非もない」


「じいじ、太っ腹!」


「はっはっは。こんなところでケチケチなんてしてたらお里が知れるからな。なぁ、オクトさん」


「ぐぬぬぬ」



 おじいちゃんの歯軋りがすごい。

 私だけでも5億、さらにお姉ちゃんも合わせて合計10億の借金だ。

 たとえクランリーダーといえど、自由に動かせるお金はそうそうないだろう。



「わかった、トキ。五個持っていきなさい。ハヤテは三個でいいね?」


「無理してない?」


「後で覚えておくように!」



 やっぱり無理してたんじゃん。

 これはいよいよ持って後に引けなくなってきたな。



「あ、そうだ。他にも」


「まだ、何かあるのかな?」



 おじいちゃんは歯軋りと血涙がひどい。

 そんなに厳しかったのか。

 ごめんよ。



「実は……」



 お互いに借金を重ねた者同士、身内にどう弁明するか悩んでいる場所へ新たなる情報を投げ込む。



「は? うちのミルモの野菜に高額をつけた? そいつはなかなか見る目がある人だね。でも、その後の契約がいただけない。騙す気満々じゃないか」



 カネミツさんは心ここに在らずとその場で掲示板を開いて何やら忙しなく情報をまとめていた。

 放っておけば事件解決に動いてくれることだろう。



「リノはミルモちゃんを助けたいか?」


「うん、友達だもん」



 リーガルさんは、リノちゃんの気持ちを確かめてるようだ。

 その上で協力を惜しまない。

 こう言う力強さって魅力だよね。

 リノちゃんもだから信頼しきっている。


 それに比べてうちのおじいちゃんときたら。



「お前たちは」


「言わなくったってわかってるよね?」


「うん、気持ちは一緒。ミルちゃんは友達だもん」


「まぁそうだよなー。そうか。うん、うん。そうだな。仕方ないよなー、うん。僕も男だ。覚悟を決めようか」



 やたらと頷いて、ぶつぶつと一人ゴチる。

 これはあれだな、きっと今回の損害の回収をその相手からどうやって接収しようかとか考えてる時の顔だ。

 私は詳しいんだ。



「ミルモ、相手の所在が割れた。おじいちゃんこれから交渉に行ってくる。お前はここで待っているんだぞ?」


「カネミツさん、俺も行くぜ。リノとの約束を果たさないと」


「ははは嫌だな皆さん。孫の前で僕一人を悪者にするつもりですか? もちろん僕もいきますよ」



 やや駆け足で、お爺ちゃんズは路地裏へと消えていった。

 あんまりやりすぎないで欲しいなと思いつつも、借金を背負った男たちがどのような行動に出るのかはあまりにも想像が容易い。

 まだこちらは被害にすらあってないのだが、きっといろんな罪をなすりつけて資金を回収するんだろうな。



「慌ただしかったね」


「うん。でもじいじはここぞと言う時に頼りになるってわかったから」



 収穫だ、とミルちゃん。



「うちのおじいちゃんはヘタレだったね」


「額が額だから仕方ないと思うよ?」



 お姉ちゃんは意地悪く言うが、アベレージ10億。

 普通に遊んでいても、ポンと出せる額じゃない。

 それを孫に向ける愛が本物かどうかで出させたのだ。

 悪い女だよ、私たちは。



「でも結局、出してくれたし」


「まぁね」


「じゃあ、やるの? アイドル」


「まずは吟遊詩人ロールをやって、それで度胸がついたらかな?」



 今すぐにどうこうするって話じゃないし。

 そもそも、今回の話はおじいちゃん側は蹴っても良かった。

 けどそうならなかったのはメンツの問題だ。


 みんながクランを背負って立つ身。

 それが孫のお願い一つ叶えてやれないと言うのは、まぁまぁ器を疑われる行為なのだ。

 問題はおねだりの額なんだけどね。


 私としては、お姉ちゃんの吟遊ロールにくっついていく上で、さらに不要スキルを交換できたらいいなくらい。

 ここで+3個は渡りに船だった。



「その時のためのスキルチェンジャーだっけ?」


「うん。私は戦闘系しか取ってないから。音楽系は後で伸ばそうかなって。5つもくれたときは驚いちゃった」



 リノちゃんは率直な感想を述べる。

 おねだりはしたけど、まさか手に入るとは微塵も思ってなかったのだろう。

 正直私も無理じゃないかなって思ってた。



「うちのじいじも、対抗意識バリバリだったもんね」


「実際に自分が出す側だったら絶対尻込みする額だもん」


「それー」



 しばらく後、無事に話はついたと連絡が来た。

 その後はおじいちゃん自慢で盛り上がった。

 そこでちゃんとフォローしといたから元気出してね、おじいちゃん。

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