目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第17話 マーケットを上手に使おう

「みんなお疲れ様ー、分担作業のおかげで、いつもより多く仕事が片付きましたので、お給料を配りたいと思いまーす」


「いいの? あたしたちはどちらかといえば贖罪として手伝ったんだけど?」


「その贖罪で有り余る成果が出たので感謝の印だよ、受け取ってくれたら嬉しいな」



 全てを品質Aで収穫できた私にとって、それは嬉しい誤算。

 いや、そう言うことなのか? と言う理解。


 ジャガイモが全ての原因だったのだ。

 今回はサラダ用の食材のみで統一させて集中的に栽培したのが良かったか、または同じ属性で統一させた結果か。

 全てA判定で収穫できた。


 これは自分にとっても新しい発見の類。

 理解への第一歩故の成功報酬だった。


 まさか人に教える過程で自分の悩みが解決するとは思わなかった。



「では、ありがたくいただきます」


「いただきまーす」


「助かるよ」


「とは言っても現物支給なんだけどね、はい」



 畑の野菜は品質が高ければ高いほど、収穫時に量が多く採れる性質を持つ。

 そこは収穫からの派生スキル『大捕物』を持ってるかどうかで決まるが、私は派生させているので予定より多めに採れた。


 手渡したのはC~Aの各野菜を一本づつ。

 みんなこんなに? と言う顔をしている。



「これを直接マーケットで販売して、その利益をみんながもらっていいよ」


「おぉ」


「でもお店や畑に迷惑をかけるのは禁止で」



 つい先ほど店に迷惑をかけたばかりのメンツである。

 ここの農園は借り物だから、そこはやっぱり心配。

 信用を大きく損なう恐れがあったので釘を刺したわけである。



「「はーい」」



 考えを見透かされたか! と言う顔のミルモがむず痒そうにしている。

 この子本当にわかりやすいなー。



「ハヤテちゃん、なんでまたそんな感じで報酬を?」


「実際、NPCのストアに売却すると品質に関わらず一律での買取なんだ。味にこだわってないのか、はたまた家畜の餌なのかわからないけどね」


「なるほど、だからマーケット?」


「うん、相場の変動額が本当に見ものだから。セットした時の金額に驚いてもらえればなって」



 マーケットへの売却は相場が売値に現れる。

 前回の命のかけらは平均相場が800~。

 それを上回るか、下回るかは出品者の意思で決められるのだ。


 多くの場合は平均値以上だと買ってもらえない。

 だからと言って下回りすぎたら利益が生まれない。

 そこで大いに悩まされるのである。


 すぐに売却したい場合は少し安めで。

 大金を得たい場合は高く釣り上げる。


 臨時報酬組はお金を欲しがると思いきや、意外と堅実な値段設定にしていた。



「だから現物支給なんだ?」


「AWOって、お金のやり取りより、物々交換が主流のところがあるからね。相場を知っておくことは人生を豊かにするよ」


「ほほー、言うじゃないですか」



 お姉ちゃんに言い含める形で、今後のマーケットへの物品を流す考えを固定化させるのが狙いだ。


 今はまだ、自分の手で何かをした感覚を掴めきれずにいるが、ゆくゆくは大道芸人(?)や旅の吟遊詩人としてお金以外のものを支給される日が来るだろう。


 中には武器に必須な鉱石とか、私の料理に必要な上級のお肉とか、そうゆうのを入手する機会に恵まれる日だって来ることだろう。



「あたしたちに気を遣ってくれたんだ?」


「よそ様で迷惑をかけないために?」


「この、ハヤテちゃんめ! お姉ちゃんは怒りました」



 羽交締めにされた。



「ギブ、ギブ」


「ダメですー許しませーん」


「何やってるの?」



 二人で戯れてると、なんの騒ぎだとリノちゃんがやってくる。

 おお、神様! やはり日頃の行い!

 こういう時に報われるんだね。

 私はリノちゃんに助けを乞うた。



「助けて!」


「わかった」


「ウヒャ!」



 待って、どうして羽交締めにされてる私を助けずにお姉ちゃんを羽交締めに?

 まだ私の拘束が解かれて……ぎゃーー!

 より強い締め付けが私を襲う。


 そんな戯れにさらなる脅威が迫る。



「あんたら、楽しそうじゃない。混ぜなさいよ!」



 圧倒的に体格が不利なミルモちゃんの登場だ!



「助けて」


「ダメ、先に助けてもらうのはあたし」


「お姉ちゃんずるいよ!」


「お姉ちゃん特約です」


「で、どっちを助ければいいの?」


「私! 私!」


「だめ、あたしあたしあたし!」


「まるで反省の色がない。もっと締める」



 リノちゃんがお姉ちゃんの腰に膝を置いたのだろう。

 その反動が私にきた。


 ぎゅむーーー!

 こんなおしくらまんじゅうをしたのは初めてだ。

 えーい、こうなったら!


 私は人魚モードに変身! その場で急速にバタ足をして羽交締めを脱する。



「わっぷ」


「へへーんだ、いつまでも捕まらないよーだ」


「あ、こらずるいぞ! あたしも、えいや!」



 私が難を逃れた仕掛けを知って、今度はお姉ちゃんも追いかけてくる。



「痛い」



 尻尾ビンタを顔面で受けたリノちゃんが両手を覆って塞ぎ込んでいる。



「お姉ちゃん、やりすぎだよ」


「えー、これあたしが悪いの?」


「一緒に謝りにいこ?」


「そうね。ごめんね、リノっち」


「ダメ、許さない」



 今度は両手両足でお姉ちゃんにしがみつくリノちゃん。



「このままお空の旅、レッツゴー」


「待って、人一人抱えて飛ぶのってこんなに大変なの?」



 大幅にSTが減ると言うわけではない。

 けれで浮き上がるための操作がとても大変そうだった。



「自分一人ならなんとかなるけどね」


「平気、私軽いから」


「あたしも軽いですよーだ!」



 謎の競争心をむき出しにして、私たちは空の上まで追いかけっこをする。


 なんだかんだと空まで上がれないリノちゃんは、こう言う機会をずっと窺っていたのかもしれないね。

 疲労困憊の顔を見てられなくなった私は、リノちゃんの手を片方受け取って重力を分散。


 割とすんなり空中に浮いた。

 やっぱり体の制御を奪われての飛行は相当大変そうだった。



「最初からこうすればよかったね」


「まさか人を抱えて空中遊泳するなんて思わないじゃん」


「今後はそう言う場面もあるかもだよ?」


「空の上から吟遊ロールを?」


「出来らぁ!」



 謎の対抗心をぶつけ合うお姉ちゃんとミルモ。

 付き合わされる方の身にもなってほしいよね。


 そんなこんなでのんびりと街の遊泳をしながら、マーケットから連絡のメールが出る。

 安く捌いた方はん無事売り切れたみたいだ。


 私とお姉ちゃん、リノちゃんはホクホク顔で代金を受け取った。

 販売方法はお金か素材。


 二人はお金で、私は調味料に必要な素材を求めていたのである。

 ただ、一人だけ表情を青くしている者もいた。

 ミルモである。



「ミルちゃん、どうしたの?」


「お値段高くしすぎて売れなかった?」


「えーと、なんていうか」



 売れるには売れたけど、まさか買い手が見つかるとはと言う顔だったことを販売画面を見ることで知った。

 やっぱりこの子は大金をふっかけていたよ。

 それも途方もない金額を。


 何せ書いてあるのはシルキーお手製の高品質野菜という売り方で。

 相場の10倍の値段をふっかけて買った人がいるのだ。



「そういえば、コネ種族なんだっけ、シルキー」


「コネ言うなや!」


「なんだよーあたしたちのハーフマリナーだってコネだぞ!」



 そうなの?

 私は驚く。



「あれ、ハヤテちゃん知らなかった?」


「全然」


「お母さん言わなかったのかなー? お母さんがクトゥなんたらのご主人様だから、選べる種族だって」


「そうだったんだ!」


「だからミルっちの家族もなんたらのご主人様の可能性があると思ってね」


「おー、そうだったんだ! お母さんは何も言わなかったよ?」


「言ったら方々で言いふらす可能性が高かったのでは?」


「「「あー」」」



 本人まで納得してるの面白すぎない?

 ともあれ、そうか。

 お母さんが今代のクトゥルフさんの召喚者だったか。

 いや、聖魔大戦では幾人もの召喚者が在籍していたか。


 でも、過去改変まで行えたプレイヤーはそう多くない。

 あれから20年。

 きっと多くのプレイヤーが過去を改変し、文字通りゲーム内はさまざまな陣営による統治が行われたのだろう。



「それで、その購入者のお話は?」


「今後そのお野菜を提供してくれるなら、今後とも取引を続けたいと」


「ランクはずっとAで?」


「うん」



 農園にとってはプラスになる取引だ。

 けど、向こうは借り物の農園であることを知らないわけで。

 ミルちゃんもずっと取引をしたいわけではない。

 と、なると。ここはお断りのメッセージをする方が丸いか。


 向こうがなぜシルキーを欲しているかもわかってないしね。

 本当にただ、シルキーが関わった野菜に付加価値がつくのだとしたらそれはこちらも知っておきたいし。



「返事はまだしないで。一旦私たちの噂を掲示板から拾い上げていこう」


「え、今日ログインしたばかりで噂?」


「どこかの誰かが写真をネットにばら撒いたお陰でね」


「「その点は猛省しております」」



 お姉ちゃんとミルちゃんは空気が抜けたように萎れた。

 息ぴったりだよなぁ。



「あった、結構噂は広まってるっぽい」



 その間、一人黙々と検索作業をしていたリノちゃんが、私たちの非公式ファンクラブなるものを見つけていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?