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三十三話「第一回!ケイティ先生の魔法訓練!」




 燦々とした大地。

 風車が回るその古畑跡に、二人の魔法使いが立っていた。


 一人は藍色の三角帽子を被っている茶髪のケイティと。

 青色のローブに、ワクワクしたような表情をしているサヤカが立っていた。

 そして、叫んだ。


「第一回!!ケイティ先生のーーー!!」

「魔法訓練ー!!」

「………」


 ん!?!?!?!?!?!?


 ケイティはその掛け声と共に、サヤカがノリノリで片腕を上にあげる。


 まて、なんだその掛け声は。

 どうしてサヤカも当たり前に乗ってるの?

 この流れに乗り遅れているのって俺だけ?

 誰かお願いだから説明してよ!!


「説明しよう」

「説明始まっちゃったよ」

「今回、サヤカさんからお願いされた通り。

 神級魔法使いであるケイティ先生、つまり私が。

 直々に、サヤカさんに魔法を教えると言う事で」


 なるほど。そういうことか。

 いきなり家にケイティが来た時は驚いたが。

 そうゆうことなら別に心配しなくていいか。


「ん。でもいつの間にそんな約束をしてたんだよ」

「兄ちゃんが兄さんの所に行ってる間に」

「その表現すごいわかりにくいな」

「ケニー兄ちゃんが、カール兄さんに会いに行ってる時だよ」

「あー。その時か」


 確かにあの時、昼間は家を開けていたからな。

 その時にケイティに会いに行ったのか。

 まぁ、色々してたしな。


「さて、とりあえず最初は」


 と、ケイティはサヤカに近づいた。

 確かに神級の魔法使いであるケイティなら、魔法を教わる上で得られるものが多そうだな。

 でも、どうしてこのタイミングで?


「………」


 ふと、自分の口が小さく空いた。

 その気づきに、思わず考えた。

 サヤカの目は、真剣だった。

 その真剣な瞳を見て。

 なんだか胸がキューと締め付けられる様な感覚に陥った。

 いや、別に見惚れたわけじゃない。

 ただ。どうして今更魔法を教わろうとしているのか。

 その理由に、なんとなく察しがついたからだ。


「っ……」


 ふと、口元に力が入る。

 なんだか。もどかしいな。


 多分サヤカは、自分が力不足だと気づいたのだろう。

 あの戦いで、まともに立ってすらいられなかった自分が、嫌だったのかもしれない。

 気持ちはわかる。が、それが当たり前なんだ。

 その情熱で、その激情で。

 良くない方向へ、行かなければ良いんだがな。


 ………。

 人はいつか、世界が不条理な事に気がつく。

 俺も昔、その不条理さを目の当たりにした。

 だから良くない方向へ俺は進み。

 数ヶ月前の、クソ野郎が生まれた。


 でも、俺はもう違う。

 変わったんだ。

 親になったんだ。

 親孝行も、出来たと思う。

 見守ろうじゃないか。

 信じようじゃないか。

 寄り添おうじゃないか。




 そこからケイティの魔法訓練は数時間行われた。

 主に、サヤカの今できる力量を測るため、サヤカが色んな魔法を使うだけではあったが。

 それをみて、ケイティもどこか納得をした様だった。


 そして、俺の目の前に来て。


「才能の塊だね」

「わかりみがすごいな」


 サヤカは今一人だけ先に家に居る。

 今日はもう日が落ちて、ケイティにうちでご飯を食べてもらう事になった。

 でも俺は、ケイティに話があると止められ。今に至るわけだ。


 家の庭にある、腰の高さしか無い石垣に座っていた。

 目の前でケイティが、そう言うと。

 よいしょと、俺の横に座る。


「話に聞くと、あの子は元々性奴隷だったと」

「そうだ。……性奴隷に、あんな魔法の才があるもんなのか?」

「普通ではないよね」

「じゃあ。なんか理由とか?」

「別に特別ってわけじゃないと思うよ。

 多分今までが色々不幸せで、その跳ね返りが来てるんだと思う」


 意外とケイティは冷静だった。

 ケイティは教師の資格を持ってる。

 子供がその場にいれば、笑顔になって場を盛り上げる。

 だけど、大人しか居ない場所では。


「あの子も、きっと今が大好きなんだろうね」

「……あぁ。そうだな」

「でも、多分だけど。あの子の血縁は魔法使いだと思う」

「そうだと思うか?」

「うん。どんなけクズな人でも、魔法使いにはなれるからね」


 確かにそうだな。

 魔法使いは人柄じゃない。

 その当人の努力と、才能だ。


「そう言えばだけどさ」

「ん?」

「兄さん、サヤカくんの病室に何日も居たって言ってたけど」

「………」

「実際は。調べることがあるからって言って、病室に居なかった時間のほうが長かったよね」

「その事については、いずれ話すよ」

「……そう。分かった」


 流石、としか言えないな。

 いや。わかりやすかったかな。

 まぁ今は話さないかな。


「明日、ゾニーとエマ姉さんに会いに行ってくるよ」

「らしいね。ベイカー邸に行くらしいじゃん」

「おう。まさか、王都から東側にベイカー邸があるとは。知らなかったよ」

「一応別荘ね。

 一回だけ行ったことあるけど、そんなお屋敷って感じじゃなくって。普通の家だったよ」

「そうなのか?てっきりでかい花畑が庭にある場所だと」

「別荘にそんなお金を掛けないと思うよ」

「それもそうだな」


 明日が楽しみだ。

 エマ姉さんとやっと話せるし、結婚相手も気になってた所だ。

 ケイティとはこうして意外と触れ合っているが。

 エマ姉さんは、別の家がある人間だ。

 そう簡単に出歩けないし、ベイカー家と言う貴族の人間でもある。


 でも、やっと、明日話せるんだ。

 楽しみだけど。なんて言われるか、心配だな。


 『――そんなの、現実的じゃないよ』


 …………。

 聞きたいことも、あるしな。



――――。



 聞いていた通り。本当に屋敷とかではなかった。

 舗装された道を歩き、その2階建て建物の前に。

 俺と、ゾニーが立っていた。


「なんだか、ケニー兄さんとお出かけなんて。緊張するな」

「そうか?」

「そうだよ」

「まぁあまり二人っきりなんて無いからな。何か荷物とかあったら俺に押し付けろ」

「不便を掛けるね」


 ゾニーは足を折っている。

 だから、二本の松葉杖でこの場に来ていたのだ。

 正直危なっかしいからじっとしていてほしいが。

 ゾニーの意思でついてくると言ったので、本人が言うならと言う事だ。

 医者は運動さえしなければ大丈夫だと言ってたしな。


 ――コンコン、と。

 そう玄関の扉を鳴らす。

 すると、すぐさま扉が開いて。


「お待ちしておりました。ケニー・ジャック、ゾニー・ジャック様。中へお上がりください」


 と、執事の様な男性が顔を出す……ん。お前確か。


「お前……父さんの屋敷で雇われてた」

「如何にも、私があの場に居た執事でございます。あの場では訳あって名乗れませんでしたが」


 そう言う執事は、一度身なりを整え。

 軽くお辞儀をした。

 このお辞儀は覚えている。

 貴族の挨拶だ。


「私の名はハイド。以後、そう及びください」


 歳で言うと、俺より少し上に見える。

 父さんと歳が近そうだ。

 でも、その雰囲気は年寄りとかじゃなくって。

 どこにも欠点がない、執事と言う言葉を体現している様な印象を受けた。


「ハイドさんは、元々ベイカー家の執事だったんですか?」


 と、俺は質問をする。

 するとハイドは振り返らず。平然と受け答えした。


「はい。エマ様繋がりで、たまたま別荘に居た私が派遣されました。

 あの場には、あなたの兄妹繋がりの方々が沢山居ますよ」

「知ってるさ。全部な」

「作用でございましたか。言葉が過ぎました」


 俺はゾニーに肩を貸し、そのまま玄関に入った。

 案外、玄関先は広かった。

 だけど、流石に松葉杖で移動出来るほどのスペースは無かった為。


「そこまでしなくても……」

「いいんだ。時にはお兄ちゃんらしいところを見せなきゃな」

「いや、その……」

「どっか痛かったら言えよ。お兄ちゃんが」

「いや!!その……大丈夫だから」


 お、おう。そうか。

 なんか顔が赤いぞゾニー。

 熱でもあるのか?


「エマ様、ケニー様方がお越しになりました」


 ハイドは、角を曲がった先の扉にそうノックをした。

 すると、懐かしい声で「入りなさい」と聞こえたので。

 ハイドは扉を開けた。


「……」

「久しぶりだな。エマ姉さん」


 扉の先は、質素な部屋だった。

 窓が空いていた。

 窓から白い光と共に、白いレースが揺れていた。

 そしてその近くで、椅子に座りながら。


 ――儚げに、凛とした女性。

 金髪の髪で、緋目が鋭く輝く美女が居た。


「三週間ぶりね。ケニー」

「三週間前の事はあまり覚えてないんだ。だから、俺からしたら。あの時ぶりだろ」

「……ええ、そうね」


 そう言うと、その女性は薄く笑った。

 その女性の名は、エマ・ J ・ベイカー。

 長女だが、実は俺より年下だったりする。

 だが、長女だからか兄妹の中で一番落ち着いており。静かな気品がある。


 モゾモゾ、と。俺の肩で動くゾニー。

 何かをしようとしているゾニーを俺は支えると。

 ゾニーがエマ姉さんに顔を向けて。


「父さんの事、面倒見てくれてありがとう」

「どうした、の?ゾニー」

「いやさ。僕は何もしてなかったんだよ。稽古に夢中で、父さんの事なんか忘れてた」

「……」

「だけど、姉さんと兄さんは。父さんと最後に、親孝行をした」

「そうね」


 エマ姉さんは。別に冷たかったわけじゃない。

 その肯定は、事実を認めただけだ。

 別にひどい人じゃない。心優しい人だ。

 優しいから、ゾニーの気持ちがわかるのだろう。


「あなたが稽古をしたことで、助けられる命が増えると。お父様は思っていたと思うわ」

「……そうか。そうだよね。ありがとう」


 ゾニーは、なんだか安心したように俯いた。

 ……悔いていたのだろう。

 その場に居なくとも、出来ることはあったのではないかと。

 カール兄さんは忙しい自分に変わり、仕事仲間に護衛を任せ。

 エマ姉さんは信用できる執事を付け父のサポートした。

 ケイティは旅をしていたから仕方がないとして。

 カール兄さんと同じ王都に居たゾニーは。

 どこか、心のなかで葛藤をしていたのだろう。


 さて、今度は俺が言う番か。


「改めて言わせてくれ。助けてくれてありがとう」

「……たまたまだよ。私は別に、助けたつもりは無いわ」


 …………。

 おっと、冷たいな。

 まぁ、俺にだけは冷たいのは仕方がないか。

 元々。エマ姉さんとは……あまり仲良くなかったし。


 ………。

 なんだこの静けさは。

 エマ姉さん。自分で言って空気悪くしたんだぞ。

 自分でなんとかしろ。


 すると、苦しくなった沈黙を破るように。

 エマ姉さんが口を開いた。


「イアンが力を貸すと言っていたわ」

「……イアンって」


 と俺の横で呟いたのはゾニーだ。

 すぐさまエマ姉さんは反応し。


「イアン・ベイカー、私の結婚相手よ。話を続けるわ」

「あ、うん。割り込んでごめんなさい」


 こっほん、と。仕切り直すように喉を鳴らすエマ姉さん。


「イアンは街の復興に協力したいと言っている。

 ベイカー家は色んな国に別荘がある大きな貴族だから、ある程度協力が出来る。

 戦った騎士のケアも、専門の者を雇うことも出来るわ。

 なんならある程度まとまった額を出し、支援金にすることも考えている」

「ちょっとまて、どうしてそこまでやってくれるんだよ」


 その話を聞いて、俺はそう言った。

 イアン・ベイカー。

 ベイカー家当主の息子であり。エマ姉さんと結婚した人間だ。

 でも、どうしてそこまで善意を尽くしてくれるのか分からなかった。

 だって、今回の件になんも関係していないからだ。

 でもエマ姉さんは。


「簡単な話よ」

「……簡単な?」

「私とイアンが出会った大切な街でもあるし、お父様が築き上げてきた街だから」

「……」


 はっきりと、エマ姉さんはそう言った。


 ……そう言ってくれて、俺は嬉しかった。

 やはり、あの父親の背中を見て育ってきたからだろうか。

 みんなが理解している。

 あの街は、父さんの形見だ。


「そこで提案なんだけどさ」


 と。俺は切り出す。


「……聞こうじゃない」

「数日後、父さんの墓場にみんなで集まらない?」

「………」


 これは元から言っていた事ではある。

 と言うか、エマ姉さんやケイティはそれが目的でこの街へ来た。

 だから。せっかくだから。

 兄妹全員で、行こうと計画したのだ。

 エマ姉さん以外の兄妹には、既に話してある。


「……わかったわ」


 意外と普通に了承してくれたのは驚きだったが。

 遂に、これで……。




 エマ・ J ・ベイカー。

 ケイティ・ジャック。

 ケニー・ジャック。

 カール・ジャック。

 ゾニー・ジャック。


 五名が、何十年ぶりに。

 一箇所に、集まる。




 余命まで【残り254日】


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