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五十話 「あと一年で死ぬけど、この子育てます」



 次の日になった。

 時刻は日の出である朝の6時頃だ。

 前日、俺たちは王様の元へ赴き、そこで死神の真相とやらを聞かされたわけなんだが。

 それを昨日、軽くサヤカに話しておいた。

 サヤカの反応はまぁ予想通りって感じで。

 終始驚いたような顔で静止していた。


 死神。

 俺とサヤカの敵となるその存在。

 そうだなぁ、本当は戦いとか嫌なんだが。

 まぁ仕方がないか。

 敵対するなら、俺たちの幸せを壊そうとするなら。

 戦うしかない。


「うぅ、少し寒いな」


 と、俺は王都の街を歩く。

 もう時期は9月だ。

 夏を感じていたあの時から随分と時間が進み。

 夏の暑さはもう消え、秋の寒さが少しづつ顔を出してくる。

 サヤカと出会って、もうそろそろ半年か?

 もうなんか、感慨深いな。


 街を歩き、またしばらくは見れない王都を眺めながら思う。

 昨日の大雨の影響か、霧が濃く。

 数時間後に馬車で帰るのだが、本当に馬車で帰れるのかと心配になってしまう。

 そういえばトニーは昨日、何だか思いつめたような顔をしていたな。

 あぁ、そういえば。

 あいつは王都で働いている兄を探していたのか。

 見つけられなかったのかもしれないな。

 まぁ、気に病むことはないと思うが。

 トニーの兄貴かぁ、少しだけ気になるなぁ。


 聞く所によると、成績優秀で。

 性格やビジュアル、魔法や勉強。

 まぁ、本当に何でもできるパーフェクトボーイと言う話だ。

 そんな人間いるわけないと首を振りたいが。

 なんつうか、妙に疑うことが出来ない。

 あの馬鹿正直なトニーが言うんだ。その通りなのだろう。


「聞いた話によると、この時間から開いてるって話だがぁ」


 店の中をのぞくと、まぁこれまた無人なのだ。

 あの女、嘘こきやがったなと心で呟くと同時に。


「やぁ、あんた男前だね」

「……はっ。お世辞はいいよ。雑貨屋のボス、イブさんよ」

「確かにこの時間は開いてると言ったっけか……私ったら強がったなぁ」

「何言ってんだよ。現に俺の真後ろで仁王立ちしてんじゃねぇか」


 なんだよ、こいつ。

 願ったら出てくるとか、本物のエスパーかて。


 俺はイブが開けてくれた店の中へ入り。

 イブは少し待っててねと速足で店の照明をつけに走った。

 ここに来るのも三度目か。

 普通の用途で来たかったな。

 まぁ今回も、仕事を頼むんだが。

 依頼と同時に、前回頼んだ分の情報を受け取りに来たのだ。


「あい。頼まれてた物と」

「金だろ。ほら、前回と同じ――」

「50,000G」

「めっちゃ値上がりしてね?」


 あれぇ?おかしいな。

 前回は30,000Gとかだったと思うんだが……。


「今回のは別枠だよ。流石に調べにくかったし、少々骨が折れたんだー」


 と、俺に背中を向けながら。

 わざとらしく肩を揺らし、ため息をする。


「そんなのありかよぉ……」

「ほら、その財布に入ってる60,000Gのうち、50,000Gを出せばいいんだよ?」

「なんで人様の財布事情を把握してんだよ」

「エスパーだから」

「馬鹿言うな」


 本物のエスパーなんているわけないだろ。ったく。

 どんなトリックで俺の財布事情を把握したから知らねぇが。

 気味悪いのと。財布の中身を知られてしまったつうことは。

 そんな金額持ち合わせていないとはぐらかすことも出来なくなったので。


「………」


 苦渋の決断だ。

 と、俺は代金をイブに渡した。

 うわぁ、どうしよ。

 絶賛次の依頼するつもりだったんだが。

 こうも値上がりされると、迷うなぁ。


「心配するなケニー。今回は情報事態が少なかっただけで、普通の依頼なら通常料金さ」

「だから心読むな」


 と言う事で、前回頼んでいた情報と共に。

 新たな依頼『序列』をお願いした。


 さて、さて。

 ここまで何にも情報開示なしで読んできた諸君。

 まぁ察しのいい男児たちなら何となく理解していると思うが。

 そうだ。

 前回と前々回の情報の内容は。


 『アーロンの過去』についてだ。


 いやまぁ、昔にサヤカ自身から聞かされた話を信じてないわけじゃない。

 が、俺はとある事が気になっているのだ。

 それをどうにかするために、俺はこの場で、魔女に金を出している。


 序列と言うと、イブは笑った。


「序列なんて噂だろぉ?どうして知りたいんだよ」


 と、男勝りな言い草でイブは言い放つ。


「それはまぁ……本人らと、会ったってか」

「……あ、まさか王様との密談ってあんたも参加したの?」

「は?なんでそれを」


 なんと、あの密談つうか会議を。

 このイブと言う魔女は知っていたのか。

 それは単なる情報屋としての仕事か。

 それとも、何らかの関係があったのだろうか……。


 まぁ今聞くべきではないのだろう。

 こいつが何を知ってようが、俺には関係ないしな。


「邪魔したな。近いうちにまた来るよ」

「えぇ、待ってるわね。――ケニー・ジャック」



――――。



 王都から旅立つこととなった。

 やはり俺を呼んだのは、情報共有+いざと言う時に事情を知っている人間の方がいいからなのだろう。

 俺が選ばれたのはまぁ、いまだに納得できねぇが。

 あの場で死神に対して、無関係な人間はいないと見た。

 それは俺の感だ。

 時々、まぁまぁ、多分、50パー……20パーくらいで当たる感だ。


 つうことで、現在俺とゾニー、サヤカ、トニーは。

 三日間程で終わった王都旅行を思い出とし。

 馬車に揺られながら、己の家に帰ることになった。


 ちなみに、やはりゾニーには近日中に死神関係の仕事があり。

 数日後には王都に招集されるらしい。

 要するに、ゾニーの休養は終わりってわけだ。

 本格的な仕事が始まっちまったら、当分はゾニーに会えないかもしれない。

 そう思うと、少しだけ寂しいな。


「……ふーん」


 と、背筋を伸ばしてみる。

 思えばこの三日間。色々あったなとしみじみ思う。

 一日目から二日目の間、死神から夢を見せられる。

 まぁそれは俺の悪夢の可能性が高いが。それはそれでなかなかの体験だ。

 そして二日目、王様から死神の情報を聞き。

 序列と言う存在と、サザル王国の王様と出会う。

 そこまで個人間で話はしてないけど。

 面識が生まれたなら良いかなと。

 この二つだけだが。

 異様に疲れた。

 家に帰ったら、ぐっすりねよう。

 よく眠れる気がする。


「……どうしたサヤカ。そんな俺を見て」


 なんだかサヤカが、嬉しそうに俺を見ていた。

 俺が話しかけると、サヤカはふふっと笑って。


「少し……思い出してたんです」

「思い出してた?」

「はい。ご主人さまとの思い出を」


 思い出。か。

 半年も過ごしてるんだから。

 思い出も、出来るよな。


「オークションで買ってもらったとき。どうなるんだろうって不安でした。

 玩具みたいに壊されるのか、はたまた実験か何かで殺されるのか。

 見世物にされて、標本にでもされるのかと」

「そんな事想像してたのかよ?」

「でも実際は。優しくって、ボクが男だって知ってもその態度は変わらなくって。

 ボクに、初めての“普通”を体験させてくれた」


 普通。

 そうだろうな。

 前の家では、サヤカはあまり良く思われていなかったらしい。

 この情報はイブから仕入れたから誤りはないと思うが。

 親から物のように扱われ。

 肉すら見た事がなかったんだ。

 悲惨だったんだろう。

 苦しかっただろう。


「魔法を覚えました。そこから自分に自信がついて、だんだんそんな不安も無くなっていきました。

 でも、やっぱり世界はいじわるで。ボクとご主人さまに試練を与えてきた」


 試練。か。

 試練ともとらえられるな。

 あの戦いは、あまりにも多くの者を失った。

 戦友。いいや、英雄だ。

 あの戦いに散った英雄たちに、生かされた俺たちは感謝しなきゃいけないんだ。


「そこから。ご主人さまも戦ってくれるって言いだしてくれて。

 でも、戦うって思うと不安になりました。

 死ぬ思いをして、また魔物と対峙しなきゃいけないのかなって。

 でも、でも。怖くはないんです。ご主人さまが居てくれるから」

「………」

「どうしようもない暗闇に、強い光を指してくれたのが。ご主人さまなんです」


 前にも言われたそのセリフ。

 そうなのかな。

 俺は別に、あまりお手本となるような行動はしていないと思うんだが。

 サヤカの目には、俺は光として写っているのだろうか。


「ありがとうサヤカ」

「いえいえ、こちらこそありがとうですよ」


 やはり、時間と言うのは抗えないな。

 こう、なんつうか。

 人と過ごし、時間を共にするというのは。

 ものすごく大きな事で、楽しくって、嬉しくって。

 心地がいい。


 そうだな。

 うん。

 生きなきゃ。

 魔病なんてしるか。

 俺は生きるんだ。

 あの夢のように。

 何年も、何十年も。


 生きてやるよ。


――――。



 家に到着すると、また郵便ポストに手紙が来ていた。

 なんだか最近手紙が多いなと思うが。

 流石にこんな大きな出来事が続いたんだ。

 少しくらい、緩めの手紙。と思って開いたんだ。



『魔病治療の手がかり発見。急いでサザル王国まで来てください。

 あなたを助けたいです。お願い。兄さん。

 サザル王国首都サーゼル。

 冒険者ギルド。          ケイティ・ジャックより。』




 俺は、驚きすぎて玄関の扉に足と右腕と頭を交互にぶつけた。



 余命まで【残り205日】



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