目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

番外編「復讐者とケニー・ジャック」



 胸が寂しくなる感覚だった。

 その黄色に近い草むらを歩き、俺は花束を持って門をくぐると。


「……お前は?」


 どうやら先客がいる様だった。

 デカい鎧を着た、豚の様な男が俺に敵意を向けながらそう呟いた。

 鋭い見下すような黒い目。でも俺は、今回はそれに屈しなかった。


 冷たい風だった。そこは質素な場所、ではなかった。

 数々の墓石が並べられ、その一つに。


『キャロル・ホーガン みんなのムードメーカー、ここに眠る。』


 ここはキャロルが埋葬された墓地だった。今日は俺がサザル王国を出る前に、最後の墓参りをしに来た。


「よっ、ギルドぶりだなお前」


 少し震えた喉を寒さのせいにして、俺は勇気を出してそう話しかけた。

 豚の様な男。ケイティが逮捕され、無実を証言する為にギルドで協力も求めた時。

 俺の目の前に立ち、お前さえ来なければと言った男だ。


「キャロルの墓に何をしに来た……ケニー・ジャック」

「お前もあの裁判を見たんだろ。俺に怒りを向ける理由は無い筈だ」

「もうお前に対する怒りなんて、ない。ただ、お前はもう王国を出ると聞いた筈なんだが」


 もうそこまで噂行ってんのか。まぁアーロンは普通にギルドの冒険者と仲がいいからな。


「明日には王国を出て、中央都市へ向かう。最後の墓参りだよ」

「……最後の日くらい。お前は来ないと思ってたよ」

「………なんだよ、お前。俺が毎日ここに来てるの知ってたのかよ」


 俺は人魔騎士団に入ると決めてから、ずっとこの墓へ足を運んでいた。

 理由は……想像に任せるよ。ただ、俺だって罪悪感はある。俺がケイティ探索で誘った結果死なせてしまったのだ。

 ――これに関しては、本当に、俺のせいだった。


「お前まさか、俺が来ない日を狙ってたのかよ」

「……まぁな。俺だってアんだけ啖呵切ってしまったんだ……お前に合わせる顔が、ねぇ」

「お前案外可愛い――」


 というと、黒い目が殺意を持ち始めたので流石に言うのをやめた。

 そうか、まぁあんなけ言ってしまったら。少し会うのが気まずいよな。

 でも、それは間違えていないぞ。

 キャロルが死んでしまったのは俺の判断ミスだ。

 だから、恨んだままでいてほしいな。


「………」

「…………」

「なぁ、お前にとってキャロルって、どんな奴だったんだよ」

「……可愛い奴だった。俺が色々あって、チームメンバーを全員亡くして。

 もう行く当ても頼る当てもなくなった時。キャロルは優しくギルドに引き入れてくれた。

 そこで俺は新しいチームを紹介された。初心者のチームだった。

 キャロルから『彼らはいつか冒険者になりたいらしいんだが、まだ戦う力とか判断などが緩い。鍛えてやってくれないか?』と言われた。俺は嬉しかった。そいつらが、俺のかけがえのない今の仲間だ」


 ……そっか。あいつ意外と、そうゆう所あるんだ。

 困ってる人に手を伸ばし、その人の希望を見つける。あいつ、良い奴じゃん。

 俺と初対面の時は俺がケイティの名前を出したからなんだろうな。あと俺の見た目が、きっと変な風に映ったんだろう。


「……悪かったよ」

「なに謝ってるんだよ」

「ま、こんな俺にも罪悪感があるって事だよ」

「………」

「……帰るわ。色々、世話になった」

「――お前は、悪くない。悪いのは魔解放軍だ」


 俺が背を向け歩き出すと、豚の男はそう言った。

 そして自分の大剣を取り出し、墓所の中で明らかな殺気を俺じゃない誰かに向けて。


「俺は絶対に魔解放軍を許さない。カサンドラ・ウーマの名に懸けて、必ず復讐を成し遂げる!」

「……カサンドラ。俺も同意見だ」


 きっと、こいつとまたここで会う時。

 この世界から魔解放軍なんて居なくなっている事を願おう。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?