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第28話☆青い鳥




第28話☆青い鳥




ぴーちちち。

「あれ?すぐそばで鳥の鳴き声がする」

由美子が露店を開いている時に気付いて辺りを見渡した。

灰色のふわふわのかたまりが、ちょこちょこ歩き回っていた。

時折、目の覚めるような青い色の鳥が餌を運んでくる。

「たぶん巣立つ前に巣から落っこちたんだろう」

巧が言った。

「羽根の色がまだ変わってないものね」

織音が言った。


その時。

しゃああ。

黒猫がいきなり現れて、親鳥を捕まえた。親鳥は抵抗むなしく、ぐったりとなって黒猫にくわえられて姿を消した。

あまりにもあっという間の出来事だった。


「親鳥はかわいそうなことしたな」

「猫も食べなきゃ生きてけないから」

「それにしても雛はどうする?このまま放っておくと死んじゃうよ」

「私、育ててみる」

由美子は意を決して雛鳥を確保した。

「餌はどうするんだ?虫とかだったぞ」

「探して捕まえる」

「無理すんなよ由美子ちゃん。ペットショップに餌を買いに行こうぜ」

テツの言葉に、由美子はその手があったと、ほっとした表情を見せた。


「仮想世界でも弱肉強食なんだなぁ」

「ここの生態系とかどうなってるんだろう」

「もしかして!」

織音が何か思いついたらしく、由美子にステータス画面を開かせて助言を始めた。

「時間軸を進めて雛鳥を少し成長させましょう。それから、由美子ちゃんのことを親だと認識させて……」

「鳥もAI仕様なのか……」

巧は感心して眺めていた。


青い若鳥が由美子の肩にとまって、時々さえずる。

「きれいねぇ」

織音がほう、と息をついた。


「言葉とか仕込めないの?」

巧が聞くと、

「できるけど、それをやったら自然にできるだけ近づけてプログラムされている生き物の範疇からどんどんはずれていっちゃうから」と、織音。

「そっか」


「いいマスコットになりそうだね」

「そういう目で見ないで」

「ごめん。わるかった」

テツは、由美子を見ていて、女の子だなぁ、と感心した。


「名前は?」

「ピーコック」

「ピーコック、って孔雀のことだよ」

「いいの!」

「次に中級者向けのダンジョンに入る予定だけど、その鳥も連れてゆくの?危なくないかな?」

「でも、鳥かごとかに入れて待たせてるのもかわいそうだし……」

「何日かかって攻略できるかわからないものな。それに、万が一帰ってこられなかったら、そのまま放置して死んじゃうかもしれないし」

結局、由美子の肩に乗せて連れて行くことにした。


ダンジョンの床は、レンガの組み合わせになっていた。

「バルタンおやじの練習場にあった投影機、ここにも設置されてるのかなぁ?」

「今のところ、罠に引っ張られる感じはしないけど……」

テツと巧が話しながら前へ進んだ。

回廊を進むと、広間に出た。

「わあ!あれ、なんだろう?」

広間の中央に円筒形の柱の光があり、オーロラのような色合いで絶えず色が変わっていた。

由美子が吸い寄せられるように光の中に入った。

「だめ!由美子ちゃん戻って!」

織音が叫んだが、間に合わなかった。

円筒形の光の中に入った由美子の姿が掻き消えた。

「由美子!どうしよう、おりねちゃん」

巧が心配して言った。

「とりあえず、危険はないけど、今由美子ちゃんは3ブロック先に出現してるはずよ」

「分断されたか」

テツが顔をしかめた。

「どうする?僕らも後を追う?」

「この光の柱、出現先がランダムにプログラムを組んであるから、うかつに入るとみんなばらばらになっちゃうかも」

「それはやばいな」

「地道に3ブロック進むしかないわね」


「みんな!どこ?」

由美子が光の柱の転移先で途方に暮れていた。

「もう一回この中に入ったら戻れるかしら?」

「だめよ。その場でじっとしてて」

「リーダー!?」

織音の声だけが確かに聞こえた。

「中に入ったらランダムに飛ばされるから、よけい追いかけにくくなるの」

「わかった。でも、どうやって声だけ聞こえるようにしてるの?」

「鳥にリンクして声だけ飛ばしてるのよ」

由美子は肩の鳥を見た。呑気に羽づくろいをしている。

「三人でそっちへ向かうから、できるだけじっとしていて」

「うん。わかった」

由美子は自分のうかつさを恥じた。

ぴーちちち。

鳥の声は由美子の心をなごませた。

「ピーコック。お前を連れてきてよかった」

右手の人差し指を肩に延ばすと、ピーコックが指にちょこんととまった。

かわいいなあ。

由美子は時間を忘れて、ピーコックをみつめた。


ぶーんんん。

光の柱が鈍い音を立てた。

由美子ははっとして、身構えた。

「お嬢さん、その鳥をくださらんかにゃあ」

二足歩行の猫のモンスターが姿を現して、人語をしゃべった。

「なにもの?」

「人は我をケット・シ―(猫の妖精)と呼ぶ」

「あのね、この子の親鳥は黒猫に食べられたの!お前もこの子を狙うのなら、ただじゃおかないから!」

「おやおや、威勢のいいお嬢さんにゃ」

ケット・シ―は金色の目を細めた。

「あっちへ行って!じゃなきゃ、光の柱に戻れ!」

「まあ、そう言わずに。その鳥をくれるならあなたには危害を加え無いにゃ」

ケット・シ―は舌なめずりをした。

由美子は、意を決して弓矢をつがえた。

「ピーコックは渡さないわ!」

「お嬢さん、震えてるにゃ。あなたには、その弓矢で我を射ることはできないにゃ」

南無三!由美子はケット・シ―に狙いを定めて矢を射った。

だん!

一発必中。

「ぎにゃああああ!」

ケット・シ―は姿をかき消し、跡に数個の宝石が転がった。

由美子は力が抜けてその場にへたり込んだ。

ピーコックが高らかに勝利のさえずりをしながら由美子の頭上を旋回した。





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