目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

57 テストを突破したけれど



 術理技の授業を受ける資格を手に入れたけれど、授業は来週からだそうだ。

 すぐに覚えたいけれど、授業スケジュールまではどうしようもないので、諦めて普通に授業をして過ごす。


 午前は教養。

 午後は一般生徒と適性者に分かれる。

 一般生徒はそのまま授業とか体育とか。

 適性者は座学だと魔物学とかダンジョン学があるけれど、ほとんどが運動になる。

 今日は術理力を練るためのトレーニングで瞑想と名付けられているのと、武器練習の二つになっている。


 昼休憩後の授業が瞑想というのは、眠気を誘う。

 満腹感に負けないように血流を制御させるのも、この時間を瞑想にしてる理由にあったりして?


 ほら、イビキが聞こえた。

 この時間、そりゃあ寝るよね。


「こら、寝るな」


 先生も適性者だから、もちろんイビキの音を聞き逃したりはしない。

 眠くならないように、食後で胃に集まっている血の流れを術理力とともに制御して、全身に巡るようにさせる。


 術理力を使えるようになって、まず実感できるのは身体能力の強化だ。

 それはつまり、術理力が血管や神経を伝って肉体全体に染み渡り、細胞を強化することで、力が増し、速度も上がる。

 だけど、それだけではダメだ。

 血の流れを強めなければ、激しい動きで血が体内で偏って、頭に血が回らなくなって思考が鈍ったり、見えなくなったり、最悪気絶する。

 神経を強化しなければ、上げた速度に対応できなくなる。

 全身を満遍なく強化するためには、術理力をしっかりと制御できないといけない。


 そしてたぶん、この術理力の流れをちゃんと制御できるかどうかをたしかめることが、術理技でのテストの目的だったんじゃないかと思う。

 これができることが最低限の条件。


 そして、学園に通う適性者なら、一年間ちゃんと訓練していれば身につけられる……というのが、学園側の判断なんだろうな。

 とはいえ、俺たち以外にテストを受けていたのは二年生っぽかったし、あのテストも今年度になって初めてって感じでもなかった。

 あのテストでも合格にならなかった生徒が半分ぐらいはいた。


 何事も、均一にってわけにはいかないみたいだ。

 地上のうちの村は大爺を始めとした鬼族が多いけど、それ以外の種族もいるし、村の外の仲がいい種族としてクトラやタレアたちがいる。


 こんなに一つの種族だけが集まった大集団というのを、俺はここ以外に知らない。

 だから、わからないことも多い。


 同じ種族でも強い弱いの差があるのは知っているけれど、俺ぐらいの時からこんなにも、しかも適性者という素質ですでに分けられているのに、そこからまた差が生まれることがあるのかと、ちょっと驚いている。


 ……まぁ、あんまり考えても仕方ない部分のような気もする。

 深く考えるのはやめよう。


 それより、術理力だ。

 術理技を覚えるのは来週からのお楽しみだとしても、それまでに術理力の制御をさらに高める方がいいに決まっている。


 やるぞ!


 体内で術理力をぐるぐると回しながら、心の中で気合いの声をあげる。


 そういえば……。


 しばらく術理力をぐるぐる回していると、カル教授のことが頭に浮かんだ。

 術理学の教授。

 術理技にも詳しい。


 そんな人が、あの時に見せてくれたものがなんだったのか?

 気になる。

 だけど、手の中でポンと術理力を弾けさせただけに見えたんだけどな。


 あれがなんだっていうんだろうか?


 う〜む?


 どういうのだったんだろうかと、あの時のカル教授と同じように手を前に、掌は上に向けて、術理力を弾けさせてみる。

 ポンっと小さな音が出た。


「こら、遊ぶな」

「はい」


 先生に怒られた。

 あれ?

 でもこれ、術理力の力を外部に飛び出させたことになるのか?

 これはこれですごいのかな?

 来週までにもう一回ぐらいダンジョン行けるよな?

 試してみよう。


 うん。

 やっぱりこういうのが楽しい。

 あれ?

 でも……。

 カル教授のは、まだなにか……違ったような?


 ううん……奥が深い。


 結局、瞑想の時間だけでは、カル教授が見せたものの正体はわからなかった。


 その後は武器鍛錬の時間だ。

 何人かと練習用の模擬剣でやり合った後、スラーナの接近戦の練習を手伝い、その後で弓を教えてもらったりした。

 違うことをすると、また別の発見があったりする。


「勉強もそれぐらいにやる気出したら?」


 と、スラーナに呆れられたけれど、聞こえないふりをした。

 脇を突かれた。

 痛い。


「なぁ、ちょっといいか?」


 授業も全て終わって放課後。

 スラーナと次のダンジョンについて話していると、クラスメートに話しかけられた。

 最初の実習でゴブリンが大繁殖した時に、救助した中の三人だ。


「次のダンジョン。一緒に行かないか?」

「え?」


 思わぬ提案だ。


「あっ、こっちはまだ深度Eなんだけどさ、すごい広い空間のダンジョンを見つけたんだよ」

「へぇ」


 いままで入ったダンジョンはほぼ、その時に攻略完了していたから気にしていなかったけれど、入るダンジョンを選ぶこともできるらしい。

 先日、魔石を運ぶのにプライマが一時離脱した時みたいな、紐付けとかいう行為ができるのだという。

 深度だけを気にして雑に選んでいたけれど、ダンジョンを攻略するのはそういう風に選ぶこともできたのか。


「深度Eだからモンスターはほとんどいないんだけどさ、広すぎてボスがどこにいるのかもわからないんだよ。悔しいから攻略したいからさ、探すの手伝ってくれない?」


 ということだった。


「どうする? 私はかまわないわよ」


 スラーナが俺に判断を任せてくる。

 さっさと深度を先に進めたい気持ちはあるけど、焦る理由もないわけだし。

 助け合いも大事か。


「うん、いいよ」

「やった。たすかる。あっ、できればボスは全員で倒そうぜ」

「わかったよ」


 そういうことになって、次は前よりもメンバーが増えたパーティで挑戦することになった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?