クラスメートたちとダンジョンに行くことになった。
メンバーは俺とスラーナ。
そして、磯貝ガク、松方レイ、キリタ・グレイシスの男三人と、ミーシャ・ドヌーブとメキ・エイメリーの男二人。
合わせて七人となる。
俺とスラーナ以外の五人がパーティを組んで攻略を始めたそうなのだけれど、その構成は、攻撃役に松方レイとミーシャ・ドヌーブ、敵を引きつける守備役に磯貝ガク、斥候役にキリタ・グレイシス、回復薬にメキ・エイメリーと、とてもいいバランス構成になっている。
「回復の属性持ちは希少だって聞いたよ。すごいんだね」
「そうらしいね。でも、結局は実力が付いてないとね」
口調とは裏腹にメキは自信が顔から溢れ出ている。
「あなたたちが負傷しても、私が治してあげるから」
「その時はよろしく」
ダンジョンのポータルに向かいながら話をしていく。
「ごめんな。メキってちょっと自信家だろ?」
スラーナたち女性陣が固まったところで、ガクが声を低めて謝ってきた。
「そうかな? 大丈夫だよ」
「あんなこと言っているけど、俺の怪我を治すので手一杯になると思うからさ。信じるなよ」
「ガクは守備役だよね? どんな風に敵を止めるの?」
少し前に守備役の先輩である流丈シズクを見たけれど、ガクの装備はそれとは違った。
学園の適性者制服はそれ自体に高い防御力があるけれど、ガクは追加装甲の類はなく、両腕に小盾が張り付いたような大きめの籠手を着けているだけだ。
「俺の属性は『影』だからさ、モンスターの動きを止めつつ、俺自身はあんまり攻撃を受けないようにするんだ」
「へぇ」
「レイが剣で近場の敵を倒して、ミーシャが属性の攻撃で遠くの敵を排除する。キリタが斥候役って感じだ」
「了解」
「そっちは?」
「俺が攻撃役でスラーナが斥候役になるよ」
シズクたちとパーティを組んだ時にそういう役割分担になった。
「でも、あんまり気にしてないかな。二人だしね。状況でそれなりに変化をつけないと」
「そういうもんかも。ていうか、二人でやってる方が異常なのか?」
「そうかな?」
「そうだろ!」
黙って話を聞いていたレイが首を突っ込んできた。
「二人だけでダンジョン潜ってて、手が足りないとか思わないか? こっちはいつもそう思ってるけどな」
レイの言葉にキリタもうんうん頷いている。
「ううん? いまのところはそんなでもないかな?」
「そうなのか? それで深度がDになってるって、やっぱすげぇな」
「数をこなせただけだよ」
そんなことを話している間にダンジョンのポータルに到着した。
五人のリーダーとなっている様子のガクが手続をして、ダンジョンに入る。
「おお」
ポータルを抜けると、そこにあるのは見渡す限りの草原だった。
ダンジョン実習の時の光景をなんとなく思い出す。
あのダンジョンはカイザーセンチピードが出現する危険を考慮して、まだ封鎖されていると聞いている。
可能なら再戦したいという気持ちがあるのだけれど、まだスラーナには言えてない。
言ったら、絶対怒られそう。
「ここでメインで出てくるモンスターはブラックウルフだ。他にもコボルトが出てきたりする。集団で来る時は五体ぐらいで来るから気をつけろよ」
「わかった」
「ねぇねぇ」
ミーシャが手を挙げた。
腰には何本かの短剣が吊るされている。
「合同で戦う前に、お互いに普段はどんなやり方をしているか披露しない?」
「ああ、いるか?」
「いきなり連携とか、きついかもしれないでしょ」
渋るガクは俺たちを見た。
「俺はいいけど?」
「私も」
「なら、決まり! 最初はそっちからね!」
俺とスラーナが頷きあうと、ミーシャが手を打った。
ガクは不満がありそうだ。
「ったく。タケル、悪いな」
「ん、大丈夫だよ」
悪意があるかもしれないけど、敵意ってほどではないし、お互いの実力を確認するのは正論だと思う。
広い草原をとりあえずまっすぐ進んでいくと、やがて五体の黒い犬っぽいモンスターが見えた。
あれがブラックウルフだろう。
どれもこれも一メートルぐらいの大きさがありそうだ。
五体のブラックウルフはすでに俺たちを見つけていて、こちらに向かってきている。
「じゃあ、俺たちから行くよ」
「おうっ、危なかったら言えよ」
「了解」
スラーナが彼らから離れて弓を構えたのを見て、俺は向かってくる五体に突っ込んでいった。
「うわっ、そのまま行くんだ」
こっそりとミーシャが呟く。
その声が少し前にいるスラーナに聞こえなければいいと、ガクは願う。
タケルたちを誘おうと提案してきたのはミーシャとメキだ。
「このままだとスラーナが危ないと思うのよね」
と、ミーシャが言い、メキも頷く。
「だけど、タケルは強いじゃないか」
かつてゴブリンの大繁殖でテンパってなにもできなかったガクたちだが、タケルは冷静に対処していた。
その時に強さも目の当たりにした。
「でも、二人だから」
メキがその点を指摘する。
「ダンジョンに入ってわかったでしょ? なにが起きるかわからないんだから、二人だけなんて危険よ」
「だから、あの二人をうちのダンジョンに招くの。そうしたら安全じゃない」
つまりは、そういうことなのだ。
この草原ダンジョンを攻略したいという思いは本当だが、それはガクたちでだってできる。
タケルたちを招いたのは、二人を自分たちのパーティに招くためだった。
「これって、馬に蹴られて死ぬ案件なんじゃないのか?」
レイが言う。
昔の日本の諺だったか?
他人の恋路を邪魔する奴は〜〜だっけ?
「「そんなわけないじゃない⁉︎」」
「おっ」
「「スラーナはクラス委員だから、仕方なくタケルと組んでるだけ」」
「おお」
二人の勢いにレイは沈黙させられた。