ブラックウルフが接近してくる。
俺も前に向かっていく。
五体のブラックウルフはほぼ一列となっている。
先頭から順に次々と喰らいついてくる未来が見える。
刃喰を抜き、先頭の一体の頭を割る。
その後ろにいた一体が飛んだ。
俺にのしかかる勢いで高く飛んだようだけれど、そのためにスラーナの矢を受けることとなった。
次なる三体目、返す刀で顎の下から切り裂く。
四体目と五体目は左右に分かれて挟み撃ちする作戦を選んだようだ。
俺は左に回り込んだブラックウルフに向き直り、挙げた刀を下ろす。
背後に回ることになったブラックウルフは、スラーナの矢によって頭を撃たれた。
排除完了。
血振りをして刃喰を鞘に戻す頃には、ブラックウルフは消えてしまっていた。
魔石は残っていたりいなかったりしている。
やっぱり、深度Eだと魔石はこんなものだ。
「ええ……」
背後からそんな声が聞こえた。
その後は静かになる。
呆気に取られているのかなと、スラーナは息を吐いてから弓を下ろした。
クラスメートのミーシャとメキに妙な心配をされていることは知っていた。
「……おお、すげっ」
少し間を置いて、レイがそう呟いた。
ほぼ同時に、スラーナは振り返る。
「どう?」
「いや、すげぇな」
「ナイス連携」
ガクとキリタも褒めてくれる。
女子二人に目を向けると、言葉を失ったまま固まっていたけれど、ミーシャが口を開いた。
「あのさ……二体目が上に飛ぶっていうのは予想が付くかもしれないけどさ。最後の二手に分かれた奴」
「うん」
「なんで、タケルが向く方向がわかったの?」
「え? それは……」
「あの状態なら、タケルはどっちに向いても、攻撃できるでしょ?」
「それはね、左なら視線が一度も外れないから、かな?」
「はぁ?」
「ほら、右腕を上げて右側に視界を回したら、相手との間で視線が一度途切れるでしょ?」
「んん? ああっ」
ミーシャだけでなくメキも実際に試してみて、理解したようだ。
「視線が外れるない方を狙った方が確実に倒せるでしょ?」
「なるほどね」
「うん、そういうこと」
「「なるほどね」」
なぜか、二人揃って頷く。
「タケルならそうするって、理解できてるわけだ」
「え? まぁ……そう」
メキに確認されて、よくわからないけれど頷く。
二人はお互いで視線を交わし、なぜかレイを見てまた頷く。
レイは「だから言ったろう?」なんて言っている。
「「とてもよくわかった」」
「なんなのよ⁉︎」
心配されているのがわかっていたから、少しは頑張ったけれど……。
なんでそんなニヤニヤ笑顔で見られないといけないの⁉︎
なんかニヤニヤ顔で出迎えられた。
スラーナも「わけがわからない」と言っているし、何が何だか。
その後、少ししてブラックウルフと遭遇したので、今度はガクたちが戦う。
ガクの属性『影』というのはなんなのか?
気になってみていると、彼の足元にある影が伸びて複数に枝分かれし、モンスターたちの影と重なった。
すると、明らかにモンスターの動きが鈍った。
全身に重りを乗せられたかのように、悪くなり、個体によっては全く動けなくなっている。
レイがそれを剣で切り、ミーシャは腰に吊るしていた短剣たちを抜くと、それが飛翔してブラックウルフに突き刺さった。
全てが刺さると、短剣は自らの意思を持っているかのようにモンスターの体から抜け、次の標的に襲いかかっている。
斥候のキリタや回復のメキがなにかをする必要もなかった。
「ふう、弱い奴で助かったぜ」
「さすがに、あの後でカッコ悪いところは見せられないもんな」
「そうね」
とガクたちは満足そうだ。
「ガクの属性。あれは動きを縛っているの?」
「ああ、そうみたいだ」
「すごいね」
「俺もまだよく理屈がわかってるわけじゃなんだよな。ただ、強い奴相手だと縛りが弱かったりするから、油断はできない」
「それなら強くすればいいんだよ」
「そうなんだけどな」
それから、パーティを合流させての連携を試したりすることなく、出てきたモンスターを交互に倒していくことになった。
これはこれで、疲労が軽減されていい。
だけど、どれだけ進んでも、ボスらしき存在はいなかった。
見渡す限りの草原には、あちらこちらにモンスターの影らしきものはあるけれど、どれもブラックウルフやコボルトらしきものばかりだ。
「こういうことなんだよ」
ボスが見つからないという話がどんなものかと思ったけど、こういうことか。
これはたしかにイヤになる。
「誰か、攻略情報を調べたの?」
「攻略情報?」
「ダンジョンがどれかわかっていれば、先達がどうやってそのダンジョンを攻略したかを調べることができるの」
「え? 知らない」
「授業を聞いていないからよ」
「ぐうっ!」
また、スラーナに睨まれた。
「もちろん調べたさ」
ガクが答える。
「『ボスは黒毛のウェアウルフ』『ブラックウルフと戦っていると、向こうから襲ってくる』ってことしか書いてない」
「……そう」
「なら、ブラックウルフと戦っておくしかないんじゃない?」
「そう思って何回もやってるよ」
「だよね」
俺の感想ぐらいは当たり前にやっていて、それでどうにもならない。
……俺はもうお手上げ。
「とりあえず、当初の予定通りに別行動にしてみましょうよ。二手に分かれれば、戦闘数も増やせるでしょうし」
「そうだな」
スラーナの提案にガクも頷く。
他にも異論はなかった。
「ボスが出たりピンチになったら発煙筒を使う。とりあえず二時間で一度合流。合流できずにさらに二時間経過したらディアナを使って撤退。いいな?」
「了解」
俺たちは答え、別行動となった。