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62 学園生活



 新しい術理技の授業に加え、ダンジョンへの挑戦にもガクたちを連れた大人数で挑戦するようになった。

 深度Eをまたやることになったけれど、それはそこまで問題ではない。

 それよりも大人数で動くことを覚えるというのも面白い。

 うん、面白いのだ。


 術理技を覚えるには、記録されている技を調べ、それを習得している講師に教えを請うという形になる。


【鋼体】という術理技を学んだ。

【小盾】の発展形で、体を鋼鉄のように硬くする。

 術理力が許せば全身を硬くすることもできるけれど、現実的には体の一部を硬くして、受け流せなかった攻撃のダメージを軽減するという目的で使うものだ。


「【小盾】の応用だから覚えるのは簡単だが、問題は使い方だ。反射神経が物を言うぞ」


 という講師の指示で、手伝いの生徒が棒で叩いてくる中、叩かれた部分にだけ【鋼体】を施すという反射神経を試されることをひたすらに続けた。


「覚えが早くてけっこうだ。それなら次は目隠しをして【俯瞰】で反応しろ」


 そして次々と難易度を上げられていく。


「小癪なぐらいの上達速度だ。それなら次は、私と打ち合いながら他の攻撃を受けろ。私の攻撃以外は避けることを許さん」


【鋼体】の弱点は発生箇所によっては関節の動きが鈍くなることだ。

 そのことを念頭において使わないと、体勢を崩したりすることになる。

 わかっている先生は生徒の何人かに関節を狙うように指示しているし、そのタイミングでこっちが動かないといけないような状況に持ち込んでくる。

 何回も転げそうになったけど、なんとか切り抜けた。


 別の日には【想手】という術理技を学んだ。

【俯瞰】と【小盾】の応用で、近くにある物を動かすという術理技だ。


「操れる距離と重さ、大きさの限度は自身の術理力による」


 地面に落ちたガラス球を浮かせて、指先に運びながら講師は言う。


「落ちた武器を拾う、周囲にあるものを利用する……使い方は様々だ。君の発想力、機転力が試されるが、極めれば便利な技だ」


 講師の真似をして地面にあるガラス球を術理力の手で拾い上げる。

 力の加減が難しかったけれど、訓練を繰り返した結果、一時間後には【想手】を使ったキャッチボールができるようになった。

 最終的には講師と打ち合いをしながら、地面に散らばるガラス球の中から特定の色を取り合うということをして、仕上げとなった。


「そういえば」


 講義の後でカル教授のことを質問した。

 あの時に見せられたものがなんだったのか。

 わからなかったので再現することができないのだけれど、それでもその時の状況を話してみる。


「さすがにそれだけではなぁ」


 と、講師は苦笑いで想定通りのことを言った。


「しかしカル教授からの課題か。となると【王気】が出てきたりするが、まさかな」

「【王気】ですか?」

「理論はあるが実践できていない術理技というものもいくつかあるが、【王気】はその代表的な存在だな。まぁ、できたとしても禁忌の技と言われるかもしれないが」

「禁忌……なんですか?」


 物騒な話になってきたと顔を顰めていると、講師が笑う。


「生徒にそんなことを唆すとは思えないから、違う技だろう。君は出来がよすぎるから、教授が課題を出したのかもしれないな」


 認められていると考えれば嬉しいけれど……。

 なんだろうな。

 嫌な予感の方が強い。

 あの人から悪意を感じたわけではない。

 だけど……ああ、そうだ。

 地上で会った連中から、そういう雰囲気を感じたことがあるからだ。

 ええと、こういうのは愉快犯っていうのか?

 面白ければそれでいい。

 面白そうだったから、そうした、みたいな。

 悪戯心が道徳なんかより先に出てくるような連中だ。


 でもまぁ、まさかね。


「「あっ」」


 そんな考え事をしながら歩いていると、バタリと出くわした。

 キヨアキだ。

 父親は逮捕されたけれど、彼には罪がないとして暴走事件の後に入院、そして退院してから復学したという話は聞いている。

 だけど、教室からはいなくなっていたので、彼がどうしているかはまったくわからなかった。

 それなのに、こんな廊下で出会ってしまうなんて。


「や、やあ」

「……ああ」


 向こうも足を止めてしまっていたので、挨拶する。

 まさか、返事が来るとは思わなかった。

 無視されるものだとばかり。


「ええと、元気?」

「まぁまぁだ」

「そっか。いまは……」

「山梁タケル」

「え?」

「お前には、負けない」

「……」

「次は勝つ」


 短く言い残し、キヨアキは行ってしまった。


「いや、勝つって……」


 別に俺たち、争っていたわけじゃないと思うんだけど。

 ううん、でも、敵意を持たれるのは仕方がないのか。

 そういう性格なんだと受け入れるしかない。

 そもそも、実際に戦闘になるようなことは、もうないはずだ。

 彼の父親は危ない集団に繋がりを持つことができるような権力や資金があったかもしれないけれど、いまのキヨアキにそれがあるとは思えない。


 だとすれば、いまの言葉は競争相手としての敵対心の現れ、ということになる……のだろうか?


「ただあなたのことが嫌いなだけじゃない?」


 スラーナに相談すると、簡潔にそう言われてしまった。


「身も蓋もない」

「そんなに実りのある関係だったかしら?」


 首を傾げたスラーナはそれからハッとした顔で俺を見た。


「やっぱり、あなたって……キヨアキに気が?」

「ないよ!」


 それだけはない。

 ないよ。

 ないからね?


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