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61 術理技授業




 ようやく術理技の授業になった。


「術理技とは、属性とは全く違うものだ」


 芝生の貼られたグラウンドに座り、上級生たちと講師の話を聞く。

 講師は複数人いた。


「属性が錬磨する中で見出される己の本質であるとするなら、術理技は運動パターンの一つ、つまりは教科書に載せられるものだ。君たちは数ある中から、自分の戦い方にあった術理技を身につけていくことになる。……とはいっても本を渡して後は勝手に覚えろとするわけにもいかない。まずは自身の武器種ごとでいくつかの術理技を覚えてもらうことになる」


 複数人の講師たちは、それぞれ違う武器種を得意する人たちだったようだ。

 俺は剣を持った講師のところに移動する。

 スラーナも弓のところへ向かった。


 剣の講師はまず、型を使った一連の動きを見せてくれた。

 それは俺に剣を教えてくれたミコト様のものとは違う剛直な剣捌きだった。

 無駄の全てを排除した機械的な動きと言ってもいい。

 しかしだからこそ、一つ一つの動きで、別の術理技が使われたことを理解することができた。


「わかったか?」


 剣を振り終えた講師は短く問いかける。

 一緒に見ていた他の生徒たちは難しい顔をしているようだった。


「なにか、普段とは違う術理力の動きをしていました」

「ええと、こうで、こう?」

「背中に力が集まっていたような?」

「最後のは力を貯めて放つ感じでした」

「ふうむ。おい、君はどう見た?」


 生徒たちが色々と感想をこぼす中、剣の講師が俺を示す。


「ええと、最初の構えの時は全方位に気を張っている感じでしたけど、剣を振り出してからは死角を埋めるような形で術理力が動いているように見えました。それから最後の突きでは、使っていた術理力を解き放ちました」

「ふむ。よく見えているな。いま、私が使ったのは三つの術理技だ。それぞれ、【俯瞰】【小盾】【虎牙】という」


 それから改めて使って見せてくれた。


「【俯瞰】はまさしく全体を警戒する。術理力を神経のように周囲に放ち、動きを探る。すぐ近くに隠れている敵を見つけるのが目的だ。動く前に自らの安全を確認する」


「【小盾】は動き始めた自身の死角に置いておく安全策だ。そこを打たれた際、術理力の壁が相手の武器の動きを阻害する。力の入れよう次第では弾くこともできるだろうが、そこまで術理力に余裕がある場合は珍しいだろうし、そこまで死角に不安があるなら動くべきではない。あくまでも念の為の技だ」


「最後の【虎牙】は攻撃のための技だな。術理力を乗せて切先の破壊力を増す。見せたように【俯瞰】【小盾】【虎牙】は術理力を流用することができる。普段は身体強化に回している術理力の一部をこういうことに使うことができるということだ」


 剣の講師は説明しながら、再び同じ動きをしてくれる。

 見るべきものがわかっているから、さっきよりも術理力の動きを追うのが楽だった。


「もちろん、術理技を使うということは、それだけ戦闘中に費やす術理力制御のリソースを増やすということであり、一長一短がある。パーティを組んでいるのなら、自分の背中は仲間に任せておいた方が、自身の役割に全力をこめられる。だが、パーティとて常に万全でいられるわけではない。いざという時に仲間の役割をカバーできるようにする。術理技が求められる場面はまずそこであると覚えておくといい」


「とはいえ、さまざまな分野の先達たちがそれぞれの苦手分野を補う形で術理技を開発した結果、長所をさらに伸ばすために使えるものも現れた。先ほどの【虎牙】などはまさしくそうだな。覚えて決して無駄にはならない。それが術理技だ」


 術理技をどうして覚えなければならないのか。

 まずはそのことを理で説き、それから実際に身につける過程へ放り込まれる。


「君たちはまず【俯瞰】【小盾】【虎牙】の三つを覚えてもらう。この三つは術理技の基礎的な変容も踏まえているから、確実に覚えてもらう。この三つができなければ他の術理技もできないつもりで身につけろ」


 しっかりと脅されて、自分たちが動く番になった。

 とはいえ、二回見て、どういうものか大体はわかった。


 これら三つの応用であるはずの【CtoC】を使えるようになっているのだ。

 それに、最初の剣の師匠であるミコト様が『見て体で覚えろ』というタイプだったせいもあり、見様見真似をするのは慣れている。


 まず【俯瞰】。

 周囲に術理力を撒き、それを神経、触覚のように使う。術理力はある程度体から離れると制御できなくなって霧散するので、まずはその距離を認識するのが大事となる。

 術理力を自在に操れるようになるあの試験の段階で、神経のように使うことの発端となっているので難しくはない。


 次に【小盾】。

 術理力を一部に集めることもあの試験でやったことのなので、動かすことは問題ない。

 ただ、気体のような存在である術理力を固体に近づけることにはコツのようなものがいる。

 属性でそれに近いことができる生徒は、簡単にできたようだけれど、俺の属性はよくわからない存在だし、これとはまるで違うので少し難しかった。


 最後に【虎牙】。

 衝撃波への変化や発生は【CtoC】でもやっているし問題なかった。


「面白いですね! これ」


 なにはともあれ、新しいことを覚えるというのは楽しい!


「面白いで片付けるところがすごいな、君は」


 剣の講師が呆れて俺を見ている。


「初日で三つとも覚えるとはな。なるほど、特例が認められるわけだ」

「はははぁ」


 教えてくれる人に褒められるというのは、慣れていないのでむず痒い。

 ミコト様も大爺も、優しい時は優しいんだけど、「覚えたか? なら次だ!」が基本だったからなぁ。


「それで、君はこれからどのような術理技を覚えていくつもりだ?」

「覚えられるものは全部です!」

「ははっ、野心家だな。まぁいい。剣に関係することなら私のところに来なさい」

「ありがとうございます!」


 一回目の授業は、こうして終わった。

 ちなみに、スラーナも一日目で最初の課題と言われた術理技を身につけていた。




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