「タケル、テメェェェェェェ‼︎」
キヨアキが吠える。
俺がヤンを奪ったことに気付いたようだ。
キヨアキの手に炎の剣が生まれ、俺に向かって振り下ろされる。
巨大な柱が倒れてくるかのような光景だが、刃喰を構えて冷静に技を放つ。
【居合術・山斬り】
炎の剣は断ち切られ、剣先部分は魔力となって散っていく。
【居合術・木霊返し】
返す刀の振り下ろしはキヨアキの巨体に食らいつき、炎を抉り取った。
「グゥゥゥゥッ! テメェッ!」
炎の剣はすぐに再生し、体から削られた炎も元に戻る。
再びの攻撃も刃喰で対応していく。
その度に奴の体は削られていく。
そして、削れて体から剥がれた魔力は、【王気】によって捕まり、俺に吸われていく。
その分、キヨアキの魔力は減っていく。
魔力は奪うことができる。
奴自身、この状態にどれだけの自覚があるのだろうか?
【王気】を知らなかったのだから、わかっているとは思えない。
キヨアキ陣営の中で、変化前で最も実力が上だったヤンでさえも、朧げながら理解しているような状態だった。
できるからそうしている。
キヨアキの感覚はそれぐらいかもしれない。
その自覚だけでここまでできるのだから、それはそれですごいのだけれど。
「でも、これまでだ」
別で襲いかかってくるフーレインとレンベルグは視線だけで切り捨てていき、霧散する前にその魔力を奪い取る。
「くうっ!」
分散させている方が不利と気付いたか、大量に発生させた二者を引き寄せてようとする。
だけど、もう遅い。
俺の目は、もう全てを捕捉している。
魔力を走らせ、全てを切る。
自我が失せて形だけとなってしまったフーレインとレンベルグは、たいした抵抗もなく切り伏せられ、吸い込まれていく。
「アアアアアアアアアアッ‼︎ テメェェェェェェェェェッ‼︎」
キヨアキは咆哮し、炎を俺にぶつける。
ヤンとの戦いは魔力の総量で押し切ったのだろうが、俺相手にそんな戦いは無意味だ。
【王気】で全て、吸い取っていく。
「おい、やめろよ……おいっ!」
攻撃することを止めても、もうこの流れは止まらない。
なぜなら、すでにスラーナの風がキヨアキの炎に混ざり込み、魔力制御を妨害しているからだ。
「こんな、こんな……ことが許されると思ってんのかよ! 俺はぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
「ここまでのことをしておいて、なにを言っているんだか」
「俺は!」
「お前はずっと、敵しか作ってこなかった」
そう言い返して、一瞬だけ、いや……と思うことがあった。
地上に飛ばされて、まとまりそうでまとまっていなかった時……アブサトラの森に入る前……。
あの時、キヨアキは俺の側に立とうとしてくれていたような気がした。
他の連中が森へ逃げた時も、仕方なく彼らの方へ走ったように見えた。
あの時のことがなければ、もしかしたら?
いや……。
それも結局、過ぎてしまったことでしかない。
次に再会した時には、俺の手を取らずに一人でトバーシアとともに消えてしまったのだから。
「なんで、もっと自分を強くしようと思わなかったんだ」
自分は強いと、偉いと……俺からすれば滑稽に見えるぐらいにそのことを主張していた。
少なくとも、地上に上がる前はダンジョンに頻繁に潜ったりして、自分で強くなろうとしていた。
それなのにどうして、龍穴なんていうものに引かれてしまったのか。
「あんなもんを見て、無視なんてできるか!」
キヨアキが叫ぶ。
「力だぞ! 強くなれるんだ! お前、そんなのが無視できるほど偉いのかよ!」
「くっ!」
キヨアキの言葉も間違ってはいない。
俺だって、迷いに迷いつつ、最後には龍穴に身を浸した。
変化した。
この姿になった。
「同じことがあれば俺は何度だってやるぞ! 俺は、強くなるんだ! もっと! もっと! だから!」
「うるさい、黙れ!」
キヨアキの叫びは、スラーナの声と風によって遮られた。
スラーナも【王気】を使って、キヨアキの炎を奪っていた。
舞い上がった炎は空を赤く焦がし、最後に魔力に戻って風と一体化する。
「同じことをしたって、また同じ結論になるわよ。あんたは」
「そんなことは」
「それに、同じことをするなんて、許すはずもないでしょ」
「グゥゥゥゥッ!」
「あなたは、ここで終わるんだから」
「終わるものか、俺は!」
二人がかりで魔力を吸い取られ、炎の巨人は瞬く間に色と体積を失っていく。
俺は、刃喰を握り直し、小さくなっていくキヨアキに近づいていく。
「俺はぁぁぁぁ、こんなところで、終わる……終わるかよぉぉぉぉ」
「終わるんだ」
俺はそう言い放ち、同じぐらいの大きさになったキヨアキの頭を刃喰で貫いた。
硬い抵抗、驚きに満ちた目が俺を見つめ、そしてすぐになにも映さなくなる。
その形も、すぐに魔力となって消えていこうとしたけれど、復活の可能性を消し去るために、その残滓も吸い取った。
後にはなにも残らない。
キヨアキが残したのは、この破壊の跡だけだ。
それ以外はなにも残させなかった。
「さあ、帰りましょう」
「そうだね」
この破壊の跡の中に、まだ生き残りはいるかもしれない。
だけど、ここの人たちにとって、俺たちはただの化け物だ。
去るだけがいいのだろうけど……。
でも。
「いや……」
「タケル?」
「やれるだけでも、やっていこうか」
「……そうね」
俺の言葉にスラーナは少しだけ間を置いてから頷いた。
「あいつらと同じ化け物と思われたままも、面白くないしね」
そうして、俺たちは救助活動に勤しんだ。