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123 破滅の炎



「タケル、テメェェェェェェ‼︎」


 キヨアキが吠える。

 俺がヤンを奪ったことに気付いたようだ。


 キヨアキの手に炎の剣が生まれ、俺に向かって振り下ろされる。

 巨大な柱が倒れてくるかのような光景だが、刃喰を構えて冷静に技を放つ。


【居合術・山斬り】


 炎の剣は断ち切られ、剣先部分は魔力となって散っていく。


【居合術・木霊返し】


 返す刀の振り下ろしはキヨアキの巨体に食らいつき、炎を抉り取った。


「グゥゥゥゥッ! テメェッ!」


 炎の剣はすぐに再生し、体から削られた炎も元に戻る。

 再びの攻撃も刃喰で対応していく。

 その度に奴の体は削られていく。


 そして、削れて体から剥がれた魔力は、【王気】によって捕まり、俺に吸われていく。

 その分、キヨアキの魔力は減っていく。


 魔力は奪うことができる。

 奴自身、この状態にどれだけの自覚があるのだろうか?

【王気】を知らなかったのだから、わかっているとは思えない。

 キヨアキ陣営の中で、変化前で最も実力が上だったヤンでさえも、朧げながら理解しているような状態だった。


 できるからそうしている。

 キヨアキの感覚はそれぐらいかもしれない。

 その自覚だけでここまでできるのだから、それはそれですごいのだけれど。


「でも、これまでだ」


 別で襲いかかってくるフーレインとレンベルグは視線だけで切り捨てていき、霧散する前にその魔力を奪い取る。


「くうっ!」


 分散させている方が不利と気付いたか、大量に発生させた二者を引き寄せてようとする。

 だけど、もう遅い。


 俺の目は、もう全てを捕捉している。

 魔力を走らせ、全てを切る。

 自我が失せて形だけとなってしまったフーレインとレンベルグは、たいした抵抗もなく切り伏せられ、吸い込まれていく。


「アアアアアアアアアアッ‼︎ テメェェェェェェェェェッ‼︎」


 キヨアキは咆哮し、炎を俺にぶつける。

 ヤンとの戦いは魔力の総量で押し切ったのだろうが、俺相手にそんな戦いは無意味だ。


【王気】で全て、吸い取っていく。


「おい、やめろよ……おいっ!」


 攻撃することを止めても、もうこの流れは止まらない。

 なぜなら、すでにスラーナの風がキヨアキの炎に混ざり込み、魔力制御を妨害しているからだ。


「こんな、こんな……ことが許されると思ってんのかよ! 俺はぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

「ここまでのことをしておいて、なにを言っているんだか」

「俺は!」

「お前はずっと、敵しか作ってこなかった」


 そう言い返して、一瞬だけ、いや……と思うことがあった。

 地上に飛ばされて、まとまりそうでまとまっていなかった時……アブサトラの森に入る前……。

 あの時、キヨアキは俺の側に立とうとしてくれていたような気がした。

 他の連中が森へ逃げた時も、仕方なく彼らの方へ走ったように見えた。

 あの時のことがなければ、もしかしたら?


 いや……。

 それも結局、過ぎてしまったことでしかない。


 次に再会した時には、俺の手を取らずに一人でトバーシアとともに消えてしまったのだから。


「なんで、もっと自分を強くしようと思わなかったんだ」


 自分は強いと、偉いと……俺からすれば滑稽に見えるぐらいにそのことを主張していた。

 少なくとも、地上に上がる前はダンジョンに頻繁に潜ったりして、自分で強くなろうとしていた。

 それなのにどうして、龍穴なんていうものに引かれてしまったのか。


「あんなもんを見て、無視なんてできるか!」


 キヨアキが叫ぶ。


「力だぞ! 強くなれるんだ! お前、そんなのが無視できるほど偉いのかよ!」

「くっ!」


 キヨアキの言葉も間違ってはいない。

 俺だって、迷いに迷いつつ、最後には龍穴に身を浸した。

 変化した。

 この姿になった。


「同じことがあれば俺は何度だってやるぞ! 俺は、強くなるんだ! もっと! もっと! だから!」

「うるさい、黙れ!」


 キヨアキの叫びは、スラーナの声と風によって遮られた。

 スラーナも【王気】を使って、キヨアキの炎を奪っていた。

 舞い上がった炎は空を赤く焦がし、最後に魔力に戻って風と一体化する。


「同じことをしたって、また同じ結論になるわよ。あんたは」

「そんなことは」

「それに、同じことをするなんて、許すはずもないでしょ」

「グゥゥゥゥッ!」

「あなたは、ここで終わるんだから」

「終わるものか、俺は!」


 二人がかりで魔力を吸い取られ、炎の巨人は瞬く間に色と体積を失っていく。


 俺は、刃喰を握り直し、小さくなっていくキヨアキに近づいていく。


「俺はぁぁぁぁ、こんなところで、終わる……終わるかよぉぉぉぉ」

「終わるんだ」


 俺はそう言い放ち、同じぐらいの大きさになったキヨアキの頭を刃喰で貫いた。

 硬い抵抗、驚きに満ちた目が俺を見つめ、そしてすぐになにも映さなくなる。

 その形も、すぐに魔力となって消えていこうとしたけれど、復活の可能性を消し去るために、その残滓も吸い取った。


 後にはなにも残らない。

 キヨアキが残したのは、この破壊の跡だけだ。

 それ以外はなにも残させなかった。


「さあ、帰りましょう」

「そうだね」


 この破壊の跡の中に、まだ生き残りはいるかもしれない。

 だけど、ここの人たちにとって、俺たちはただの化け物だ。

 去るだけがいいのだろうけど……。


 でも。


「いや……」

「タケル?」

「やれるだけでも、やっていこうか」

「……そうね」


 俺の言葉にスラーナは少しだけ間を置いてから頷いた。


「あいつらと同じ化け物と思われたままも、面白くないしね」


 そうして、俺たちは救助活動に勤しんだ。

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