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第7章: A Day

7-1: (Victory's Doorway - 勝利への扉)

「雷部隊が円を倒したって」

白波梓が通信を終え、短く言葉を切った。

俺たちが小休止を取っているときに入った朗報だったが、梓の声はいつも以上に冷静で、感情を押し殺しているように聞こえた。

「本当か!?」

黒磯が剣を構えたまま振り返る。

「じゃあ、カギも――」

「手に入ったみたい」

梓が頷くと同時に、遠野美雪がホッと胸を撫でおろした。

「これで、私たちもゲートへ向かえるんですね!」

だが、その安心感を吹き飛ばすように、遠くから数体の神徒が群れを成して現れた。

荒廃した工場エリアの瓦礫を蹴散らしながら、次々と迫ってくる。

「そんなに簡単に行かせてくれるわけないだろうな」

俺はガン・ダガーを手に取り、前方に立った。

「戦いながら進もう! 黒磯、先陣を頼む!」

俺が指示を飛ばすと、黒磯の顔に焦燥感が浮かんだ。

「雷部隊に全部持ってかれて、何もできなかった俺たちが、ここでモタついてるわけにはいかねぇ……!」

その言葉に、自分自身への苛立ちがにじみ出ている。

黒磯が咆哮のように叫びながら神徒たちに突進する。

「おらァァァ!」

剣を振り抜き、一撃で一体の神徒を両断する。

「黒磯くん、左後ろです!」

美雪が突き出したレイピアが、黒磯の死角にいた神徒の目を正確に貫いた。

「助かった!」

黒磯が再び剣を振り上げるが、動きには疲労が見え始めている。

「無茶するなよ、黒磯!」

俺が横を駆け抜けながら、背後から迫る別の神徒を撃ち抜いた。

「ペースを考えろ! また前みたいに単独行動するつもりか?」

「黙ってろ! 矢神臣永がいないいま、俺たちがもっと強くならな――」

その言葉を遮るように、梓の声が響く。

「冷静になりなさい、黒磯! あんたの感情がどうあれ、チームで動かないと次の一撃で誰かが死ぬ!」

鋭い口調に、黒磯は振り返りざまに梓を睨みつけるが、すぐに剣を収めた。

「……ちっ」

頭の中に、俺たちと合流する間の戦闘がよぎったのだろう。

俺が最後の神徒をガン・ダガーで切り伏せ、周囲に静寂が訪れた。

短い戦闘の後、俺たちはゲートの方向へ進む。道中、梓が通信を続けていた。

「雷部隊は円を倒してカギを持っているわ。ゲートは西にある複合商業施設エリア。詳しい場所は雷部隊から送られてきたデータを共有するわね」

「雷……全部やっちまったのか」

黒磯が苛立たしげに呟く。

「ここまでの道を切り開いたのは私たち全員よ、黒磯先輩。気にする必要はないです!」

美雪が優しくフォローする。

「ま、あっちが目立つのはしょうがないよ~。雷ちゃんは派手好きだし~」

緋野が笑いながら言うが、黒磯の悔しそうな表情は変わらない。



――複合商業施設エリア。屋内駐車場。ゲート前。


プレイヤーたちが次々と集まり、異様な重圧が漂う中、俺たちも到着した。

疲れ切った表情のプレイヤーたちがちらほらと見える。

「矢神さんがいないと、こんな空気になるんだな」

俺が呟くと、美雪がうなずいた。

「……本当に、あの人の存在がどれほど大きかったか、実感しますね」

すると、場を切り裂くように雷の声が響く。

「めそめそすんな!」

プレイヤーたちが驚いて雷を見ると、彼女はカギを片手に掲げ、堂々と立っていた。

「これでゲームクリアなんだ! あんたら、もっと胸を張りなさい!」

その言葉に、再びざわめきが広がった。

「クリアなんて言えるかよ! 矢神さんがあんな状態なのに!」

「お前に矢神さんの何がわかるんだ!」

雷は一歩も引かず、冷たい視線を向ける。

「私が誰よりも分かっているわ。矢神臣永は、私の目標だったから」

その言葉に場が静まる。

「私が一番、あの人を超えたいと思っていたから」

その言葉を受けて、プレイヤーたちは無言で立ち尽くすが、次第に表情を引き締め始める。

雷はその様子を見て鼻を鳴らし、背後のゲートを指さした。

「さあ、勝利を取りに行きましょう」

ゲートがゆっくりと開く。その向こうは光に満ちていた。

だが、俺は思う。たどり着く先は天国だろうか、地獄だろうか。

特級神徒――結城翔の身体を奪った化け物は、「矢神臣永を取り戻したいなら、このゲームをクリアしろ」と言っていた。

このゲートをくぐってもなお、矢神さんが凍結されたままならば、この光の先は新たな地獄だ。

「矢神さん……どうか無事でいてくれ……」

俺は願うようにゲートをくぐった。

光に、目がくらんだ。

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