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8-4: The Rise of the Vanguard(前線への出撃)

塔の頂上――王の間おうのまでは、|白波梓≪しらなみあずさ≫が眼下に広がる戦場を見下ろしていた。

通信機から届く各門の報告に耳を傾けながら、彼女は瞬時に次の指示を組み立てていく。

だが、その思考のスピードを上回るように、報告は続いていく。

「現在、4の門で接近する神徒の撃退を継続中です!」

「6の門でも敵の動きが活発化しています!」

冷静を装いながらも、梓の心には焦りが募る。塔の窓から見える戦場には、絶え間なく押し寄せる神徒の波。さらに、地平線の向こうに見える影――それが示す新たな脅威が、彼女の胸に重くのしかかっていた。

「……全門、状況を確認して続報を寄越して」

短くそう命じた梓は、窓際に立ち、遠く砂嵐の向こうを睨むように見つめた。

砂嵐の向こうには、これまでの神徒とは明らかに異なる姿が見え始めていた。

中級神徒6体。それぞれが異なる形状の武器を構え、後方には2体ずつの下級特殊個体を従えている。

「まずいかも……」

梓は小さく息を呑み、端末に映る戦況の全体図を確認する。

各門に配置された戦力がどれほど不足しているかを目の当たりにし、思わず眉を寄せた。

「……このままだと、各門が持たない」

頭の中でいくつもの戦略を即座に組み立て、それぞれのリスクと犠牲を天秤にかける。

「司令部に繋いで!」

梓は冷静な声で命じ、通信を切り替えた。画面に映し出されたのは、|龍崎修一郎≪りゅうざきしゅういちろう≫司令官の鋭い眼差しだった。

「白波、状況を報告しろ」

龍崎の声は冷静で的確だった。

「司令官、地平線より中級神徒6体が接近中です。それぞれが下級特殊個体を従えており、全門での対応は困難です」

梓は迅速に状況を説明する。

「わかった。最悪、防衛の見込みのない門は早期撤退も視野にいれておけ。メインゲートが死守できればクエストはクリアだ」

「戦力の集中、ですね」

「ああ……現在、援軍を要請中だ。それまでなんとか持ちこたえてくれ」

龍崎の問いに、梓は即答した。

「了解しました。取り急ぎ、各門に配置されたピーターパン部隊を前線に出撃させ、中級神徒の撃退を優先します」

「頼んだぞ」

通信が切れると、梓は一瞬だけ深呼吸をし、スピーカーに向かって声を張り上げた。

「全門に通達!」

梓の声が王の間から響き渡る。

「ピーターパン部隊は即座に中級神徒の撃退にあたれ! 各門の一般プレイヤーは周囲の防衛を継続。防衛ラインは決して下げるな!」

その声が戦場全体に伝わり、プレイヤーたちの間に緊張が走った。

4の門――。

俺たちは城壁に押し寄せる神徒たちを必死で迎え撃っていた。

「賢くん、あっちにも来る!」

凪が柔らかな声を上げる。リボンを操り、よじ登ってくる神徒の動きを封じた。

「くそっ、手が足りない……!」

俺は振り返りながら叫ぶ。プレイヤーたちは懸命にバリスタを操作しているが、次々と迫る神徒の数には到底追いつけない。

「賢くん!」

美雪が冷静な声で俺を呼んだ。その視線の先には、再び城壁をよじ登る神徒の影。

「私はこっちを抑えるから、そっちをお願いします」

彼女の言葉には一切の迷いがなかった。

「ああ、頼む!」

俺はすぐにガン・ダガーを構え、突進してくる神徒の胴体に刃を突き立てた。

「ピーターパン部隊は即座に中級神徒の撃退にあたれ! 各門の一般プレイヤーは周囲の防衛を継続。防衛ラインは決して下げるな!」

梓の声が通信機から響く。

その瞬間、前線で厄介な敵を葬っていた浮水が、躊躇なく敵の只中へと駆け出した。

「単騎突撃かよ……!」

俺は歯を食いしばりながら、浮水の背を見る。

「賢くん……また城壁を登る奴が!」

凪の声に振り向くと、新たな神徒が城壁をよじ登ってくるのが見えた。

「くそっ、俺も持ち場は離れられない……!」

俺はガン・ダガーを握り直し、襲いかかってくる敵に向き直った。

浮水が最前線へ向かったことで、秋月や三輪への負担はさらに増している。

討ち漏らした敵が次々とこちらに流れてきていた。俺たちはそれを捌くので手一杯だった。

戦場全体に緊張が張り詰める中、地平線の向こう――中級神徒たちの影が一層鮮明になっていく。それを追うように、ピーターパン部隊が砂嵐の中へと進軍していった。

「くそっ……まだクエストははじまったばっかだってのに…!」

俺は深く息を吸い込み、迫る敵の群れを睨みつけた。

時計の針がカチリと音を立てる中、砂嵐の奥からは決戦の気配が確実に迫っていた。


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