俺たちは4の門を守るため、全力で神徒を迎え撃っていた。古城の城壁には砂混じりの風が吹き荒れ、周囲には倒された敵の躯から滲んだ黒い跡が点々と広がる。
「次、右から来る!」
|水上凪≪みなかみなぎ≫が声を上げる。柔らかなリボンが風を切り、接近してきた神徒の足元を絡め取った。動きを封じられた神徒は、よろめいて倒れ込む。
「左のバリスタ!まだ撃てるか!」
俺が声を張ると、震える手で矢を装填していた一般プレイヤーたちが顔を上げた。
勇気を振り絞り放たれた矢が神徒を貫き、その巨体が地面に崩れ落ちる。
「よくやった!次もその調子だ!」
俺の言葉に、彼らは恐怖を抑えるように小さく頷き、再び矢を装填し始めた。
「くそっ、こんな数、どうしろってんだ!」
|秋月一馬≪あきづきかずま≫が叫びながら拳を振り下ろす。
その攻撃は神徒の鎧を砕き、さらに後ろに控えていた別の神徒を吹き飛ばした。
「焦るな、一馬。無駄な力を使うな」
|三輪蓮≪みわれん≫が冷静に言い放つ。その声には苛立ちひとつなく、手にした剣が電流を帯びた軌跡を描きながら敵を正確に斬り裂く。
「いちいちうるせぇな!」
一馬は大声で返すが、その拳は止まらない。次々と襲い来る神徒を殴り倒し、戦場を一気に駆け抜ける。
「一馬、前に出すぎるな!」
蓮が忠告するが、一馬は振り返ることなく叫んだ。
「おまえみたいにチマチマやってられるかよ!」
一馬と蓮のやり取りを横目に、俺は背後の状況を確認する。凪と|遠野美雪≪とおのみゆき≫が並び立ち、次々と敵を撃退している。
「右からもう一体来ます!」
美雪が冷静に言い、間髪入れず刺突を繰り出す。その動きは的確で無駄がない。突き刺された神徒は地面に崩れ落ちた。
「こっちはもう抑えたよ!」
凪が軽やかにリボンを操りながら叫ぶ。その声には不安の色は感じられず、柔らかな笑みが浮かんでいた。
「賢くん、後ろ!」
凪が鋭く声を上げる。振り返ると、別の神徒が牙を剥いて襲いかかってきていた。俺は咄嗟に飛び退き、ガン・ダガーで銃撃を放つ。
「助かった、凪!」
凪は軽やかにサムズアップして、再びリボンを駆使して敵の動きを封じていく。
戦況は一進一退だった。
バリスタで遠距離攻撃を仕掛け、接近してくる神徒は俺たちが何とか処理していた。
それでも敵の数は減るどころか、むしろ増えているように思える。
「……終わる気がしねえ」
一馬が荒い息を吐きながら呟く。
「そりゃそうだ。これは終わらせるクエストじゃなくて、耐え抜くクエストだからな」
蓮が皮肉っぽく返す。
「皮肉言ってる余裕があるなら、おまえもっと敵を倒せよ!」
一馬が苛立った声を上げるが、蓮は冷静に対応する。
「無駄に突っ込むだけじゃ勝てない。もっと効率を考えろ」
蓮が電流を纏う刃を振り、神徒の弱点を確実に仕留める。
「効率だぁ? こっちはいつだって全力投球なんだよ!」
一馬が再び前に出て拳を叩き込む。
ふと視線を上げると、地平線の向こう――砂嵐の中に巨大な影が揺れるのが見えた。
これまでの神徒とは明らかに違う、不気味な動きだった。
「……あれは、なんだ?」
思わず声が漏れる。
「新しい敵……?」
美雪がじっと睨む。
「ちっ……あの動き……厄介そうだな」
蓮が低く呟く。
「厄介だろうが、やるしかねえだろ!」
一馬が拳を鳴らしながら前に出ようとする。
「待て、一馬。まずは情報を――」
蓮が制止しようとするが、一馬は聞く耳を持たない。
「おまえらは黙って見てろ! 俺がぶっ飛ばしてやる!」
一馬の姿は戦場の中心へと突き進んでいった。
その直後、塔の頂上から|白波梓≪しらなみあずさ≫の声が響いた。
「全員、準備を整えて! あれはただの神徒じゃない!」
その言葉が戦場全体に緊張を走らせる。鼓動が早まるのを感じながら、俺は再びガン・ダガーを握り締めた。
全員の視線がその影に集中する中、戦場の空気が一層張り詰めていった。