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8-3: Shadows on the Horizon(地平線の影)

俺たちは4の門を守るため、全力で神徒を迎え撃っていた。古城の城壁には砂混じりの風が吹き荒れ、周囲には倒された敵の躯から滲んだ黒い跡が点々と広がる。

「次、右から来る!」

|水上凪≪みなかみなぎ≫が声を上げる。柔らかなリボンが風を切り、接近してきた神徒の足元を絡め取った。動きを封じられた神徒は、よろめいて倒れ込む。

「左のバリスタ!まだ撃てるか!」

俺が声を張ると、震える手で矢を装填していた一般プレイヤーたちが顔を上げた。

勇気を振り絞り放たれた矢が神徒を貫き、その巨体が地面に崩れ落ちる。

「よくやった!次もその調子だ!」

俺の言葉に、彼らは恐怖を抑えるように小さく頷き、再び矢を装填し始めた。

「くそっ、こんな数、どうしろってんだ!」

|秋月一馬≪あきづきかずま≫が叫びながら拳を振り下ろす。

その攻撃は神徒の鎧を砕き、さらに後ろに控えていた別の神徒を吹き飛ばした。

「焦るな、一馬。無駄な力を使うな」

|三輪蓮≪みわれん≫が冷静に言い放つ。その声には苛立ちひとつなく、手にした剣が電流を帯びた軌跡を描きながら敵を正確に斬り裂く。

「いちいちうるせぇな!」

一馬は大声で返すが、その拳は止まらない。次々と襲い来る神徒を殴り倒し、戦場を一気に駆け抜ける。

「一馬、前に出すぎるな!」

蓮が忠告するが、一馬は振り返ることなく叫んだ。

「おまえみたいにチマチマやってられるかよ!」

一馬と蓮のやり取りを横目に、俺は背後の状況を確認する。凪と|遠野美雪≪とおのみゆき≫が並び立ち、次々と敵を撃退している。

「右からもう一体来ます!」

美雪が冷静に言い、間髪入れず刺突を繰り出す。その動きは的確で無駄がない。突き刺された神徒は地面に崩れ落ちた。

「こっちはもう抑えたよ!」

凪が軽やかにリボンを操りながら叫ぶ。その声には不安の色は感じられず、柔らかな笑みが浮かんでいた。

「賢くん、後ろ!」

凪が鋭く声を上げる。振り返ると、別の神徒が牙を剥いて襲いかかってきていた。俺は咄嗟に飛び退き、ガン・ダガーで銃撃を放つ。

「助かった、凪!」

凪は軽やかにサムズアップして、再びリボンを駆使して敵の動きを封じていく。

戦況は一進一退だった。

バリスタで遠距離攻撃を仕掛け、接近してくる神徒は俺たちが何とか処理していた。

それでも敵の数は減るどころか、むしろ増えているように思える。

「……終わる気がしねえ」

一馬が荒い息を吐きながら呟く。

「そりゃそうだ。これは終わらせるクエストじゃなくて、耐え抜くクエストだからな」

蓮が皮肉っぽく返す。

「皮肉言ってる余裕があるなら、おまえもっと敵を倒せよ!」

一馬が苛立った声を上げるが、蓮は冷静に対応する。

「無駄に突っ込むだけじゃ勝てない。もっと効率を考えろ」

蓮が電流を纏う刃を振り、神徒の弱点を確実に仕留める。

「効率だぁ? こっちはいつだって全力投球なんだよ!」

一馬が再び前に出て拳を叩き込む。

ふと視線を上げると、地平線の向こう――砂嵐の中に巨大な影が揺れるのが見えた。

これまでの神徒とは明らかに違う、不気味な動きだった。

「……あれは、なんだ?」

思わず声が漏れる。

「新しい敵……?」

美雪がじっと睨む。

「ちっ……あの動き……厄介そうだな」

蓮が低く呟く。

「厄介だろうが、やるしかねえだろ!」

一馬が拳を鳴らしながら前に出ようとする。

「待て、一馬。まずは情報を――」

蓮が制止しようとするが、一馬は聞く耳を持たない。

「おまえらは黙って見てろ! 俺がぶっ飛ばしてやる!」

一馬の姿は戦場の中心へと突き進んでいった。

その直後、塔の頂上から|白波梓≪しらなみあずさ≫の声が響いた。

「全員、準備を整えて! あれはただの神徒じゃない!」

その言葉が戦場全体に緊張を走らせる。鼓動が早まるのを感じながら、俺は再びガン・ダガーを握り締めた。

全員の視線がその影に集中する中、戦場の空気が一層張り詰めていった。


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