ガドラ・ホリシャシャ・エンコシ――南アフリカ支部が誇る最強のイニシエーターズが戦場に降り立ち、その圧倒的な存在感で場を支配した。
ガドラはゆっくりと前へ歩み出る。
その視線は、ただ一人――結城翔へと向けられていた。
「イニシエーターズだかなんだか知らないけど」
結城翔が冷たい目でガドラを見据え、口元に薄笑いを浮かべる。
「君たちはせいぜい上級神徒が限界なんでしょ?」
彼が指を鳴らすと、地面が不気味に揺れ、そこから一体の上級神徒が姿を現した。
「上級神徒、1体出現! ピーターパン以外の戦闘員は即座に戦線を離脱して!」
梓の指示が戦場に響く。
だが、ガドラは微動だにせず、まるで眼中にないかのように、冷静に呟いた。
「見くびられたものだな」
次の瞬間。
上級神徒が吹き飛んだ。
「………は?」
俺は呆気にとられた。何が起きたのか、理解すら追いつかない。
ガドラの姿が一瞬で消えた。
気が付けば、空中を吹っ飛ぶ上級神徒の真上に移動していた。
「ふんっ!」
彼が宙を蹴り、急降下する。
ドォォォォンッ!!
凄まじい衝撃音と共に、上級神徒が地面にめり込んだ。
俺はようやく理解した。
ガドラは――目にも見えない速さで、拳で叩き込んだのだ。
「遅い!」
再生をはじめる上級神徒に、ガドラは目にもとまらぬ速さで拳を叩き込んでいく。
その拳の速度は、もはや視認することすら困難だった。
シュッ――!
シュッ――!
空気を切り裂く音が連続し、その軌道が火花を散らす。
「これ……本当に、人間か……?」
俺は言葉を失った。
ガドラの拳が空気摩擦で火を起こし、閃光を放っている。
それは、もはや拳ではない――閃光の連撃だった。
「すげえ……」
隣で、秋月一馬が息を漏らす。
同じ”拳を武器として闘う者”として、畏怖の念を抱いているのが分かった。
「これまでお前ら特級が姿を現さなかっただけの話だ」
ガドラは消し炭となった上級神徒を踏みつけ、まるで雑草でも踏み潰すかのように言い放つ。
「俺たちイニシエーターズは、上級なんて雑魚に飽き飽きしていたからな」
「ふーん」
結城翔は鼻で笑う。
「でも、そのイニシエーターズの筆頭である矢神は僕らに負け――」
その言葉が終わる前に、ガドラの目が鋭く光った。
戦場全体に、その覇気が響き渡る。
「貴様らが臣永を語るな!」
その一言は、雷鳴のように轟き渡り、場の空気を一変させた。
ただ放たれた言葉一つで、まるで空気が震えたような錯覚を覚えた。
ガドラの全身から湧き上がる気迫は、もはや戦場そのものを制圧する力を持っていた。
「手加減はなしだ」
彼は一歩前へ出ると、両拳を握りしめながら結城翔を睨みつける。
「見せてやろう。これがイニシエーターズの力だ」