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第13章:Recapture Unit④

13-1: Allies on the Wind(風に乗る同盟)

なんとかガン・ダガーを握り直し、構えるが、帝釈は圧倒的だった。

「勝てないのか……?」

俺の視界が、暗く染まりかけたその瞬間――

ズドォン、と遠くから地響きが鳴った。

「……?」

帝釈が微かに視線を動かす。

次の瞬間、風が切り裂かれ、閃光が走った。

耳鳴りのような静寂が、戦場を支配した瞬間。

俺の目の前に、何かが“着地”した。

――ドッ!

その着地は音すら殺し、ただ空気だけが弾けた。

「――生きてたか」

凛とした声。女の声だった。

振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。

白銀の髪、冷たい瞳。まるで氷で造られた女神のような――

「EU支部、フレイヤ・リンドストロム。指令により救援に参上した」

彼女が舞い降りた瞬間、戦場の空気が一変した。

白銀の髪が揺れるたび、空気が凍り、細かな霜の粒が光を反射する。

彼女の語った言葉もよりも。ただその存在が、“救援”であることを証明していた。

「っ……新手か……!」

帝釈の顔に、初めて微かな表情の揺れが走る。

フレイヤが手をかざす。

周囲の空気が一瞬で凍りつき、帝釈の足元に霜が走る。

「日本支部の灰島賢だな? 立てるか?」

俺は、驚きと安堵の中で、「ああ」と声を絞った。


* * *


――別の場所。

三輪蓮は、脳を焼く幻術の音に意識を持っていかれそうになっていた。

「……これで……終わりか」

その瞬間。

ギターの音が止まった。

「――?」

多聞がギョッとした顔を上げた。

風が、吹いた。

それはただの風じゃない。“斬撃”を伴った、鋭い風。

――スパァン!!

空気そのものが切り裂かれ、残響が尾を引く。

音の波が、物理的に切断されたような錯覚。

幻術によって霞んでいた思考が、一瞬で研ぎ澄まされていく。

空間に貼りついていた“不快な膜”のようなものが剥がれ落ちた。

幻術空間が一瞬だけ、真空のような沈黙に包まれる。

「っ、どこから……!」

次の瞬間、三輪の前に誰かが立っていた。

黒い髪。鋭い目。まるで風そのものを体現したような少女――

「EU支部、イーダ・ニールセン。現着」

言葉とともに、突風が吹き抜ける。

風圧の余波だけで周囲の木々が斬れ、地面に渦が走った。

少女はその中心に静かに立ち、風をまとう剣のような存在感を放つ。

鋭い眼差しに迷いはない。そして、冷静に言い放った。

「これより作戦を開始する」


* * *


――そして、もう一つの戦場。

秋月一馬は、拳をついてようやく立ち上がろうとしていた。

だが、背後に迫る黒い影。

皮膚が逆立つような殺気。

呼吸ひとつするだけで、即座に命を断たれる――そんな確信。

敵の殺気が背中を刺すように伝わってきた――そのとき。

「どきな!」

轟音。

――ゴォン!!

雷鳴のような衝撃波と共に、巨大な何かが横から叩き込まれた。

黒い影が吹き飛び、地面に叩きつけられる。

「……は?」

呆然とする秋月の目の前に、大きなハンマーの影と、どこか陽気な笑みを浮かべ戦乙女の姿が現れた。

「EU支部、サーラ・ヴァンハラ! ただいま参上!」

ハンマーの先端からは、なおもバチバチッと雷光がきらめいている。

陽に焼けた肌と、肩口で跳ねる金髪。快活な琥珀色の瞳は、雷そのものの奔放さを宿していた。

その姿はまさに“雷の化身”。

「さぁ、ここからはお返しタイムってやつだ!」

背後には雷の残響。足元からは火花が走る。

その大柄な身体に宿るのは、ただのパワーではない。

振るうハンマーは戦槌にして、戦局を変える宣言そのものだった。

その陽気さは虚勢ではなく、本物の強さから生まれる余裕――

秋月は、言葉を失ったまま笑った。

「……あっは……なんだよ、それ……マジでヒーローかよ……!」

それに対し、サーラはウィンクを投げ、ハンマーを肩に回す。

「さあ、仲間のために起き上がりな。あんたたちは、まだ終わっちゃいないだろ?」

雷鳴が響く。

戦場に、新しい風が吹き込んでいた。


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