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12-8: Edge of Collapse(崩壊の縁)

「このままじゃ……やられる……!」

視界がぐらつく。 さっきの一撃で、肩の骨がきしむ音がした。

俺はなんとか踏ん張って、再びガン・ダガーを構えた。

対峙するのは――帝釈。

まるで空間そのものが、あいつを中心に崩れていくみたいだ。

拳を振るだけで空が裂け、視線を向けるだけで圧が走る。

そんな“異常”を前にしても、逃げるわけにはいかなかった。

「……くそ。こんなひりついたゲーム、はじめてだ」

ここで逃げたら、終わるのはゲームじゃない――仲間の命だ。妹の命だ。

矢神さんも、葉奈も、みんなを救うって、決めたんだ。

俺の取り柄はゲームがうまいだけ。

それでも、いやだからこそ、俺は一歩、前へ出た。

(矢神さんも、きっと……)

あの人も、こんな状況で、何度も戦ってきたんだろう。

誰よりも強くて、誰よりも遠くを見ていた背中。

追いつけるなんて思ってない。でも――

(俺も、そうありたいんだ)

妹・葉奈を救いたい。

仲間を見捨てたくない。

「最強」じゃなくてもいい。

でも、「救える」存在でありたい。

「逃げねえ。絶対にクリアしてみせる……!」

ガン・ダガーのモードを切り替えながら、俺は前へ出た。

銃を先行、剣を後追い。

斬撃で注意を逸らし、射撃で仕留める。

シンプルだが、最短の構え。

左右から交互に刻む刃。

それに反応するように、帝釈がごくわずかに動いた。

――そこだ!

ゼロ距離。照準は胸元、トリガーを引く――!

「……!」

確信と共に、撃ち抜いた。

だが――手応えは、ない。

空を撃ったような、虚無の感触。

「……遅い」

低く響いた声は――背後からだった。

「なっ……!」

どうやって後ろに!?

いや、それすら考える暇もなく――全身に雷のような衝撃。

視界が、真上に跳ね上がる。

背中に衝撃。空気が爆ぜる音。

「ぐあああっ!!」

岩壁に叩きつけられ、肋骨が嫌な音を立てた気がした。

肺が圧迫され、呼吸すらままならない。

それでも。

「っ、まだだ……!」

落下の勢いを殺し、地面に着地する瞬間に転がって体勢を立て直す。

足元がふらつく。だが、構えは崩さない。

ガン・ダガーに再びエネルギーを集中させた。

銃口が熱を帯び、赤く染まっていく。

「――フルブレイク・バレット!」

引き金を絞る。

爆音。

熱風。

閃光。

散弾のように拡散した光の粒子が、帝釈めがけて一直線に収束していく。

必中の間合い。回避不能の密度。

これを受ければ、どんな敵でも――

「……消えろッ!」

だが――

「無駄だよ」

帝釈の右手が、ただ静かに振られた。

その指先がなぞった空間が、まるで膜のように揺れる。

刹那――衝撃波。

まるで空気そのものが反転したかのような重圧。

俺の放ったすべての弾丸が、“面”に弾かれて空中で炸裂した。

「な……っ!?」

光の粒子が霧散し、その一部が跳弾のように逆流する。

俺の視界に、赤い線がいくつも走る。

「ぐっ……!」

肩、脚、脇腹――次々に熱と衝撃が突き刺さる。

体が痙攣し、膝が勝手に折れた。

崩れ落ちるように、地面に片手をつく。

でも。まだ終わってねぇ――!

「……あの程度じゃ、終わらねえよ」

気力を振り絞って顔を上げる。

銃口は焦げ、剣は刃こぼれしていた。

体も限界に近い。

だけど――俺の“ゲームセンス”は、まだ死んでねぇ。

「君、うまいね」

そのとき、帝釈が静かに呟いた。

「うん。やっぱりゲームは楽しいや。寝たきりでも、こんなに生きてる感じがする」

「……は?」

思わず声が漏れた。

「何、言ってんだ……?」

帝釈は俺を見ていない。 まるで、誰か別の場所にいる相手と会話しているようだった。

「この身体なら、まだ“遊べる”。命が尽きるまで、ね」

言葉の意味はわからなかった。

でも、わかったことが一つある。

――この相手は、ただ強いんじゃない。

純粋に戦いを楽しんでいる。

だから、こんなにも“止まらない”。

「……クソっ……!」

だけど、それでも――

「負けられないんだよ、俺は……!」

俺も、止まるわけにはいかないんだ。



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