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12-7: Arrival of the Unstoppable(止まらぬ者の来襲)

――同時刻。

重たい瞼をようやく押し上げると、目の前にあったのは、粗く削られた岩の天井だった。

「っ……くそ……」

俺――黒磯風磨は、見知らぬ場所に拘束されていた。

喉が渇いている。関節の奥がじくじくと痛む。

動こうとしても、手首の硬い感触が俺を押しとどめる。

「まるで……囚人じゃねえか……」

不快な感覚に眉をしかめていたとき――

「ようやく目が覚めた?」

どこか聞き覚えのある声。

ゆっくり顔を上げると、そこには……

「……水上? おまえ……なんでこんなところに……」

洞窟の薄闇の中に立っていたのは、疲れた表情を浮かべた水上凪だった。

そして彼女は――ひとりの少女を抱えていた。

「その子は……」

「……灰島葉奈ちゃん。賢くんの、妹」

その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に走るものがあった。

「なんで、あいつの妹までここに……」

「ねえ、黒磯……少し、話いい?」

水上の声が、少しだけ震えていた。

「話? それよりも、まず説明を――」

「うん、説明もだけど……たぶん、聞いておいたほうがいいこと」

「……なんだよ、まわりくどいな」

「意地の悪い大人たちは、私たちの戦いをこう呼ぶよね――ウォーゲーム。血の流れない、戦争の紛い物って。だってそうだよ。やってること、ぱっと見はゲームなんだもん」

水上は視線を落とし、腕の中の葉奈の髪をそっと撫でた。

「……でも、私たちがやってるのって本当に遊びなのかな。戦ってるのって、本当に上位存在なのかな」

「……何が言いたいんだ」

水上が顔を上げる。

「ねえ、黒磯。SENETはね。私たちがプレイしているゲームは――……」

* * *

――その頃。

「ここを抜ければ、合流できるはずだ」

俺は双剣と銃を両手に、崩れかけた通路を走っていた。

遠野、浮水、秋月、三輪…… みんな、それぞれの戦場で踏ん張ってる。

俺だけが立ち止まるわけにはいかない。

「待ってろ、黒磯ッ……!」

石壁の裂け目を飛び越えようとした――その瞬間だった。

ドゥン……と空気が歪む音。

嫌な気配。重さ。空間が、押し返してくる。

「……なんだ?」

俺の前に、黒衣の影が立っていた。

髪は長く、顔立ちは整っているのに、どこか“人間じゃない”雰囲気を纏っている。

空間そのものが、その存在を拒絶しているような。

「……誰だ」

呟いたとき、影が動いた。

「帝釈、君を止める者」

短く、ただそれだけ。それだけで、戦慄が走る。

俺はすぐに構えを取った。

「どいてくれる気は、なさそうだな」

返事はなかった。

帝釈が、すっと右手を持ち上げた。

その動作に、風が逆巻く。

「っ……!」

反射的にガン・ダガーを抜き、銃口を向けた瞬間――

ズバンッ!

地面ごと吹き飛ぶような圧力が俺を襲った。

「っぐ……!」

間一髪で飛び退く。

それでも爆風の余波だけで、視界が揺れた。

「……冗談だろ……こんな威力が、牽制の一発かよ……」

俺は歯を食いしばった。

「だが、やれる……はずだ……!」

銃と剣、両方を構えた。

帝釈が、一歩、前に出た。

そのだけで、空間の空気が“沈んだ”。

「来る……!」

次の瞬間、音もなく帝釈が目の前にいた。

かすめるような拳。それだけで、地面がえぐれた。

「っ、速っ……!」

剣で受け止めるが、衝撃が骨まで響く。

「マジで……ヤバい……こいつ……!」

目の前の敵に、理屈じゃない“格”を感じていた。

――このままじゃ、終わる。

だが、今は――まだ引けない。

俺は踏みとどまる。

「負けるわけには、いかない……!」

……その言葉は、届かなかった。

帝釈が静かに手を引く。

それだけで、空気が割れた。

「っ、やば――!」

直撃は免れたが、肩を裂くような衝撃が走る。

地面に膝をつく。

「……なんてやつだ……!」

俺は、体勢を立て直す。ビビっている場合じゃない。

どちらにせよ、こいつを倒さなきゃ、先にはいけない。



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