「ユースさん、大好きです」
いつの間にか、カロンは自然にユースへ気持ちを伝えていた。お互いに気持ちは通じ合っているし、付き合い始めてもいる。それでも、ユースに対する気持ちが溢れてきて止まらなかったのだ。
カロンの言葉を聞いて、ユースの背中が動く。くるり、とカロンの方を向くと、ユースの美しい青色の瞳がカーテンの隙間から差し込む月の光に照らされて美しく輝いていた。
「カロン。俺の方こそ、君と出会えて本当によかったと思っている。人を愛する気持ちが何なのか知らなかった俺に、愛を教えてくれたのはカロンだ。カロンと一緒にいると、初めての感情ばかり生まれてくるし、見るもの全てが新しく思える。こんなにも誰かの側にいたい、守ってあげたい、ずっと一緒に生きていきたいと思ったのは初めてだ。俺にもこんな感情があるのだと思わせてくれたのは、君なんだ。本当にありがとう」
カロンの両手をそっと掴み、軽くキスをする。
「カロン、俺も君のことが大好きだ。大好きだけじゃおさまりきらないほどに愛している」
「……!私もです」
カロンが頬を赤く染めて嬉しそうに微笑むと、ユースも嬉しそうに微笑み、そっとカロンの髪の毛を耳にかけて頬を優しく撫でる。じっとカロンを見つめる瞳は優しいのに、奥底で熱いものが揺らめいているようだ。
(ユースさんに見つめられていると、溶けてしまいそう)
トクトク、と心臓が速く鳴っている。胸がぎゅっとして苦しいのに、辛い苦しさではないのが不思議だ。
「キス、してもいいか?」
ユースがそっと囁くと、カロンは大きく目を開いてからすぐに顔を赤くして嬉しそうに微笑んだ。その微笑は本当に嬉しいと言わんばかりの表情で、ユースの胸はあまりの愛おしさにギュンッと押しつぶされそうになる。
ユースはゆっくりとカロンに顔を近づける。ほんの少しの時間なはずなのに、なぜかとてもその時間がゆっくりと感じられて、カロンは不思議に思いながらもそっと瞳を閉じた。
ユースの少しかさついた唇がカロンの柔らかい唇に優しく触れ、すぐに離れた。カロンがそっと目を開くと、ユースの青い瞳と視線がぶつかる。二人とも嬉しそうにフフッと微笑み、またユースの顔がカロンに近づいた。そのまま、ユースの唇がカロンの唇を何度も優しく食んでいった。
*
窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえてきてカロンは目を覚ました。体をゆっくりと起こしてふと視線を床に落とすと、寝袋にすっぽりと入って寝息を立てているユースが見える。
昨夜は何度もキスを繰り返したあと、ユースはカロンをギュッと抱きしめてから体を離し、困ったような顔で言った。
「この部屋に寝袋を持ってきて床に寝ようと思う。このままだと、きっとちゃんと寝ることができない。カロンは明日も仕事だろう。それに、騎士団本部で事情聴取の続きも受けなければいけない。本当はカロンと離れたくないんだが……」
ユースは戸惑うように視線をあちこちに揺らしている。それを見て、カロンは顔を赤らめて同じように視線をあちこちに揺らした。
「そ、そう、ですね。同じ部屋で寝てくださるのなら、寂しくありませんし。わかりました」
(確かにこのままだと私もドキドキしすぎて寝れない気がする……!)
カロンの返事に、ユースはカロンをギュッと抱きしめると、小さな声でつぶやいた。
「この続きは、いずれまた……」
昨日そう言われたことを思い出して、カロンは顔を赤らめて両手で自分の頬を包み込むとほうっと息を吐いた。
(続きはいつか……する時がくるのよね。でも、私もまだ心の準備ができてないし、二人のペースで進んで行くのが一番いい)
カロンが微笑みながら寝袋のユースを見つめていると、寝袋がもぞもぞと動いてユースの目が開く。
「ん……カロン、起きていたのか」
「ふふ、私もついさっき目が覚めたところです。おはようございます、ユースさん」
「ああ、おはよう」
カロンが嬉しそうにそう言うと、ユースもカロンを見て嬉しそうに微笑んだ。
鉱石花。
結晶化する際に花のような美しい形になった魔力を持つ鉱石のこと。鉱石花が宿す魔力は通常の魔力を持つ鉱石よりも桁外れとされ、重宝されている。その美しさから観賞用にコレクションする者、魔力強化のために保有したり加工したりする者など様々だ。
街の一角に、魔鉱石屋がある。そこは貴重な鉱石花を取り扱う珍しい魔鉱石屋だ。女店主が用心棒だった傭兵、現在は騎士である男と結婚し、街中から盛大に祝福を受けるのはもう少しだけ先の話だ。