都市伝説を始めとする、超常的存在が現実に実在すると知られた今。
世界各国では迅速な対応が進められていた。まるでこうなると分かっていたかのように。
アメリカのような大国では、自国の軍隊を惜しみなく周辺諸外国へと応援という形で貸し出しを行ったり。中国のような元よりeスポーツ産業が盛んな国では、国の軍隊以外にも自国のプロゲームプレイヤー達を優遇する事でArban collect Onlineというゲームに抵抗しようとしていた。
では、日本は?
自衛隊の様な存在は居るものの、彼らは防衛を専門とする組織であり他の国の軍隊のように自由に動く事は出来ない。つまるところ、
「白羽の矢が立つのが
元より政府や様々な機関と連携し、日本の都市伝説、超常的存在に対応対抗対処していた秘匿事象隠蔽特課。
私も所属しているその組織は、名前を『超常事象対応特課』に変え。
今までとは違い存在を隠す事なく日本を中心に超常的存在に対応していく事を発表した。
「ライオネルさんとかマギステルさんは……まぁ大変そうっちゃ大変そうだけど事務の私は変わらずって感じだなぁ」
リアルの自室の部屋の中、端末の複数のモニターを見ながら濃い珈琲を啜る。
部屋のテレビからは今もニュースが流れ続けている。聞いている限り、ゲームによって都市伝説が漏れ出てしまった各国の現状はそこまでよろしくは無い。
日本の様な組織が他の国にも存在している筈だが、それらの抵抗も虚しく国土を荒らされ続けている。
周辺の国も国で、国の中へと入ろうとはせずに自国との境界をメインに防衛拠点を置いているようで。積極的に助ける、と言うよりは様子見の段階ではあるのだろうと入ってくる情報だけでも分かる。
……ま、結局私がやる事は変わらないかな。指示も……新しくは来てないし。
現場に出れるほどの能力がない事務が新しくやれる事なんてほぼ無い。
強いて言えば……今まではほぼ居なかった、SNS等で故意的に都市伝説的現象を引き起こそうとしている人へと向けて警告を行うくらいだ。
「時間は……おっとっと、もうこんな時間か。危ない危ない、遅れる所だった」
事務員用の仕事管理アプリのステータスを作業中へと切り替え、私はベッドに横になってVR機器をセットする。
確かに私にはやれる事は変わらない。だが、変わった所がないわけではない。
……さて、いっちょ今日もやっていきますか。
VR機器が起動すると同時、私の意識は深い闇の中へと落ちていく。
―――――
--仮想電子都市:トウキョウ・賭博区
「すいません!待たせました?」
「いんや、集合5分前だ。問題無い。……問題があるとしたら他2人なんだがな」
紅葉降る紅の橋の上、と言えば詩的と笑われてしまいそうだが。賭博区という場所はそう表現する他ない場所に溢れていた。
私がここに訪れたのはただ単に待ち合わせの為だけではない。
目の前に居る自身よりも背の高い男性へと視線を向け、
「今日のメンツ的に仕方ないとは思いますよ?1YOUさん」
「それは……そうなんだがなぁ……」
嘆息する1YOUの姿を見て、薄く笑う。
今日、私と1YOUが賭博区に集まった理由はただ1つ。無論、賭博をするわけでは無い。
……にしても、今日も元気だなぁ。皆。現実とは良い意味でかけ離れてるや。
各賭博場の方から虚しい叫びを挙げるプレイヤー達の声を聴きながら、私は周囲の景色へと目を向ける。
幻想的ではあるが故に、この空気に呑まれてしまえば今叫んでいるプレイヤー達と同じ末路を辿ってしまう。そんな、美しくも惨い区域。
だが、ここはArban collect Online。一見すれば只々賭博が出来るだけの空間にも見えるこの区画にも、きちんと地下への入り口は存在している。
「先に聞いときますけど、今回行くのって何が出てくるか分かってるんです?」
「分かってはないな。3択なのは分かってるが」
「一応聞いても?」
「問題ない。というか全員揃ったら同じ事を話そうとは思ってたんだが……まだ来なさそうだからな。良いだろ」
そう言って、1YOUは3枚の半透明なウィンドウを出現させ私の方へと移動させてきた。
そこに写っているのは、
「大量の猫と、船、あと……何ですコレ?ブラキオサウルス?」
「まぁそうなるよな。一応左から、『エイリアン・ビッグ・キャット』、『メアリー・セレスト号』、『モケーレ・ムベンベ』だそうだぞ」
「あー……成程?UMA系2種と幽霊船ですか……この3種からランダムかぁ」
「やっぱり面倒か?」
「面倒か面倒じゃないかって言われると面倒寄りですね。まぁ都市伝説なんてほぼそんなもんですけど」
今手元にあるウィンドウだけで分かるのは、
それ以外の……メアリー・セレスト号に関しては現時点で言える事は全くない。
かの船は無人のまま漂流し、その出来事を面白おかしく流布する為に脚色された過去を持つ。その上で、このゲームにおけるメアリー・セレスト号がどの話をベースとしているのかが分からない為に、変に口を出す事が出来ないのだ。
……特殊なギミック系だったら……まぁ、正直事前情報なんて役に立たないってのはよく分かったしね。
思い出されるのは、まだ記憶に新しいイベントで出現した都市伝説。
ダドリータウンの呪いは、元より本体という本体もなく呪いという非実体のモノが蔓延っている村の都市伝説だった。
それがイベントでは核があり、呪いの原因であろう男性がボスのような立ち位置で出現したのだ。私の知っている、把握している情報なんてフレーバー程度で考えた方が良い。
「まずはUMA2種ですが……モケーレ・ムベンベに関しては特に言う事はないです」
「無いのか?デカい恐竜みたいな……あー、そういう事か?」
「そうです。デカい恐竜の様な見た目そのままだからこそ言う事が無いんですよ」
1YOUの前に都市伝説達が映されたウィンドウを向けながら、私は人差し指を立てる。
「デカいってのはそれだけで面倒ですけど、それだけです。他の2種……個人的には、エイリアン・ビッグ・キャットは嫌ですね」
「それはなんでだ?……すまん、俺別に都市伝説には詳しいという訳ではなくてな」
「いえ、大丈夫ですよ。寧ろこんなに知ってる方がおかしい側です。……とはいえ、この猫に関しては……言っちゃえばデカくて超能力が使えて、尚且つテレポートもステルス化も出来る、なんて言えば……伝わります?」
「それだけで十分だ。しっかり面倒でこの中じゃ最悪の札だっていうのはよく分かった」
私が何故この3種の中でそれを嫌だと言ったのか理解出来たのか、彼はこめかみ辺りを押さえながら嘆息する。
基本対応が面倒な相手に、更に面倒な能力が備わっているのだ。私も相対したら嘆かずにはいられないだろう。
……ま、三分の一を引く確率よりも、他を引く確率の方が高いんだから……特に考えなくても良いかな。引いた時は仕方ないって感じに諦めるしかないだろうし。
そも、私的には嫌なだけだ。
正直全身が液体とかいう基本的に線での攻撃が効かない仕様となっていた下水道のワニに比べれば、肉体という肉体があるだけで十二分に良心的なのだから。
一応、この流れでメアリー・セレスト号の事についても話そうと口を開くと同時、
「おーい、申し訳ない!待たせたね!」
「ま、待たせたわ……!」
「っとと、もう少し聞いていたかったが……残りの2人が来たようだ」
「そうですね」
私と1YOUは遅れた2人を迎え入れ、目的地への移動を開始したのだった。