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Episode2 - ファイバーオアアタック


 今回、私達が挑む地下へと繋がっているのは、普通の家屋の玄関に見える場所だった。

 というか、それ以外の何にも見えない場所だ。

……何でもあり、っていうか……下へと繋がりそうな場所だったら何でも入り口になるんだろうなぁ。

 それぞれがお互いにお互いの顔を見て、頷き合う。

 今回、挑むのは今の所把握出来ている中でもこのゲームにおける最前線。今までの地下よりも難度が高い事は確実であり、支配している都市伝説等の力も比例して強くなっている筈だ。


「先頭は?」

「俺が。その後ろに……神酒さん、患猫、先輩の順番でどっすか」

「私はそれで問題ないねぇ。神酒ちゃん、患猫ちゃんは?」

「私も大丈夫です!」

「わ、私もよ」


 【狼男】を持つ1YOUを先頭に、広範囲でありつつ特に制限もない索敵手段を持ち、限定的でありながら転移能力を持つ私が二番手。

 近接戦闘能力が高いライオネルを最後尾に置き、背後からの奇襲を防ぐ事も出来る配置だ。

……患猫さん……オカルト系、ホラー系のゲーム実況を主にやってるストリーマーさんだよね。

 他の面々が装備の点検や消耗品の確認を始めた所で、私はちらと1人のプレイヤーへと視線を向けた。そこには、全身真っ黒の、如何にも魔女らしいローブを着た女性が立っている。

 Sneers wolf所属のストリーマーであり、普段やっているゲームジャンルから度々このゲームの掲示板でも話題に挙がるプレイヤーの1人、患猫だ。


「ふぅー……ちなみに中で安全が確保出来そうだったらやる・・んですよね?」

「そうだな。今回2人を呼んだのはそれが目的だし……もし出来なさそうでも、報酬は払わせてもらう」

「だってさ神酒ちゃん。私らは気楽に行こうぜ」

「行けたら良いんですけどね……!」


 今回、何も只々皆で集まって地下攻略をしようと言っているわけではない。

 私は首元へ、ライオネルは口に装着しているマズルマスクへと手を添えながらも、


「……ライオネルさんは兎も角、ウチは出来るかどうか怪しいのは確かなんですよね」

『あら心外。まるで私が悪いみたいじゃない』

「悪いからそう言ってんの……!」

「あは、【口裂け女】ちゃんは前見た通りみたいだ。【ソニービーン】ウチはそんな事無かったけどなぁ」


 私とライオネル。2人に共通しており、1YOUと患猫にはないもの。

 それは、奇譚繊維からその先の技術、コンテンツに到達しているか否かだ。と言っても、私はライオネルの様に自力で奇譚繊維を身体の内から出現させる事は出来ないし、ライオネルのように同調を自由に行う事は出来ない。

 故に、今回攻略の目的は単純。

……2人に奇譚繊維について教えると共に、私自身のスキルアップ……!

 言語化が難しいとしても、既に私以上に奇譚繊維を自由に操っている存在から話を聞ける、その姿を近くで見れる、というのは中々に無い機械であると言えるだろう。

 家屋の前で1人、小さく気合を入れていると、


「で、でもそんなに簡単に出来るようになるものなのかしら?そもそもアルバンの声や意志なんて感じた事も聞いた事もないわ」

「まぁ、俺もそうなんだが……どうなんすか?先輩」

「んー……いやまぁ私もしっかり感じたわけでも、神酒ちゃんみたいに聞こえてるわけでも無いんだけど……こう、しっかり上下関係を自分の中で定めた、って感じかなぁ」


 事実、私も私で何で【口裂け女】と今の様な関係を築けているか甚だ疑問に思う。

 元は彼女自身が暴走した所からが始まりだったのだが……それも、こちらからアプローチしたわけではないのだから。


「んんっ、これで聞こえるわね?感じるとか聞こえるとかそう言うのはどうでも良いのよ。要はギブアンドテイク。【ソニービーン】そっちのもそうだけれど、私も単純にその子に従ってるわけじゃないわ」

「「!?」」

「あ、【口裂け女】ちゃんじゃん。やっほ」

「やっほ」

「いや、なんでそんな友達みたいなノリで挨拶してるんですか……」


 と、ここで私の内側で話を聞いていたのであろう【口裂け女】が、勝手に私の頬辺りに口を作り出し勝手に話し始める。

 突然の出来事であった為に1YOU、患猫の両名は自身の得物へと手を伸ばしてしまっていた。それに問題はないと軽くジェスチャーで教えながらも、


「とまぁ、この様に。私の【口裂け女】は割と自由に表に出てきたりするんですよ。だから、私の場合はコレと話し合いながら力を借りたり暴走させたりしてるわけで」

「つ、つまり……アルバンとしては使えるけれど、きちんと制御出来ているわけではないのね?」

「そうなります」

「ま、そう簡単に制御されても癪っていう感情はないわけじゃないわねー。精々頑張りなさいな」


 【口裂け女】は言いたい事を言って満足したのか、そのまま口の具現化を解く事で内側へと再び戻っていく。

 ある程度は慣れてきているものの、ここまで自由気ままに行動されてしまうと一応の主である所の私の立つ瀬がないではないか。

……そう言えば、今同調?とか言うのを言わなかったのって……今回の奇譚繊維云々の先にある事だから?

 だがそれはそれとして、気になる事がある。

 【口裂け女】の口から、同調と言うワードが出てこなかった事だ。

 先のイベント、その最終場面で私の身に起きた変化であり、【口裂け女】が確実に関わっているであろう事柄。その出来事については、未だライオネルにすら伝えられていない事ではあるものの……戦力増強、という面で見るならばすぐにでも伝えるべきだろう。


『んー……まぁ気分って所も多いけれど、そもそもが同調それについては難しい所があるのよ』


 1YOU達がある程度自分の中で納得したのか、パーティを組み地下の入り口の方へと歩いていくのを目で追いながら、私は内に響く声へと耳を傾ける。


『そも、私と貴女が同調出来たのも私側から『してあげても良い』って許可を出したからだもの。今はその戸口が開いている状態で固定されちゃったから、多分奇譚繊維も出せるようにはなってるとは思うけれど……自力で同調しようとしたらあの時ほどちゃんとは出来ないと思うわよ?』

「よし、じゃあ行こう。中に入ったらまずは周囲の安全の確保。その後問題が無さそうならば、敵性バグとの戦闘を数回行い奇譚繊維についてのレクチャーを行ってもらう。問題は?」


 と、ここで私も知らなかった事実を伝えられ僅かに目を見開いてしまう。

 そんな私の変化を、ライオネルは気が付いたのかこちらに視線だけ向けて苦笑する。出来る限り周りに気が付かれないように表情や雰囲気に出来るだけ出さないようにしていたのだが……驚きの方が勝ってしまったようだ。

……え、じゃあ私ってもう自分の意志で奇譚繊維出せるんだ?

 私の心の内での問いに、【口裂け女】は短く相槌を打つ事で返答とした。

 意外と私が考えていたよりも、私の出来る事の範囲は広がっていたらしい。


「……無さそうだな。では行こう!」


 そう言って、1YOUが家屋の玄関の扉を開く。

 瞬間、視界が暗転し……気が付けば、私達は見知らぬ建物の廊下に立っていた。

 和風建築とでも言えばいいのだろうか。板張りの廊下に、木造の壁。見える範囲には扉の代わりなのか障子が複数設置されており、その先に何かしらの部屋があるのだろうと想像できる。

 廊下の先は見えず、全体的に薄暗い。

……ちょっと面倒かなぁこれは。

 当初の予定通り、奇譚繊維のレクチャーが行えるような都市伝説が相手であればいいのだが。

 少しだけ不安に思いつつも、今回の地下探索が開始された。

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