多少の嫌悪感は未だ感じつつ。
身体の中へと種を埋め込んでいけば、
【サブアルバンの適応完了:【ダドリータウンの呪い】】
きちんと適応が出来たようで、ログが流れると共に心臓付近から紫色のオーラが薄っすらと立ち昇り、四肢へと広がっていくのが見て取れた。
……これは……そういう事かな?
紫色のオーラは十中八九、【ダドリータウンの呪い】の能力に依るものだろう。だが、この心臓付近から広がっていった現象は……恐らく、私が種を埋め込んだ場所が場所だからではないだろうか。
「ま、確認はしておこう」
元となったであろう都市伝説とは嫌と言う程対峙した為、何となくどの方向性の能力になるかは幾つか予想は出来るものの。
【下水道のワニ】のように、すぐ理解出来るような能力ではないのは確かではある為、きちんと確認しておくのは大切だ。
アルバンのメニューから、追加された【ダドリータウンの呪い】についての詳細を開き、見てみれば。
「おぉ……中々、再現はされてるんだ」
『貴女、敵にしたら大分面倒になったわね』
「こういうゲームだと、有名プレイヤーはランダムエンカウントのボス、みたいな扱いされる事あるけど、私がそっち側になる日が来るとはね」
――――――――――
【ダドリータウンの呪い】
種別:逸話・サブ
状態:安定
β能力:【呪いの血筋】
説明:敵対関係にある対象に対して、一定時間毎に『呪い』の付与判定を行う(on/off可)
制限:トウキョウ内では能力の行使が行えない
強化状態:なし
――――――――――
私も倒されかけた強力でありながら面倒臭いデバフである『呪い』。
このアルバンを設定している間は、延々と敵に対して『呪い』の付与の判定をし続ける……と言う事は、だ。
「どれくらいの効果範囲なのかは確かめるしか無いけど、近接距離で戦う私にとってはかなりのアドだね」
『
もしも近距離用の能力であっても、私には対象の背後へと転移する能力がある。
無論、近付く事自体が悪手になる敵も居るだろうが……それにしたってボスアルバンに相応しい強力な能力だ。
「さて装備品の方も見ておこうか」
『あら、そっちのアルバンの種はどうするの?』
「必要になる時が来るまでインベントリで眠っててもらうよ。出来ればボスアルバンが3つ以上設定できる様になってくれたら有難いけどね」
【エイリアン・ビッグ・キャット】の種はインベントリの奥底へと入れておき、その流れでこの場で確認出来る最後の品物……イベント報酬である装備品を取り出した。
……これは……また指輪だ。
手のひらの上に出現したのは、所々に煉瓦のような意匠がされた、紫色の結晶が嵌められた鉄製の指輪だ。
結晶が十字架のようになっているのは……恐らく、最後に出てきたボスの様な存在に所以するモノだろう。
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忌み十字の指輪
種別:アクセサリー
状態:安定
能力:『呪い』を具現化し、固体化させる事が出来る
クールタイム:5m
制限:サブアルバン【ダドリータウンの呪い】が適応状態でなければ使用できない
説明:呪われた血筋は、時を越え地を呪う。
故に、逆十字。故に、忌み十字。
かの者の贖罪は今も終わらない。
――――――――――
「えぇっと……これは流石に地下じゃないと確かめられないか」
『呪い』を具現化、固体化させる事が出来る……という、想像は出来るものの、実際どういう反応を起こすのかがよく分からない能力を持っている指輪。
とはいえ、【ダドリータウンの呪い】の補助、もしくは能力拡張の面を担っているであろう装備品だ。装備しておいて損はないだろう。
……これ、ネックレスみたいにしても装備されてる判定になるかな?
出来ればアルバンを埋め込んである場所に近い位置に装備していた方が良いだろう。そう考えたものの、その場のノリで心臓付近に埋め込んでしまった為に、指輪という形状のソレを近付けるには紐か何かを通してネックレスのようにするしかないだろう。
後でその辺りの素材を買ってくるまでは、一応右手に嵌めておく事にする。
『で、後確認したいのって新しく解放された領域かしら?』
「そうなるね。なんかログに流れた名前がいつもとは違う名前だったし……絶対何かしらあるやつでしょ、あれ」
言いながら、私はエイリアン・ビッグ・キャットが支配していた地下の入り口へと向かって歩き出す。
今回解放された区画……ではなく。領域はその名も『トウキョウ防衛前線基地』。
普段の様に、○○区と言う括りではない名称に少しばかり警戒しつつも、確かめてみない事には始まらない。
……鬼が出るか蛇が出るか、みたいな話かな。もしくは藪蛇の方じゃなければ良いけどね。
兎も角、この段階で解放されたのだ。
これからの攻略に必要になるであろう要素があると信じてもバチは当たるまい。
「よぉーし、いざ侵入!」
辿り着いた民家の入り口から中へと入っていく。
地下への移動は一瞬だったものの、今回は違うようで。暗い視界の中、前へ前へと歩いていけば……不意に私の視界に光が差した。
その眩しさに目を細めながらも更に進んでいくと、
「うっわ、何だコレ……」
そこには、空が在った。
比喩ではない。まるで標高の高い山の頂上に立っているかのように、雲がすぐ近くに存在し。青い空がそこには在った。
だが、それだけではない。周囲には無骨な鉄の足場に加え、とってつけられたような転落防止用の鉄パイプの柵、様々な物資が入っているであろうコンテナ群。
そして、私を歓迎しているかのように入り口が開いている巨大な布のテントが鎮座していた。
……前線基地、ってよりは通信拠点みたいな……それを空の上に無理矢理持ってきた感じの場所だ。
異様な雰囲気に圧倒されていた思考を、首を横に振る事で元に戻し。
私はそのテントへと警戒しつつも近付いていけば、
「おっと」
「あだっ」
丁度、テントの中から出てきた人物とぶつかってしまった。
目深に被ったローブを着た、声が高く私よりも背が高いその人は、
「失礼、怪我は……って現実じゃないんだから大丈夫か。ごめんなさい。注意散漫でした」
「いえ、こちらこそ」
そう言ってそそくさと私が来た方向……賭博区へと繋がっている入り口の方へと歩いて行ってしまった。
……あれ、女の人だったな。綺麗な顔してた。
身長差があった為か、ローブの中の顔を下から覗けてしまったものの。本人が特に何も言ってこなかったのだから別に良いのだろう。
あの言い分からして、彼女もプレイヤー。別に私が一番乗りであるとは思っていなかったが……それなりに此処に到達したのは早い自信はあったのだが。
『ねぇ、入らないの?』
「そうだね、入ろう」
【口裂け女】の声で思考の海から浮上し、私は再度歩みを進めテントの中へと入っていく。
トウキョウ防衛前線基地がどのような場所か、このテントの中で分かればいいのだが。