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Episode7 - コネクトネクスト


「まぁ先に進みます。奇譚繊維の出し方云々は多分……その内側のが教えてくれると思うので割愛しますが、その先……私が今回、部屋の中でめちゃくちゃに刃を出してたでしょう」

「あぁ、アレね。どうやったんだいアレ?私でも知らないんだけど」

「奇譚繊維を経由した具現化ですね。見せた通り、【口裂け女】は刃物の具現化が出来るんですけど……」


 言いながら、私は右腕から伸びた奇譚繊維を自身の目の前まで持ってきて、


「はい、こんな感じで」


 奇譚繊維全体から刃を具現化させた。

……ホントに出来ちゃったよセカンドシーズン。

 実演の様な形で説明しているものの、内心では何故出来ているのかさっぱり分からない。

 恐らくは【口裂け女】が何か補助をしてくれているのだろうが……それでも、何も言われないままにぶっつけ本番で見せているこちら側からすれば、心臓が爆発しそうな程度には動揺している。

 それを悟られないよう、出来るだけ平静を装いつつも言葉を紡いでいく。


「奇譚繊維は……えぇーっと何だろう。所謂、電源コード?出力用のコードみたいな立ち位置だと考えてもらった方が早いかもです」

「へぇ……じゃあこれを起点に、アルバンの能力を使えるって事だね?」

「そうなりますね。……そうだよね?」

『そうねぇ、合ってるわ。……全部自分で答えられたら格好良かったのにね』


 五月蠅い。


「合ってるみたいです。私の場合はこうやって直接攻撃が出来る類の能力なんで良い感じですけど……他の人は使える能力あるのかな……」

「あは、多分そこは発想次第かな。私の場合は……ほら」

「うわっ……」


 ライオネルが言うと同時、彼女の指から伸びた複数の青黒い奇譚繊維が束になり、普段彼女が口の周りに形成しているようなマズルマスクのような形となって。 

 いつの間にか彼女が頼んでいたであろう料理に喰らい付く。

 その瞬間、ライオネルの身体全体が淡く光った。

……確か【ソニービーン】って……食べたモノに関係するバフ得られる能力持ってたよね。

 それを、疑似的に奇譚繊維によって作り出した口によって発動させた、という事だろう。

 前も感じた事だが、目の前のこの女性は実働班と言えども技術の吸収、再現能力が高すぎる。

 何やら渋い顔をしているが、どうせそれも強さには関係のない所だろう。


「味がしない……これじゃあ本当に緊急事態とか手数が足りない時くらいにしか使えないじゃん……」

「味がするもの食べながら、これで他のモノ捕食しに行くとかはどうです?」

「それはアリ。凄くアリだね」


 とはいえ、これ以上私が言える事は無い。

 奇譚繊維の出し方は自身の内側に居る存在に教えてもらった方が効率が良く、その上で能力を使う道筋は教えた。

 これ以上の技術、話となると私も生徒になって【口裂け女】に聞いた方が早いという状況になってしまう為、この会はここでお開きとなる。

……本当は実戦で試してほしかったんだけど……まぁ仕方ない。

 2人の様子を見ながらライオネルと近況についての話をした後。

 私は用事があると言って喫茶店から離脱した。


「色々と確かめたい事があるしね」

『あ、今回の都市伝説の欠片貰ってもいいかしら?ちょっと近々要り様になりそうなのよ』

「?別に良いけれど……あ、少しは残しておいて。消耗品の補充に使うから」

『分かってるわ』


 端から見れば独り言を話しながら、私は生産区から賭博区へ移動し、適当な静かな橋の上へと移動する。

 都市伝説、ひいては様々な伝承が味方や敵となって登場するようになった現在、あまり橋は考え事や物事を確認するには向かない場所ではあるのだが……私の知っている静かな場所というのがここしかなかったのだ。

……えぇっと、前回のイベント報酬と、今回の攻略報酬、後は……解放された新しい所くらいか。確認するべき事は。

 エイリアン・ビッグ・キャットを倒した事で解放された新しい区画?であるトウキョウ防衛前線基地。

 そこに行くのはまた後でにしておいて、今はインベントリ内から確認できるものを確認していった方が良いだろう。


「えぇーっと……あぁ、いつも通りにボスのアルバンが2つ。それと大量の都市伝説の欠片は……これイベント報酬か。あとは装備品……これもイベント報酬だね」


 イベントのボスでもアルバンとして報酬で貰えるのか、という驚きはあるものの。

 規模が大きかっただけで能力自体はそこまで強くなかった為に、そんなものかと思う。

……あれ、普通の地下くらいの大きさだったら十二分に対処しやすい部類のギミックだろうしね。

 都市規模で能力が展開していたのが悪いのだ。アレが時計に飛び込んだ先の村1つ程度の大きさならば……少しは面倒かもしれないが、それでも皆が皆あそこまで混乱する事は無かっただろう。

 それはそうと、インベントリ内からそれぞれ【ダドリータウンの呪い】、【エイリアン・ビッグ・キャット】になるであろう白い種を取り出して。


「……これ、もう2つボスアルバン持ってるけど、まだ追加出来るの?」

『ん、それは……おっと。ボスアルバンを設定できるのは3つまでみたいね。リアルタイムで私の認識をアップデートしてくるのは流石ねぇ』

「あ、やっぱり見られてはいるんだ。……まぁしょうがないか」


 開発か運営か、どちらが行ったのかは分からないものの。ゲーム内の存在である【口裂け女】の認識を弄る事でこちらの疑問への回答としてくるのは流石だ。

 ただ、それは私がプレイヤー達よりも上の立場に居る存在達に認知、注目されてしまっている事を示している。

……イベントでほぼ単騎でボス倒して、尚且つ同調とかいう……私でも良く分かってないシステム使ってたらそうなるか。

 当然だなぁ、と思いつつ。私は手の中で2つの種を弄ぶ。

 既に私の身体の中には【猿夢】、【下水道のワニ】の2つが宿っている為に、残り1つしかボスアルバンは設定する事が出来ないのだ。


『どっちも中に入れてみて、能力見て決めれば良いじゃないの』

「それはそれで迷っちゃうじゃん。どうせなら、能力知らずに『あっちの方が良かったぁー!』なんて事にならないようにしたいのよ」

『……分からないわねぇ、人間』


 他の人類には申し訳ないが、恐らく私特有の感覚だとは思う。

 とは言え、設定出来る物をせずにそのままにしておくのは何処か勿体ない。

……んー……でも、よくよく考えると……。

 私は視線を右手の甲に向けた後、


「よし、【ダドリータウンの呪い】にしよう」

『その理由は?』

「【エイリアン・ビッグ・キャット】はほぼ確実に転移かステルス、分裂のどれかが能力になりそう。ただ私はもう、転移能力は持ってるし、ステルスについては戦闘スタイル的に必要無い。分裂については……まぁ、最悪【猿夢】で猿達出しとけば十分でしょ」

『意外と理由がきちんあるじゃないの』


 別に私も私で適当に考えているわけではない。

 それに、まだ確かめていないがイベント報酬と言う形で装備品を貰っているのだ。普通に考えれば【猿夢】と同じように【ダドリータウンの呪い】の能力強化、或いは補助に関する何かだろう。

 一息。深呼吸をした後に覚悟を決める。この後に来る感覚に耐える為の覚悟だ。


「よぉーし、入れる。入れるよ……!」


 声をあげ、更に気合を入れてから。

 私は白い種を身体へと……心臓の真上辺りへと埋め込んでいった。


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