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Episode9 - ダイヴ イン アルバン アンダーグラウンド


「うわ、すっご……」

『これまた現実にはないものが来たわね』


 テントの中。そこに在ったのは1つの巨大な広場だ。

 白を基調とした小学校にある体育館程の大きさの開けたスペースに、案内役であろう数体のNPCらしき姿と、何かへとアクセス出来るであろうPCが数台。

 これだけでも中々に謎の多い空間ではあるものの、私と【口裂け女】の目を惹いたのはそれらではない。


「あれ何だと思う?冷凍睡眠装置?」

『あり得ないわ。――日焼けサロンに置いてある奴でしょう』

「そっちの方があり得なくないかなぁ?!」


 等間隔で設置された、人1人は余裕で中へと入れるであろう複数の筒状の装置だ。

 大量のコードがそれぞれの装置に繋がっており、微かに駆動音も聞こえる事から動いている事は分かる。

 だが、現実でも……それこそゲームでも近しいものを見た事が無かった私には、それが何をする為の装置なのかは分からない。

……ま、分からない人用にNPCが居るんだろうけど。

 一番近い位置に居たNPCへと近付き、此処は一体どういう場所なのかを尋ねてみれば、


「ここはトウキョウ防衛前線基地、その要となる区画になります」

「……成程?どういう事が出来るの?」

「あちらに見えます筒状の装置……あれは、人体を保存し精神のみでこの先の地下へと挑む事が出来るモノで、私共はDive in Arban Undergraund……通称『DAU』と呼称しています」

「ほーう?」


 その後も詳しく話を聞いていけば、それなりの情報を得る事が出来た。

……つまるところ、此処がプレイヤーやNPCを含めた……所謂、人類が到達できる最深部なんだ。

 このトウキョウ防衛前線基地と言う場所は、その先……人類の限界を超えた先に存在している、してしまっている地下へと挑む為の場所。

 肉体という外部からの影響を受けやすい付属品を、一時的に影響の受けにくい仮初の身体へと切り替え挑む為の装置がアレなのだ。


「なんだかややこしい話になってきちゃった」

『VRMMOの中に居るのにVRみたいな事をするのね』

「私が言わないようにしてた事を平然と……!」


 そう、言ってしまえば巨大なヴァーチャルVリアリティR装置なのだ。

 ここから先の地下に挑むには、ゲーム内で更にVR装置を使う事で進む事が出来る……そんな、二度手間のような事をしなければならないらしい。

……でも良く考えたもんだねぇ。

 確かに、都市伝説になっているようなものはこれまで相対してきたような個として存在しているような存在は数少ない。

 紫鏡、下水道のワニや口裂け女のようなモノを例外とすれば、他は基本的に実態が不定だったり、そもそも場所や現象だったりとゲームの敵として実装するには難しそうなモノばかりなのだ。

 それをこれまで攻略してきた地下のように、様々な形で、より大規模に再現するとなれば……こういった実装の仕方しかなかったのかもしれない。


「ちなみに、挑む場合の注意点は?」

「まず、難易度が3段階とプラスアルファの合計4段階存在しています。こちらが推奨するのは、1番下の初級から挑んでいただく事です」


 説明を聞きながら、NPCを連れDAUへと近付いてみれば。

 私の目の前には、難易度の選択ウィンドウが出現した。


「そのプラスアルファってのは選択出来ない様になってるけど?」

「そちらに関しては、初級、中級、上級の全ての難易度を攻略した後に解放されるものとなっています」

「へぇ、成程ね」


 段階式で解放される、というのはこちらからすると有難い。新しい戦術や、技術などを下の難度で試してから上の難度へと挑む事が出来るのだから。

……ん、これマルチは出来ないのね。

 と、ここで話を聞きながらウィンドウを弄っていると、マルチ……パーティを組んでの挑戦は出来ないようになっていた。

 最初の挑戦はソロで挑もうと思っていたものの、マルチが出来ないとなると詰まった時にライオネル達に頼る、なんて事が出来なくなってしまう。思っても実際に頼むなんて事はないだろうが。


「気が付かれたようですが、このDAUを使って他の蒐集家様方との攻略は行う事は出来ません」

「それはまたどうして?」

「分かりやすい理由としては、その手の装置の開発が間に合っていないからです。次いで、分かりにくい理由としては、何故か複数人の挑戦となると目的としている領域へと辿り着く事が出来なくなってしまうのです」

「それはまた……難儀だね。でも開発中って事はいずれ出来る様になるかもしれないってことでしょ?」

「そうなりますね」


 今出来ないだけで、いずれ出来るようになる。

 諦めているわけではなく、先に進んでいるからこそ待って欲しい。そういう事だ。

……ま、正直……ここが足切りなんだろうなぁ。

 運営でも、開発でも。どちらがこのような状態でDAUを実装したのかは分からないものの……ここが一種のふるい落としなのだろう。

 ここまで3つの地下に挑んできたは良いものの、私がソロで攻略したのは最初の猿夢のみ。

 それ以外は誰かしらの力を借りる事で攻略し、先に進んできてしまっている。


「よし、じゃあ折角だし挑んでみようかな」


 変に力を得てしまっているものの、個人的な技術だけで言えば……私は下の下。

 まだまだ伸びしろがあると思いつつも、周りに居るプレイヤー達よりも総合的な実力で見れば下なのだ。

……それに、私に技術があったら……ABCも独りで倒せてた。

 折角、猿夢ハードを圧倒した【口裂け女】の力の一端を粗末ながらも扱えるようになったに……あの結果だ。

 正直、何処かで鍛えておきたいと思っていた所なのだ。こんなものがあるのならば使わない手はないだろう。


「えーっと……初級を選んでっと……これ、後はこの中に入れば良い?」

「はい。中に蒐集家様が入ると、センサーによって検知され精神の転送が開始されます」

「了解」


 よく見てみると、筒状の装置には取っ手のようなものが付いており。それを引いてみれば、扉が開くかのように中へと入れるようになる。

 一つ息を吸ってから、私は軽く自身の頬を叩いた後、


「行こう」


 中へと入った。

 その瞬間、私の視界は徐々に暗転して行くと共に、何処か深い所へと落ちていくかのような感覚に囚われる。

 どうもこうもない。現実からこのゲーム世界に堕ちてくる時と同じ感覚だ。


【蒐集家検知……プレイヤー名:神酒】

【情報確認……選択難易度:初級】

【ボス抽選開始……完了】

【ようこそ、旧き逸話の探索へ】




--DAU・初級ダンジョン1F


「うわ、平和」


 私の視界が戻ると同時、目に飛び込んできたのは長閑な片田舎、という様相をした場所だった。

 あぜ道の真ん中に立っており、そこから見渡す限り青々と稲の様な植物が生えた田んぼが続いている。

 遠くには山が見えており、何処からかセミの鳴き声まで聞こえてきていた。

……都市伝説がベースなら良いけど……どうなるかなぁ。

 エイリアン・ビッグ・キャットの時にはあまり脅威に感じなかったものの。元々の性能に、他の都市伝説や逸話等が混ぜられるというのは……中々に厄介だ。

 それこそ、単純に弱点を消す様な混ぜられ方をされてしまえば、こちらからアクションを起こす暇無く蹂躙される可能性だってあるのだから。


「ま、とりあえず進みますか」


 悩んでいても情報は集まらない為、私は歩き出した。

 とりあえず……目指すは、遠目に見えているあの山へ。

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