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第5章 蒐集家は躊躇わない

Episode1 - 開始


 サイトにて告知された、イベント開催日……という名の戦争当日。

 私は以前の様にライオネル達と集まって準備を進めていた。


「いやぁ、今回は外周の方じゃなくて助かるよ。移動が面倒だったからねぇ」

「まぁ、私達も立派な戦力……というよりは、指示が伝わる戦力ですしね」


 だが、前回の様な配置ではない。

 現在私、ライオネル、そしてその友人達の計6人はトウキョウの中心部に近い位置の、適当な開けた場所に配置されていた。と言うのも、前回は私達の戦力がどれ程のものか1YOU側が把握出来ていなかった所もあるのだろう。

 だが、今回からは違う。

 十二分に実力がある者として、そして機動力を持つ者達として、何処へでも救援へと行けるように……という配置だ。


「ハロウさん達は久しぶりですね」

「そうね。こっちはあんまり戦い方やらアルバンやらは変わってないけれど……貴女は随分変わったようね?」

「あはは……まぁ、その分頼ってくれて大丈夫ですよ」

「期待してるわ」


 既にライダースーツを着用しているハロウに対し、私は奇譚繊維によって成形された赤黒いコートや手袋、ブーツという最近のマスト装備だ。

 奇譚繊維に明るくない人が見れば、中々見慣れない装備として。

 奇譚繊維を知っている人からすれば、操作練度の指標として映る状態であり……十二分に今の私の実力を示すモノとして機能してくれている。


「この辺りにある入り口については、出来る限り水を撒いてきましたよ。先輩」

「お、ありがとうねぇマギくん。残量は?」

「まだまだ余裕あります。最悪空気中からでも集められるんで」

「おっけーぃ。メアリーちゃんは……うん、大丈夫そうだね。よし、神酒ちゃん。私達の準備は大体終わったっぽいぜ?」


 と、ここで周囲にある地下への入り口に水を撒いていたマギステルが戻ってきた。

 前回のイベント内容、そして今回事前に回収出来ている情報的にも、以前と同様に地下の入り口から敵性バグ達が出現する可能性は高い。

 故に、この場で多方面への対応が行えるマギステルが対策を行ってくれていたらしい。

 と言えど、だ。

……絶対、前回以上の量は来そうだよねぇー……。

 前回はまだ娯楽区まで……いわば、ゲームの進捗の序盤までしか進んでいない状態でのイベント開催だった。だからこそ、出てきた相手もトウキョウ地上部の敵性バグに限定されていた。

 しかしながら、今のプレイヤーの進捗はかなり進んでいる。


「よーし……一応は力の流れとかは見てますけど……やっぱり見覚えがあるオーラっぽいのが地下の入り口から流れ出てますねぇ」

「例えばどんなのかしら?」

「ワニだったり、猫だったり、あとは……猿もかな?うげ、軽めの『狂化』も入った……って事はくねくねも?とりあえずはもう知ってる限り全部って感じですねコレ」

「何?今からここって最終戦争とかそういうのが始まる感じ?私ら要る?」

「要るので帰ろうとしないでください、先輩」


 手に入れてから大活躍の病視の双眼鏡。その能力によって、イベント開催寸前のトウキョウを見てみると中々に変わった景色を見る事が出来た。

 ピンク色の煙に始まり、半透明のゼリー状の何か、影のような人型の存在や時折姿形がぶれる猫など……本当に様々なモノが映り込んでいる。

……うん、何となくで分かるけど全部ボス関係だね、コレ。私が分からないのは……多分、私が遭遇してない奴だ。

 まだ実体の無い力の流れという状態でありながらも、それが何者のモノなのかが分かる個の強さ。

 それらをこれから相手にする、と考えると……中々に憂鬱である事には変わりない。


「え、ちょっと待って?今サラッと流されそうになったけど、くねくね居るの?このゲーム」

「いますよ?このアイテムもくねくね産ですし」

「えぇ……じゃあ裏S区とか、そういうのも出てくる可能性があるって事じゃないの」

「ありますよ。というか……前回と同じ傾向なら、ほぼ確実にその手の地域系がボスでしょうね」


 言いつつも、時間を確認すれば。

 既にイベント開始まで5分を切っていた。今回は前回の様に、時間を前倒しする事なく定刻通りに開始されるようだ。

……逆に、時間通りに始めても問題無いくらいのボスを用意したって見方も出来るよねー……。

 だが、それが出来るような都市伝説、逸話の存在など数が絞られる。

 その上でウィークポイントが設定されていない存在は……私の知識内でも中々思いつかない程度には少ない筈だ。


「ま、気楽に行きましょう。変に緊張しても仕方ないですし」

「……ねぇ、ライオネル。あの子本当に事務職?貴女達と同じくらい肝座ってないかしら?」

「あは、神酒ちゃんは実働側に誘ってもいいんじゃあないかって私も思ってるよ」

「怖い話をしないでくださいよ。――来ましたね」


 私の言葉と共に、トウキョウ全体が一度鼓動したかのように揺れ、


『ATTENTION!ATTENTION!トウキョウ内部にて都市伝説の発生及び暴走、侵食を確認しました!蒐集家の方々は対処を行ってください!』


 警報が鳴り響く。

 イベント開始の合図と共に、周囲の地下への入り口からは……大量の、赤黒いゼリー状の何かを身体の所々に付着させた敵性バグ達が出現し始めた。

……何なのかは分からないけど……今回のボスの特徴は……!?

 前回とは違い、空中に時計が浮かんでいる様子はない。しかしながら、【ダドリータウンの呪い】と同じ様に半透明の何かが出現していた。


「あれは……村?」

「山の中の村落!植生からして日本っぽいぞ!」

「って事は都市伝説だな!?」


 周囲のプレイヤー達が口々に発しながら、敵性バグへの対応へと走る中。

 私とライオネル、そしてマギステルの3人は顔を見合わせた。

 というのも、だ。


「……どうする?中々ヤバいの出てきたんじゃないの?」

「ヤバいって言うか……マギステルさん以外戦力になれるかどうか怪しいですよ?アレ」

「僕も僕で純戦闘系ではないんですけど……」


 空中に半透明で浮かぶ、何処かの山の中の村落。

 それだけの情報しかないが、私達……日頃から都市伝説等の超常的存在へ対応してきた者達には、一目見ただけでそれが何処なのか……今回、何が相手として出てきたのかが分かってしまう。

 それほどまでに危険で、有名で、出来る事ならば対応したくはないモノ。

 日本のネット発のモノの中で、最悪とも最凶とも称される事のある呪物。


「コトリバコなんて、女子供は参戦権ありませーんって言われてるようなもんだよマジで」


 コトリバコ。

 現実では決して対面したくない呪物が、今、私達の前へと立ち塞がっていた。


【イベント『トウキョウ侵食防衛戦』が開始されました】

【時間内に侵食を食い止められなかった場合、仮想電子都市:トウキョウは侵食され、日本サーバーは停止されます】

【仮想の都市にて貴方達の蒐集が続きますよう、お祈りいたします】

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