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Episode2 - 発覚


 コトリバコという呪物は大変危険であり、間違っても作ろうと考えてはいけない物だ。

 木で出来た、立体パズルの様な外見でありながら……中身は非人道的な材料で作られた小さな地獄。対象の一族を根絶やしにする為の呪いの塊であり、効果が子供や女性に限られている事からも凶悪性が伺える代物だ。


「……でも、私や神酒ちゃん、ハロウやらメアリーちゃんが無事って事は、まだちゃんと効果が出てないね?」

「多分段階性なんじゃないですか?まだイッポウにすらなってないとか」

「フェーズ制って事ですかね。それはそれで厄介だ……」


 こちらへと近付いてくる、赤黒いゼリーを所々に付着させた鉈持ちを適当に足で弾き飛ばしながら、今回の相手に対しての考察を進めていく。

 本当はすぐにでも空中の村落へと転移してボスの討伐を進めたい所ではあるのだが……今回は前回の様な分かりやすい入り口が存在していないのだ。

 故に、耐え凌ぐしかない……訳でもない。

……多分、あの血みたいなのを侵食すれば心像空間には繋がるんだろうけど。

 私はほぼチートのような方法で、ボスとの一騎打ちを行う事が出来てしまう。しかしながら、それは現状では出来ない。

 私達の中ではコトリバコでほぼ確定しているものの、まだ本当にそうかは分からないし……何よりも。もしも本当にコトリバコであった場合、私が女である事自体が致命的なデメリットになり得てしまうのだから。


「ちょっと!貴女達!とりあえず手伝ってほしいのだけど!」

「あぁ、ごめんごめん!――とりあえず2人共、考察は後にしよう。そろそろハロウとメアリーちゃんの堪忍袋が限界だ」

「「了解」」


 敵性バグの数は今も増え続けている。

 マギステルが【ヴォジャノーイ】の能力を使って押し留めている場所もあるものの……全てを全て対応出来る訳ではないからだ。


「あんまり消耗はしたくないなッと!」


 これからどれ程の時間戦い続けるのかは誰にも分からない。

 まだ序盤も序盤の現状で消耗するような戦い方をしていては、確実に後半のボス戦前にガス欠を起こしてしまう。

……制限時間が分からないってのはやっぱり厄介だ……。

 時計があっただけマシだった、と前回の事を思い出しながらも。私は目の前に躍り出てきた巨大な頭部をした人型敵性バグへと肉薄し、


『ッぐゥ?!』

「人型は相手しやすくて助かるよ!」


 発勁の要領でその胴体部を強打し、弾き飛ばす。

 刃物の具現化はまだ行わない。あれはあれで何をどれくらいの流さで具現化させるかと考える事が多いからだ。


「ヒュー!神酒ちゃん良い戦い方するようになったねぇ。本当に実働隊来るかい?」

「行きませんよ!」

「ありゃ残念。近接戦闘が出来る隊員が少ないから、来てくれると助かったんだけどなぁ」


 ライオネルはそう言いながらも、全身から湧き出させた奇譚繊維を使い周囲の敵性バグ達を文字通り喰らい尽くしている・・・・・・・・・

 以前見たようなマズルマスクのように成形した奇譚繊維ではない。よくよく見てみれば、1本1本が口だけの頭を成形し敵性バグを貪っているのだ。

……えげつない戦い方するなぁ……!

 食べる毎にバフを得て、そのバフを用いて更に敵を喰らう。彼女の【ソニービーン】というアルバンの特徴をこれでもかと表した戦い方であり、味方であって助かったと素直に思ってしまった。


「よーし、それじゃあこの場に居るプレイヤー諸君!とりあえず状況が変化したり、何処かから救援依頼が来ない限りは現状維持!問題が発生したら叫んでね!良いかい?」

「「「了解!」」」

「良い返事だ!それじゃあ頑張っていこう!」


 ライオネルの掛け声に、周囲のプレイヤー達が応答しつつ敵性バグを倒していく。

 私も私で格闘技だけで敵性バグの相手をしつつ、奇譚繊維で眼鏡を作り出し周囲の警戒を行い始めた。

 このまま何も起こらず平和なままイベントが終わってくれれば一番ではあるのだが……そうはいかないと分かっているのが残念な所だろう。



―――――



「……ッ!ライオネルさん!」

「分かってる!――女性プレイヤーは一時撤退!HP回復を忘れないで!」


 イベントが開始して、少し。

 敵性バグ達を倒すだけの、順調とも言える状況ではあった……のだが。突如、消えるだけだった敵性バグ達の死体がそれぞれあるアイテムをその場にドロップする様になったのだ。

……木製の箱っぽい何か!確定かなこれは!

 箱であり、見た目だけならば何かしらの特殊アイテムにしか見えないそれ。

 普通ならば誰かしらが拾おうとするだろうが……その前に。


「こふっ……内部からのダメージだね、これ……!」

『まぁ、貴女には効かないでしょう』

「ワニの装備があるから止血は出来るけど……それでも延々付与され続けたら辛いのは変わらないよ」


 私の視界の隅に、『出血』、『臓器損壊』、『呪い』の3つのデバフアイコンが出現すると共に、周囲に落ちている箱からは赤黒い瘴気が漏れ始めた。

 コトリバコ、その逸話にて語られる女性の死に方は単純。それは、


「臓器が捻られて死ぬ、だっけ」

「あは、私は臓器が壊死するとか聞いた事あるぜ?」

「どっちも臓器がやられるのは同じよ!先にHP回復しなさいな!」

「「はーい」」


 呪いによる臓器の損壊、及びそれに伴う出血、ショック死だ。

……回復薬で間に合うくらいの持続ダメージ……まだ弱いなコレ。

 今でも回復しなければ、そのままスリップダメージで死に戻りしてしまう程度には厄介。しかしながら、コトリバコの本領はまだまだこんなものではない。


「破壊出来るか試します」

「よろしく!出来たら侵食も!」

「了ッ解」


 近くに落ちている木箱に向け、数本の奇譚繊維を鞭のように叩きつけ……それと同時、大量の刃物を具現化させた。

 瞬間、木箱自体の耐久はそこまででもないのか木っ端微塵になり、デバフも解除された……のだが。


「げっ……そういうタイプ?」


 飛び散っていく木片の中。

 敵性バグ達に付着していた赤黒いゼリーが飛び散ると同時、独りでに集まり小さな人型となっていく。

 まるで小さなスライムのようだ。

……水子霊の再現かコレ……!

 コトリバコの『材料』には、幼い子を使うともされており。恐らくはソレが敵性バグとなった姿がアレなのだろう。デフォルメされているとはいえ、中々に趣味が悪い。

 人型となったソレは、暗い空洞となった眼をこちらへと向け、


『――ァあ』

「しっかり襲い掛かってくるタイプね……!」


 ゆっくりとではありながらも、動き始める。

 普通に歩いても避ける事が出来る程に緩慢とした速度。しかしながら、私はその動きから目を離さないように警戒を強めた。

……さっきから、赤黒い瘴気がたまーに発生してるんだよね、アイツ……!

 考えれば当然の事だ。木箱は入れ物であり、呪いの本体である中身ではないのだから。

 故に、近づかないように。首元から投げナイフを具現化させて投擲した。


『――!』

「よし……一応は大丈夫、そう?」


 それなりの勢いがあった為か、命中すると同時に人型スライムは再度その身体を飛び散らせ……そのまま光の粒子となって消えていく。

 どうやらHP自体は少ないらしい。デバフを撒く事に特化した存在、という所だろうか。それだけでも十二分に厄介だが。


「ライオネルさん!破壊は可能!中身から周囲にデバフをばら撒く類の敵性バグ出現します!侵食はこれから!」

「上々!皆聞いたね?発見次第すぐ破壊!HPが少なくなったら回復!消耗品が足りなくなったら補給班の所までダッシュ!オーケィ?」

「「「応!」」」


 声に呼応して、現場の動きが加速する。

 いつまで倒し続ければ勝てるのかは分からない。だが、やるしかないのだから……適度に集中してやっていく他無いだろう。

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