■アーカナム古戦場・魔術師チーム担当区域
「ちっ、コイツに魔法は効かないのか? そんな敵が出るなんて聞いていない!」
フレデリックが青ざめた顔で、シャドウナイトの姿を見つめていた。
火属性系統で、上位にあたる
しかし、その中に紛れていたシャドウナイトらは無事であり、不意を打って放たれた飛翔する斬撃を先輩のダンテは受けて、地に倒れている。
「落ち着いてください、まずはこの場を離れましょう。魔法が効かない相手では私たち魔術師は無力です。回復魔法の使い手もいませんので、ポーションでの応急処置が限界です」
血を溢れさせて倒れているダンテにポーションをかけながらエリオットはフレデリックを諭した。
チームメンバーのセシリアが炎の壁を作り、かろうじてシャドウナイトの攻撃をふさいでいるが立ちすくんでいてはいずれ破られる可能性が高い。
「移動力を上げる補助魔法をかけます。怪我人がいるので、神殿騎士団がいる方へむかいましょう」
エリオットがそう指示をだすと、魔法を唱えた。
フレデリック達を優しい光が包み、体が軽くなる。
「ダンテさんは私が背負いますので、セシリアさんは防御をフレデリックさんは進路の確保をお願いします」
エリオットの指示をセシリアは頷いて答えたが、フレデリックは苦虫をかみつぶしたような顔を見せた。
「この中で一番の魔術師はオレなんだ……だから、リーダーはオレが向いているんだ。兄貴のように……」
ブツブツと呟きだしたフレデリックの肩を軽くたたく。
「確かに能力はフレデリックさんが一番高いでしょう。ですが、あなたには経験が圧倒的に足りません。様々な経験を経たとき、立派なリーダーへとなれますよ。
「……わかった」
「さぁ、行きましょう。スケルトンやゴーストが集まってきたら、移動も難しくなります」
再度、エリオットに促されたフレデリックは杖を構えなおして、東に進路をとった。
◇
アーカナム古戦場には隠れて落ち着けるような場所はないため、休憩もなく移動し続けるしかなかった。
そのため、体力の消耗が激しい。
シャドウナイトとは距離をあけれたものの、ゴーストやスケルトンがあちこちから襲い掛かってきて対処をするので、神経も使っていた。
身も心もだいぶボロボロである。
「すさまじい火柱が上がったのを見たので、来てみましたが大分疲れているようですな」
疲れていた魔術師チームの耳に低い男の声が聞こえてきた。
神殿騎士団のリーダーのセリオスである。
「助かりました、負傷者1名います。ポーションでの応急処置をしましたが、意識は戻っていません」
「それは早く対応せねばな……アイリス、回復魔法をかけてやってくれ。その他は周囲を警戒しながらホーリーフィールドを貼るんだ」
「「了解」」
セリオスの指示で神殿騎士がフレデリック達を囲むように陣取ると、十字架を握りしめて魔法を唱える。
白い幕のようなものが広がり、全体を包み込んだ。
アンデットたちが侵入できない空間が作りだされたことで、魔術師チームは一息つく。
「本当にアンデットの数が多いが、いまいち原因の特定には至らないな」
「そうですね。異常発生としか言いようがないですが……瘴気は濃くなっているのもありそうです」
「広範囲での浄化が必要となれば、神殿騎士よりも司祭以上を読んで儀式魔法を使うしかあるまい」
エリオットとセリオスが情報交換をしている間、フレデリックやセシリアは疲労の濃い顔のまま体育座りでうずくまっていた。
そのまま、眠ってしまおうかと思っていたとき、ホーリーフィールドに衝撃が走る。
「攻撃を受けた? どこからだ?」
セリオスが立ち上がり、周囲を見回すがアンデットの姿はなかった。
だが、視線の先、古戦場の小高い丘のようになっている場所に瘴気が集まっている。
ホーリーフィールドが受けた衝撃は、瘴気に惹かれたゴーストたちがぶつかったのだとセリオスは理解した。
瘴気の塊が甲冑姿の形どったが、その首はない。
「デュラハンだ……厄介なものが生まれたものだ」
セリオスは独りごちると盾と剣を構えてデュラハンの方を睨んだ。
デュラハンが大剣を上空に掲げると、デュラハンの足元からは大きな黒い馬、その周りにはフレイムファントムが多数姿を見せている。
「フレイムファントムまで呼び出すとは厄介な……ホーリーフィールドの維持はアイリスだけに任せて、残り二名は俺と共に敵の迎撃だ」
セリオスがデュラハンに向かって踏み出していくと、呼応するかのようにフレイムファントムがセリオスに向かって進んた。
両者が加速しながら迫る中、大きな声が響く。
「ちょうでんじぃぃぃ、ゴマァァァ!」
セリオスが声が聞こえてきた方を向くと、剣を横に持って高速回転しているジュリアンがフレイムファントムの集団に突っ込み、すべてを一撃のもとに斬り裂いた。
剣は聖水で聖別されているのか、フレイムファントムらは再生をすることなく消えていく。
「遅れてとうjy……うぉぇっ!」
回転が止まり、地面に滑るように着地したジュリアンだったが、あまりの回転に吐き出した。
緊張した空気が壊れた瞬間である。
だが、それでもセリオスは頼もしい援軍だと思うのだった。