颯玄にとっては衝撃の稽古停止。7年前に再入門を願った時とはいろいろ異なり、空手の対する意識も違う。以前よりも空手に対する情熱が高まっている時に稽古できない、ということはとても辛いことだ。祖父の言いつけを守らず、結果的に真栄田にも迷惑をかけたことにとても後悔していた。
稽古停止を言い渡された次の日、祖父のところに行かない颯玄に父親は理由を尋ねた。
前日に自分がとった行動が原因で原因であることを説明したが、改めてお前が悪い、という内容のことを言われ、再度落ち込んだ。
その様子を見ていた母親が助け舟を出したが、そういう言葉に何も反応できなかった。
空手が自分の身体に染みついてしまっていることを実感している颯玄だったが、だからこそ祖父の処分の重さを改めて実感していた。
時間を持て余している颯玄は、久しぶりに街に出かけた。周りには自分と同じくらいの年頃の若者が歩いている。
「みんな何を楽しみに過ごしているんだろう。俺はやりたいことを取り上げられてしまった。また稽古できるまでの1ヶ月、どうすれば良いだろう」
思わずそんなことをつぶやいている。表情には覇気がなく、とても17歳という年齢には見えない。学校にはいつも通り通っているが、この日は放課後の楽しみにしていた稽古が無い。時間を持て余すことの虚しさだけが颯玄の心を支配していた。
当然、周囲への注意も十分でなく、危うく人とぶつかりそうになったこともあった。これまでの稽古のおかげか、身体が勝手に動いてぶつかって揉め事になるようなことは無かったが、危ない時もあった。
もし何かあって喧嘩になっても負けない自信はあったが、もしそういうことが祖父に知られれば本当に二度と教えてもらえなくなるかもしれない、という心配のほうが大きかった。
しばらく歩いていると、昔の友人、上原に会った。
「やあ、久しぶり。元気?」
上原は明るく声をかけてきたが、小さな声で返事するのがやっとだった。
「どうした、死人みたいな顔をして」
「今は死んだも同然さ。好きな空手ができなくなった。1ヶ月後には再開できる予定だが、今日からできない状態だ。これからのことを考えると憂鬱だよ」
「何故そうなった?」
「祖父の言いつけを守らず、組手をやった。止められていたのに・・・。そしてその時はたった一撃で勝負がついた。悔しい。これまで稽古してきたことを試したかったのに、それが認められなかったんだ。勝負の結果も散々だったし・・・」
颯玄は顔を伏せながら、吐き捨てるように言った。
「そうか。・・・ところで、俺も空手を教わっていることを知っているか?」
上原から意外な話を聞いた。颯玄には初耳だった。