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稽古停止、しかし・・・ 12

「お前、強いな。俺は続けて勝っていたので、少し天狗になっていたのかもしれない。今日は勉強になった。ありがとう」

 湖城はそういって颯玄に頭を下げた。その様子に周りの人たちは湖城にも拍手を送った。

 ただ、こうなると今度は颯玄が注目される。初戦でこれまで連勝していた湖城を倒したというのはすぐに噂になるだろう。戦いの前に颯玄と話していた上原には近くにいた人たちから、あいつは何者だ、という質問が続いていた。

 上原が名前を教えると、その中の数人から声がかかった。

「今度は俺がお前に挑戦する」

「今のはまぐれじゃないのか? 俺が本当の実力を確かめてやる」

 そんな感じで普通に挑戦しようとしたり、強さの確認をしようといった具合に様々だった。冷やかしもあるだろうから、実際に拳を交えるかどうかは分からない。

 だが、颯玄は明言した。

「分かった。でも、俺は今戦ったばかりだから、3日後にまたここに来た時、改めて言ってくれ」

 颯玄はそう言うと、上原と一緒にその場を立ち去ろうとした。その時、湖城が声をかけてきた。

「勝った時、今のようなことはよく言われる。俺も最初に勝った時はそうだった。でもそのつもりで次にここに来た時、そう言っていた奴はいない。勢いだけで言っているので、あまり本気にしないほうが良い。本当に戦うべき相手を探すのも大切だよ。そういう意味では俺は好敵手を見つけた。俺はもっと稽古するよ。そして自分の実力が上がったと思った時、改めて戦ってくれないか?」

 颯玄にとっては掛け試しの初戦で、しかもその時連戦連勝していた相手にここまで言われ、断る理由は無いし、何よりも恐縮していた。同時に自分が負けた時、こういった感じでいられたらということを学び、逆に感謝する颯玄だった。


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