明らかに正気じゃない光を瞳に宿しながら立ち上がり、轟くような咆哮を上げるロンロンだった巨竜。
そして巨竜は寝所に土足で入り込んできた不届き物に対し、ただ何かに突き動かされるような憎悪を抱きながら大きく息を吸い込む。
「っ! 皆様方、私の後ろにお下がりください!!」
その動きに対して何をしようとしているのか、歴戦の経験から察したブラックナイト……爺やは守るべきお嬢様方の前に飛び出ると、何も持っていない左手を掲げるようにして前へと突き出して叫ぶ。
「ブラックグローブ!!」
ブラックナイトが左腕を掲げながら叫んだ次の瞬間、その腕の先に深淵の闇じみた漆黒の空間……全てを飲み込む天体のブラックホールが開かれると同時に。
巨竜がその口から放った全てを薙ぎ払う光の濁流が如き吐息が撃ち出された。
「ぐ、ぅぅ……ぉぉぉぉぉぉ!!」
マイクロブラックホールを局所的に作り出し、あらゆるエネルギー概念攻撃を無効化する星光戦隊スターナイト・ブラックナイトの必殺技の一つであるブラックグローブ。
幾度も若かりし頃のブラックナイトの仲間の命を救い護ってきた実績があるその技は、光の濁流に晒された床や壁面がまるで全てを亜空間へ押し流すかのように消し飛ばす絶対なる破壊の一撃を受け止め着る事に成功する。
「爺や?!」
「ぐふっ……大丈夫です、お嬢様はロンロン様の下へ!」
「でも……いえ、わかりましたわ!!」
しかし現役を引いて久しい身であるだけでなく、かつての大戦でその体に大きな後遺症を残していた爺やは巨竜の閃光のブレスを受け止めきるほどの技を放った反動から、マスクの隙間から零れるほどの鮮血を吐き出しながら膝をついてしまう。
その文字通り血を吐くような爺やの叫びにマジカルウララは少し迷いながらも、力強い決意の光を瞳に宿してコンコンを肩に乗せ、カタパルトで射出されたかと錯覚するほどの勢いで飛び出す。
「行かせるとお思いですか?」
「ソレはこっちのセリフなの!」
自分の脇をすり抜けて巨竜の下へ向かおうとするマジカルウララに対し、ウェルロスは不機嫌そうに眉根を潜めながら長く伸ばした鋭い爪をマジカルウララめがけて振るう。
しかしその攻撃はマジカルウララの行動を阻害する事は叶わず、シューティングスターが抜き撃ちで放った魔法弾によって腕が大きく弾かれ、その結果ウェルロスはマジカルウララ達を通してしまった。
「忌々しい下等生物め……!」
「恋愛で負けた負け犬が高位生命体気取るとかちゃんちゃらおかしいの」
憎々しげに呻くように呟くウェルロスに対し、シューティングスターは口の端を吊り上げるような獰猛な笑みを浮かべながら挑発の言葉を放ち。
そして次の瞬間真顔になり、冷徹さを感じるほどの声音でウェルロスへ告げる。
「御託は良いからかかってきなさい」
「……殺してやる!」
偉大なる竜王の復活を邪魔しようと動く魔法少女を名乗る下等生物の行動に対し、ウェルロスは激昂しながら叫ぶ。
常人なら失神するほどの殺意と憎悪を浴びながらも、それを一身に浴びせられたシューティングスターは怯えるどころか不敵に笑うと、杖を持っていない方の手でかかってくるようジェスチャーをしながらウェルロスに言葉で挑発をぶつけた。
その行為に対してウェルロスは目を血走らせながら背中の翼をはためかせ、羽ばたきと踏み込みによる爆発的な加速によってシューティングスターへと迫る。
「やらせは、しませんとも!」
「どいつもこいつも私の邪魔を、貴様らの腸を引きずり出してくれる!」
「わー、完全に悪役のセリフ」
だがウェルロスの突進は息を整え立ち上がったブラックナイトによって、その突進をいなすかのような技巧を用いて阻まれる。
その一瞬の攻防の間にシューティングスターはふわりと空中へ浮き上がり、空からウェルロスを撃ちおろすかのように空中に作り出した無数の光の魔法弾を次々と射出する。
しかしウェルロスもまたブラックナイトと接近戦による攻防を繰り広げながら、その魔法弾を躱すのみならず、その華奢な見た目からは想像もできない……もしかするとマジカルゴリラに匹敵するかもしれない膂力を持って、自身の行動を阻むブラックナイトを攻め立てる。
「シューティングスター様!こちらには構わずどんどん攻撃を!」
「え?本当にいいの?」
ブラックナイトは時折スーツの装甲を吹き飛ばされつつも、ウェルロスの嵐のような攻撃をいなしながらシューティングスターに自分に構わず攻撃するよう伝える。
まさかの前衛からの言葉に思わず耳を疑うシューティングスターであるが、さっきの魔法弾一斉射撃で当たりそうな弾を奇麗に躱していたブラックナイトの姿を思い出し、グレートウォーを生き抜いたヒーローの実力に内心舌を巻きながら、強力な一撃を放つためのチャージを開始した。
「邪魔よ!邪魔なのよ!とっとと死になさい下等生物!」
「その願い、生憎受け入れるわけにはいきませぬな!」
スーツの上から見てもわかるほどに消耗している、ボロボロのスーツに身を包む黒騎士をどれだけ攻撃しても屠れない事に対し、ウェルロスは苛立ち交じりに叫びながら苛烈な攻撃を続ける。
「貴女の身を苛む狂気、いや瘴気は危険なものです!身を委ねるのは止めなさい!」
だがブラックナイトはウェルロスの嵐のような攻撃に対し応戦する事はなく、むしろ正気に立ち戻るよう呼び掛けていた。
時間稼ぎの目的は勿論ある、しかし広間に足を踏み入れた時に見せていた半狂乱に陥った姿がどうしてもブラックナイト……爺やの脳裏から離れなかった。
だが爺やの言葉に対してのウェルロスの返事は、強い敵意と殺意が籠った爪による一撃であった。
「下等生物が何を言うか!私は正気よ!正気なのよ!!」
「くっ……!」
ウェルロスの叫びは泣き喚くような声音であり、だからこそブラックナイトはやるせなさを感じながら瘴気に蝕まれ狂気に陥ったウェルロスに憐憫の情を感じてしまいながらも、自身が為すべき事として時折一撃を食らいながらもウェルロスの攻撃を捌き続ける。
そしてブラックナイトは、シューティングスターが強力な一撃を放つためにチャージをする為の時間を稼ぐという、自身に課せられた役割を完遂した。
「何があったか知らないけども、少なくともロンロン君を犠牲にする事は見逃してあげれない」
何かしらの事情を抱えている事はシューティングスターも察しており、それがウェルロスにとっては譲る事が出来ない事も魔法少女は理解していた。
しかし、敢えて踏み込まず俯瞰するように状況を見ていたからこそ告げる事が出来る通告じみた言葉を投げかけながら、ここにきて漸く自信を狙い撃とうとするシューティングスターに気付いて見上げる事で目が合ったウェルロスめがけ、数多の怪人や悪党を撃破してきた必殺の一撃を放つ。
「事情はぶちのめした後で聞いてやるの。メテオブラスター……シューーーーート!!」
そしてシューティングスターが杖の先にプリズムの光を束ねたかのような閃光の一撃は。
ウェルロスの全身を包み込み、撃ち貫いた。
【マスコットによる解説劇場~瘴気について~】
「コンコンと」
「ポンポンの」
「「マスコット解説劇場~」」
「なんかすまんのうポンポン、ロン坊の代役を長期間勤めてもろうて」
「気にしなくていいの~、それで今日は何を解説するの~?」
「今回は瘴気についてじゃ、と言っても儂も言うほど詳しくないがのう」
「あ、それならボクが解説するの~。メカゴリラちゃん修復の時に色々お話聞けたの~」
「マジか、というかメカゴリラのヤツ瘴気について知ってるとか一体どういう事じゃ……?」
「瘴気というのは~、出所は不明だけどグレートウォーの中で起きた大きな戦いで必ず見られた現象なの~」
「そう言えば執事殿も見覚えがあるというようなことを言っておったのう」
「そして瘴気は~、平たく言うと悪者を凄いパワーアップさせたり~、心を悪い方向に捻じ曲げるらしいの~」
「なんちゅう害悪な代物じゃ」
「しかしそうなると、瘴気に蝕まれている様子のウェルロスも何か捻じ曲げられておるのかのう」
「そうかもね~、それに前の竜王さんが討伐されたのは~瘴気があちこちで確認された時期と重なるから~」
「のうポンポン、儂最悪の想定浮かんだのじゃが……もしかして前竜王が急遽侵略を始めたのも、瘴気の影響かのう?」
「その可能性は高いとおもうの~、そして瘴気は宿主が死んだら近くのモノに移る習性があるっぽいの~」
「状況証拠でトリプル役満かましておるではないか……!」