ウェルロスの妨害を受けつつも魔法少女シューティングスターと星光戦隊スターナイト・ブラックナイトの援護を受け、明らかに正気じゃない巨竜の下へ駆けつけるマジカルウララとコンコン。
殺意と暴力の光を目に宿してマジカルウララを睥睨するその眼光は、普通の少女なら一瞬で戦意を喪失するほどに凶悪な代物であった。
だがしかし、今巨竜の目の前にいる魔法少女は控えめに言っても普通ではなかった。
「随分大きくなりましたわね、成長期ですの?」
瘴気を身に纏う巨竜に軽い口調でおどけるような様子でマジカルウララは話しかけ、その言葉に対する巨竜の返答は、簡単に人をぺちゃんこにしてしまえそうな腕を叩きつけるというものだった。
迫りくる剛腕、工業機械の大型油圧プレス機などとは比較にもならない物理的圧力をもって自身に襲い来る暴力に対し、マジカルウララは逃げも怯みもしなかった。
それどころか。
「どっせぇぇぇぇい!ですわーー!!」
「なんで避けず受け止めとるんじゃアホーーー!?」
マジカルウララがとった行動、それはなんと……一見華奢に見える両腕で巨竜ロンロンの剛腕を受け止めるという、正気とは思えない行為であった。
「ふんぎぎぎぎ……随分力持ちになったじゃありませんの、ロンロン!」
そのまま圧し潰そうと全体重をかけてくる巨竜に対し、マジカルウララは歯を食いしばりつつも何かに気付いたかのような笑みで口角を吊り上げながら、自身へ叩きつけられた巨竜の腕をその両手でしっかりとつかむと。
「気合とど根性と華麗さがあれば何でもできますわぁぁぁぁぁ!!」
「いや、手前二つのせいで三つ目の華麗さ消し飛んではいないかのう……」
闘いを見守っていたコンコンの目の前で、巨竜の腕を掴んだまま信じられない事に巨竜の体を振り回すように一回転させ、勢いをつけて広間の奥の壁面めがけ叩きつけるように放り投げた。
余りにも信じられない光景にコンコンが戦場でありながら思わず天井を見上げる。
一方今も激闘を繰り広げているウェルロスは背後で起きてる異常事態を見る余裕もないのか、半狂乱になりながら爺やことブラックナイトに襲い掛かっている。
「しかしウララ、なんでまたあのような無謀な行為を……」
「確かめたいことがあったのですわ、そして思った通りでしたわ」
「えぇい、お主が闘いになるとIQが跳ね上がる事がしばしばある事は承知しておるが、もっとわかりやすく説明せぬか!」
広間の奥めがけ叩き付けるように放り投げた巨竜の動きを、油断することなく眺めているマジカルウララに対しコンコンがぼやくように問いかけると、マジカルゴリラじゃなくてマジカルウララは何やら確信に至った様子でコンコンの言葉に答える。
その容量を得ない言葉に、コンコンが眉根を潜め全力で突っ込む最中。投げ飛ばされて体勢を崩していた巨竜が姿勢を立て直していた。
「わたくしを叩き潰そうとしたあの時、でかロンロンは手加減してましたわ」
「見る限りはそうは思えんかったが……いや、そうじゃのう。という事は即ち」
「ロンロンは今もあのでかロンロンの中で必死に抵抗しているのですわ、ならばわたくしがすることはシンプルなのですわ!」
体勢を立て直した巨竜が激しい足音を立て、怒りの咆哮を上げながら向かってくる状況にマジカルウララは逃げることなくコンコンの言葉に叫ぶように応じながら、一直線に突撃。
そのままの勢いで床を踏み砕く勢いで飛び上がりながら、半ばカウンターになる形で巨竜の顔面に情け容赦ない飛び蹴りを叩き込んだ。
「ロンロンが正気に戻るまでぶっ叩くのですわ!」
「いや待てぃ!?そこは手加減して洗脳を解いてやるって言うとこじゃろう!!」
「後遺症は残しませんわ!」
「そう言う事言うとるんじゃないわこのタワケ!」
マジカルゴリラの情け容赦ない飛び蹴り、巨竜の質量と速度がカウンターの形で乗ったソレをもろに食らった巨竜は思わず痛みの叫びを上げながら激しく吹っ飛ばされた。
無論マジカルゴリラも無傷とは言わず、アイタタタなどと呑気な言葉を呟きながら足をプラプラさせている。
「大丈夫かのうロン坊、あれ下手しなくても首の骨へし折れんかの……?」
「なんか、想定以上に酷い起こされ方されたのであるぅ……」
吹っ飛ばされた姿勢のまま巨竜は、とぼけた印象を与える口調であんまりにもあんまりな起こし方に抗議のぼやきを呟いた。
その声は仔竜だった頃に比べ聞くものに重厚感と圧力を与える声音をしていたが、確かに呑気ですっとこどっこいなマスコットのロンロンの言葉であった。
「ロンロン!正気に戻ったのですわね!」
「正気に戻ったと言うべき、無理やり叩いて直されたと言うべきか判断に迷うのである……」
よっこいしょ、などと呑気な言葉と共に巨竜はその身を起こしおっさんみたいな座り方をする。
その姿はどこからどう見ても誇り高い竜王とかではなかった。
しかし、正気に立ち戻ったロンロンの体を取り囲むようにどす黒い瘴気が覆い尽くしていく。
「あ、が、が、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ロンロン!?」
巨体を瘴気に蝕まれ聞くものに彼が受けている苦痛が如実に伝わるほどの絶叫を上げるロンロン、その様子にマジカルウララは臆することなく駆けつけようとするが、その進路を瘴気の壁が阻む。
「しゃらくせえですわぁ!マジカルパンチ!!」
自身を阻む瘴気の壁めがけ、マジカルウララは怒りの赴くままに魔法少女パワーによって光り輝く鉄拳を叩き込む。
その一撃に瘴気の壁はまるで生き物のように一瞬怯んだ様子を見せるが、すぐにマジカルウララすら取り込もうと動き始める。
しかし、魔法少女が瘴気に囚われる事はなかった。
「ウララァ!コレを使うのじゃ!」
「よっしゃぁですわー!こいつがあれば百人力でしてよ!!」
マジカルウララの苦戦に対し、コンコンは尻尾からマジカルチェーンソーMk.IIを取り出してマジカルウララめがけて放り投げ、苦境に陥りつつあった魔法少女は勢いよくジャンプすると空中でそのチェーンソーを受け取って回転刃を起動させる。
「これでもくらいやがれですわぁぁぁぁぁ!」
そして着地すると同時にチェーンソーで周囲の瘴気を切り裂きながら薙ぎ払い、血路を文字通り切り拓く。
何故マジカルパンチは有効打になりえなかったのに、マジカルチェーンソーは有効打となったのか。
ソレはマジカルチェーンソーの機構と仕様が関係しており、魔法少女パワーによって駆動するチェーンソーは回転刃に魔法少女パワーを効率よく伝達させる機構が備わっている。
マジカルパンチの攻撃力が100と仮定するならば、マジカルチェーンソーは10の攻撃力を高速で叩き込むという形となるのだ。
そして、瘴気は破損部位を切り離すことでダメージを文字通り損切りする事が出来たが、チェーンソーの一撃は切り離しが間に合わないどころか激しく回転する回転刃により……それ以上に早く瘴気自体が切り裂かれ散らされる事態が引き起こされていた。
「ウララの鉄拳を受けた時の様子からまさかとは思ったが、思った通りじゃったのう……ならばコイツも効くじゃろうて!」
マジカルチェーンソーによって文字通り切り裂かれ、体積を減らしていく瘴気を見たコンコンはくるっと一回転しながら飛び上がり、人間変身の秘儀をもって巫女服をまとった狐耳尻尾の少女の姿を取ると……自身の尻尾から某合衆国陸軍が支援火器として用いるような、分隊支援用火器を両手で構える。
「コンコン!巫女服的にソレはありですの!?」
「今はぐろーばるな時代じゃ!使えるモノは何でも使ってこそじゃよ!」
光り輝くマジカルチェーンソーを振り回しながら、瘴気に囚われ悶え苦しむロンロンの下へ駆けつけようとしているマジカルウララが、視界の隅っこでコンコンが構えている重火器に思わずツッコミを入れるのも当然と言えよう。
ちなみにこの重火器の名前はマジカルマシンガンと言い、今回のカチコミの為にコンコンがポンポンから借り受けた装備の一つであるのは言うまでもない。
「援護はこっちでやる!ロン坊を頼むのじゃウララ!」
「任されましたわー!!」
マジカルウララに対しそう叫びながら、コンコンは小さな体に見合わないサイズのマジカル重火器を構えて光弾を瘴気めがけてぶっ放し始める。
チェーンソーを振り回しながら突撃する魔法少女を、重火器で支援する人間変身したマスコットと言う魔法少女と言うよりもB級アクション映画じみた光景が展開されるが、当の本人たちは大真面目である。
しかし、それでもマジカルウララ達の動きは間に合わなかった。
後一歩で駆け付けられる、そう思ったマジカルウララの目の前で悶え苦しむロンロンの動きが泊まり、ロンロンの体を取り巻いていた瘴気が凝縮されるように巨竜の体へ纏わりついていく。
「ロンロン!気をしっかり持つのですわ!!」
必死にロンロンへ訴えかけるマジカルウララ、しかしその叫びは最早届く事はなく……。
瘴気が収束したその場所には、漆黒の鱗に身を包んだ竜王バハムートの名に相応しい威容と重圧を放つ巨竜が立っていた。
【マスコットによる解説劇場~先代竜王について~】
「コンコンと」
「ポンポンの」
「「マスコット解説劇場~」」
「今回はロン坊の父親……になるのかのう?先代竜王について解説なのじゃ」
「ロンロン君あった事ないけど、コンちゃんからの手紙には書いてあったからちゃんと会ってみたいんだよね~」
「多分あやつはお主を見てもとぼけた事言うじゃろうがのう」
「コンちゃんそう言いながらも、若いなりによくやってるとか手紙の中ではデレてたじゃん~」
「えぇいアホな事言うでないわ!とっとと解説するぞ!」
「しかし解説するとは言うたが、ほとんど資料が破却されておるから情報は殆どないというのが実情なんじゃけどな」
「勿体ないよね~、誰か気を利かして資料残しておけばよかったのに~」
「割と魔法の国のお役所仕事も融通が利かぬからのう」
「だがそうかと言うて、全部が全部喪失したわけでもなくてのう。とりあえず先代竜王について性格が読み解ける資料はなんとか発掘する事ができたのじゃ」
「やったね~、それでどんな感じなの~?」
「名前は残っておらんかったがのう……ともあれ、先代竜王の性格じゃが。良く言えば保守的で悪く言うと引きこもりだったそうじゃのう」
「なんだろう~、凄いダメダメな雰囲気がする~」
「基本的に外の社会に干渉せず、ひたすら自身の領土である竜の巣を発展させ内に籠る事をよしとしていたようじゃのう」
「なんかすごい親近感湧く~」
「お主も基本的にねぐらと研究室以外は出歩こうとせぬからのう」
「でも~、そんな竜王さんが急に侵略を始めるなんて~。よっぽどの異常事態だよね~」
「当時は瘴気についての情報なんてほとんどなかったからのう、いや今でも殆どないのは一緒じゃけども」
「今回の騒動で~、その辺りもある程度わかれば先代竜王さんの名誉も回復できるのかな~?」
「ロン坊の事を思うと、そうなると良いのじゃがのう……」