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第34話 悪意に操られし竜王


竜王バハムートと呼ぶに相応しき威容を誇る黒い巨竜が出現すると共に、先ほどまでマジカルウララ達の行く手を阻んでいた瘴気は消え失せていた。


しかしソレは瘴気が忽然と消えたとか逃走したとかそういう意味では決してなかった。



「黒い靄が全部、ロンロンに吸い込まれましたわ?!」


「いかん、避けろウララァ!」



思わず呆然と呟き足を止めてしまったマジカルウララ、その隙をバハムートは逃がす事なく先ほどまでの緩慢な動作からは想像もつかない速さでマジカルウララへ迫り、命を刈り取る形状をした鉤爪の生えた腕で床を抉りながら下から掬い上げるようにマジカルウララへその腕を振るう。


人間変身をしているコンコンがジカルウララへ突進するバハムートに対し、咄嗟に手に持ったマジカルマシンガンで牽制射撃を行うが、先ほどまで瘴気を穿っていた弾丸はバハムートの漆黒に輝く鱗に傷一つつける事は叶わず、コンコンは魔法少女に必死に呼びかける。



「あっぶねーですわー!?」



コンコンの叫ぶ声に我に返ったマジカルウララは咄嗟に横へ転がるように回避行動をとる事で致死の一撃から逃れる事に成功する、だがそれだけでバハムートの攻撃は止まらなかった。


片腕を振り上げるような姿勢からバハムートはその巨体からは考えられない速度で片足を折り曲げて身を屈めながら体を回転させ、長く黒い尻尾を振るう事で回避行動によって体勢が崩れたマジカルウララを薙ぎ払う。



「さ、殺意しかねーですわーー!?」



片膝をつきながら立ち上がろうとする自身に迫るバハムートの尻尾に対し、回避行動が間に合わないと判断したマジカルウララは手に握ったままのチェーンソーを振りかぶり、真正面からバハムートが振るう尻尾に対して魔法少女パワーによって高速で回転するチェーンソーを叩き付ける事で防御の構えをとった。



「ふんぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃ……ド根性ですわーーーー!!」



激しい衝突によりチェーンソーごと自分の両腕が捥げるんじゃないかと思うほどの衝撃をマジカルウララは感じながらも、乙女にあるまじき表情を浮かべ歯を食いしばりながらチェーンソーを用いてバハムートの尻尾攻撃を真上にカチ上げるようにしながら土壇場で凌ぎきる事に成功する。


しかし、余りにも激しい攻撃を引き受ける形になったマジカルチェーンソーはバハムートの尻尾攻撃を弾き飛ばした次の瞬間、回転刃が自壊するかのように大破してしまう。



「やっべーですわ!コンコンごめんなさいですわ!」


「アホ言うとる場合か!むしろあの猛攻で生きているだけで丸儲けじゃ!」



チェーンソーが自壊を始めたのをみたマジカルウララは、また支給された武器をぶっ壊した事をコンコンに詫び入れしながらバック転をしつつ、コンコンの位置まで下がる。


一方詫び入れされたコンコンはと言えば、むしろあの攻撃ですり潰されるどころかチェーンソーを代償に生き延びたマジカルウララの実力を褒める。



「コンコン!何かあの鱗を突破できそうな装備はありまして?!」


「すまぬ!ウララが使えるモノは無い!」


「おっけーですわ!こっからステゴロでお相手しますわよロンロン、コンコンはサポートお願いしますわ!」」



隣に立つ巫女服を身に纏った狐耳尻尾少女姿のコンコンに対し、バハムートから視線を外さずに問いかけるマジカルウララであるも、返ってきた言葉は芳しくなかった。


それならそれで拳で相手をするまでだと、マジカルウララはッシャオラー!と気合の雄叫びを上げてバハムートめがけて突進していく。


向こう見ず極まりない魔法少女のそんな姿にコンコンは頼もしさを感じつつ、マジカルマシンガンを尻尾へ仕舞うと世間一般でバズーカと称される形状をした重火器を新たに取り出した。



「おらっしゃぁぁぁぁ!ですわーー!」



感情が読めない光を瞳に宿し、それでも殺意しか感じない攻撃を仕掛けてくるバハムートの一撃を紙一重でマジカルウララは回避し勢いを殺すことなくバハムートの懐へと潜り込む。



「マジカルメガトンパンチ!!」



踏み込みもモーションも普段のマジカルパンチと変わらない、違いは込められた魔法少女パワーと気合だけ。そんな必殺技をマジカルウララはバハムートの胴体めがけて叩き込む。


激しい衝突音と衝撃音が辺り一帯に響き渡り、確かにバハムートはその一撃で若干よろめいた。


その一瞬のスキをコンコンも見逃さず、片膝をついた姿勢で肩に担いだマジカルバズーカをバハムートめがけて発射する。


砲口から発射された飛翔体はマジカルな推進力によって高速でバハムートめがけ飛来し、バハムートの巨体に着弾した。



「……いやロンロン、流石にパワーアップしすぎですわ?!バズーカ撃たれたら少しはダメージを負うのがマナーですわ!!」


「アホ言うとる場合かウララー!」



ともすればマジカルパンチに匹敵しそうな、歩兵携行火器の形状をしているとはいえとんでもない破壊力を爆炎と共に撒き散らしたマジカルバズーカ、その兵器の直撃を受けてなおダメージを受けた様子が殆ど見えないバハムートの姿にマジカルウララは仰天しながら叫ぶ。



「これすらも通用せぬか……!」



手持ち最大火力をぶつけても尚ダメージが通らない強敵に、コンコンは歯噛みしながら呟く。


ロンロンを救うと言いながら全力で攻撃を仕掛けている二名であるが、先ほどまでの感情の揺らぎが見えた状態とは全く異なる今のバハムートに対して、躊躇った瞬間命が刈り取られるという事をマジカルウララとコンコンは半ば確信していた。


打つ手なしの大ピンチ、ブラックナイトとシューティングスターは今も背後でウェルロスと戦闘中で今しばらく救援は期待できそうにない。


だがしかしそのような状況に置いてなお、マジカルウララとコンコンは不退転の覚悟と決意を抱き、仲間であり家族でもあるロンロンを取り戻すべく戦意を奮い立たせる。



「ロンロン!すぐに助けるから待っててくださいませ!」


「いや、うむ、そうじゃのう……臆している場合ではないわ。とっととロン坊を連れ戻してやらんとのう!」



マジカルウララが何度目かもわからない突進をバハムートに対し敢行し、コンコンはもはや効果が殆どない重火器を尻尾に仕舞うと結界や治療でマジカルウララを援護すべく自身も前に出る。


そして死闘が始まった。



「マジカルメガトンキィック!ですわーー!!」



気合とど根性の雄叫びを上げながらマジカルウララは光り輝く足をジャンプキックの姿勢でバハムートへ叩きつける。


だが裂帛の気合と共に放たれたその一撃も、バハムートの表面から硬質化した瘴気を薄皮のようにはがすことしか叶わず、それどころかバハムートが激しく振り下ろすように放った腕の一撃によってマジカルウララは吹き飛ばされてしまう。



「きゃぁ?!」



鉤爪の一撃がマジカルウララに直撃する寸前にコンコンが結界を展開するが、その結界はほぼノータイムでガラスのように割り砕かれてしまい……バハムートの剛腕を叩きつけられたマジカルウララの華奢な体は地面に叩きつけられ、魔法少女はその一撃で体を床へめり込ませられ衝撃の余り意識を喪失してしまった。


だがバハムートはその一撃だけに留まらず、床を砕くほどの一撃で地面に縫い付けられたマジカルウララを確実に屠るべくその大きな足を振り上げた。



「やらせは、せぬぅ!!」



しかしコンコンもまたソレを見過ごすことはなく、ふわふわの尻尾をはためかせながら踏み込むとマジカルウララを助け起こしつつ踏み潰される寸前で、バハムートの踏み付け攻撃から逃れる。



「しっかりせよ、ウララ!」



バハムートの一撃で未だ意識を朦朧とさせているマジカルウララを魔法で治療しつつ、コンコンは止めをさすべくがむしゃらに仕掛けてくるバハムートに対し、魔法少女を抱えたままギリギリの所で攻撃を躱していく。


しかし一歩間違えれば一撃で命が消し飛ぶその猛攻を躱し続けるのは難しく、振り下ろされるバハムートの腕が砕き弾丸のように飛び散る石礫によってコンコンの体も傷つけられる。


普段なら結界を器用に使ってダメージを無効化しているコンコンであるが、今はその力を小さな体で何とか抱えているマジカルウララの治療と……彼女の体に石礫が飛ばないよう結界を展開しているせいで、コンコンは自身の体にダメージが蓄積されていくのを感じる。



「あと少し、あと少しなのじゃ……!」



コンコンはバハムートの猛攻を捌きながら、ウェルロスを下したシューティングスターとブラックナイトがこちらに駆け付けようとしているのを、塞がってない方の視界の端に捉える。


歴戦のマスコットは石礫によって片目の上を激しく傷つけられて流れ出た血で片方の視界を塞がれつつ出来る限りの行動をとっていた、しかし無情にも限界は間もなく訪れてしまう。



「あぐぅっ?!」



振り下ろされるバハムートの巨大な腕、その一撃で砕かれた一際大きな瓦礫がコンコンの細い片足を横から激しく打ち据え、コンコンは生木がへし折れるような音を片足から立てながら転んでしまった。


そのダメージと、蓄積したダメージのダブルパンチによってコンコンは人間変身が解けてしまいながらも投げ出してしまう形になったマジカルウララを、せめて怪我を負わさせない為に結界で包み護る。


まだ意識を取り戻せていないマジカルウララが地面に投げ出されつつも、結界によって怪我をしていない事にコンコンは安堵しながらも、とうとう限界を迎えた事で地面に突っ伏すように気絶した。


とうとう戦闘不能になってしまったマジカルウララとコンコン。



「お嬢様!コンコン様!」


「二人とも、起きて!逃げてぇぇぇぇ!」



やっとウェルロスを下したシューティングスターとブラックナイトが駆けつけようとするが、バハムートの目の前で倒れ伏すマジカルウララとコンコンを救出しに行くには距離が開きすぎていた。


しかし、このまま二人とも暴走した竜王によって無惨にも殺されてしまうと思われたその時である。


甲高く澄んだ音がマジカルウララの懐から大きく響いた。


鈴のようでもあり水晶を弾いた時に響くような音でもあるその音は、決して大きい音ではなかったが戦場となっている広間を包むのではないかと錯覚するほどに強く響き渡る。


音を立てている物、それはマジカルウララが懐に大事にしまっていた亀の院長から預かったロンロンの母の形見である宝珠、それが音を立てながら輝くような光を放ち始め……。


その光はマジカルウララとコンコン、二人に止めを刺そうとしていたバハムートを包み込んだ。






「むにゃ……ここは、どこですの?」


「ぬおおぉぉぉ、足がぁ、全身がぁぁぁ……」



意識を取り戻したマジカルウララとコンコン。


マジカルウララは先ほどまで激闘を繰り広げた廃墟と異なり、荘厳ながら華美すぎない広間に立っている自分が信じられず寝ぼけ眼を擦りながら周囲を見回す。


一方コンコンは先ほどまでのダメージで負った痛みでゴロゴロと床をのたうち回っていた。


何が何やらわからない、と言った表情を浮かべつつもマジカルウララはのたうち回っていたコンコンを抱き上げ、とりあえずここが何処か調べる為に歩き出そうとしたその時。



「ここは竜の巣の在りし日の姿を映し出した精神世界です、マジカルウララ様」



マジカルウララの背後から呼びかけるような声で説明を受け、魔法少女はコンコンを抱えたまま振り返る。


振り返った先に立っていた人物、それはウェルロスによく似た……しかしウェルロスよりも柔和そうな雰囲気を纏わせた、ロンロンの鱗の色と同じ色をした髪と持つ薄絹のようなローブを身に纏った女性であった。



「初めまして、私はウェルラスと申します。いつも息子がお世話になってますね」



そして竜の女性、ウェルラスは笑みを浮かべながらゆっくりと頭を下げると呆然としているマジカルウララとコンコンに近付き、その手をゆっくりとかざすと先ほどまでの死闘でボロボロになっていたマジカルウララとコンコンの体を手から放った光で癒していく。



「ぬ?お、おおお……凄い、痛みが引いたのじゃ」



その癒しの光はつい先ほどまでマジカルウララの腕の中で痛みに呻いていたコンコンの体を本調子に戻し、割と重体だったマジカルウララの体も完全に治療するほどであった。



「感謝ですわ!えぇっと、ロンロンにはいつもお世話に……?うん、お世話になってますわ!」



いつもすっとこどっこいで惚けた事を言いつつも、何のかんの言って仕事はしっかりするロンロンの母と聞いてマジカルウララは疑うそぶりを見せる事無く、満面の笑みで応じた。


そんな魔法少女の姿にウェルラスと名乗った女性は目を見開くと、少し泣きそうになりながらも小さく会釈をする。



「ごめんなさい、私達の問題に貴方達を巻き込んでしまって……」


「気にしなくてよいですわ!わたくしが好き好んで首突っ込んでるだけでしてよ!」


「まぁそう言う事じゃ、お主が気に病む必要は無い」



ウェルラスの言葉にマジカルウララはぐっと親指を立ててニカっと笑いながら応じ、コンコンもマジカルウララの腕の中から軽やかに飛び降りると、ウェルラスを見上げながら慰めの言葉を告げる。


二人の言葉に対してウェルラスは泣きそうになりながらお礼を言おうとしたその時、激しい衝突尾と共に辺り一帯が激しい揺れに襲われた。


ぎょっとするマジカルウララ達であったが、激しい音と揺れが響いてきた方角から聞きなれたすっとぼけた声が微かに聞こえた事に気付くと、考えるよりも先にマジカルウララは走り出していた。



「こっから先からロンロンの声が聞こえましたわー!」


「聞こえたのう……えぇい、突っ走るでないわ!すまぬウェルラス殿!道案内を頼むのじゃ!」


「ええ、承りましたわ。そして私はそのためにここに来たのです」



ぬぉぉー!と淑女らしからぬ叫びと共に走り出したマジカルウララ、コンコンは置いていかれては困ると言わんばかりにマジカルウララの肩に飛び乗ると、ウェルラスと名乗った女性に道案内を頼む。


頼まれた竜の女性はその言葉に頷いて見せると、先に走り出したマジカルウララにすぐ追いつくと複雑に入り組んだ在りし日の竜王の居城の中を駆け抜ける。


そして、3人が辿りついた先に広がっていた光景、それは……。



「その体を寄越せェェェェェェェ!」


「名前と顔どころか声すら碌に知らんクソ親父にくれてやる体はないのであるー!!」



漆黒の鱗から瘴気を放つ巨竜と、赤い鱗に身を包んだ巨竜が取っ組み合いの大怪獣バトルを繰り広げる光景が展開されていた。





【マスコットによる解説劇場~今回はお休みです~】

「今回の解説劇場は~、コンちゃんもみんなも大忙しだからお休みだよ~」

「みんな~、ごめんね~?」


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