『-ありがとうございましたっ!』
『ありがとよっ!』
それから、かなり経った頃。作業を終えた俺達は立ち往生していた人達の元に向かった。すると、皆さんはどうやら俺達が作業をしているのを知っていたようで、直ぐにお礼を言ってくれた。
「「「どういたしまして」」」
「良いってことよ~っ!」
『じゃあなっ!』
そして、皆さんは徐々に先へと進んで行きそこはだんだんと人が減っていった。…なので俺達は、道の端に移動してから地面に座りこみ休み始める。
「いや、助かった~。お前さん達が来なかったら、日が暮れてたところだ~」
すると、一緒に作業していた男性がこちらに来て感謝を口にした。…凄い。俺達よりも多くの岩をぶん投げていたのに、けろりとしてる。
「あ、そうだ~。もし良かったら、ウチに来てくんねえか~?
勿論、ウチの荷車で運んでやっからよ~」
「「「…っ!」」」
突然の招待に、俺達はびっくりしてしまう。一体、どういうつもりなのだろうか?
「…ありがとうございます。せっかくですからご招待に預からせて貰います」
「「…っ」」
「そうか~。なら、荷車を持ってくるから待っててくれ~」
相手の考えが分からず戸惑っていると、班長は招待を受け入れた。当然、俺と弟分は驚いてしまう。
一方、男性はますます笑顔になり一旦俺達から離れた。
「……」
「大丈夫よ。多分、単純にお礼がしたいだけだと思うわ」
俺は、じっと男性の背中を目で追った。すると彼女は、男性の目的を予想した。
「…まあ、どのみちあの人には仲間になって貰えるように頼まないといけないからな」
「…ですね」
「-おーい、待たせたな~っ」
『んも~っ!』
そんなやり取りをしていると、男性が牛に引かれた荷車に乗って戻って来た。
「んじゃあ、乗んな~」
「「「はい」」」
「…ん~。んじゃ、行くぞ~っ」
『も~っ!』
そして、俺達が荷車に乗り込むのを確認した男性は牛に声を掛け、軽く手綱を揺らした。
すると、荷車はゆっくりと動き出した。
「-あ、そうだ~。まだ、オイラの名前を言ってなかったな~。
オイラは、北村栗蔵ってんだ~。宜しくな~」
「「…宜しくお願いします」」
牧場へと向かう道中、ふと男性は名乗った。当然こちらは気付いていたのが、とりあえずそう返した。
「…お会いしたかったです。北村さん」
「ん~?…ああ、やっぱりオイラの事を探してたんだな~?」
「「…っ!」」
「…はい。
あ、申し遅れました。私は、葛西桃歌です」
「自分は、木之本仁です」
「僕は、周防智一です」
「桃歌に、仁に、智一だな~。…にしても、若い子達が来るとは思わなかったぞ~」
「「……」」
「…あの、もしかして貴方も私達の事を聞いていたんですか?」
またしても、彼は気になる事を言ったので彼女は質問する。…一体、彼はなんて答えるのだろうか?
「いや~?ただ、お師匠さんに『いずれお前は大きな闘いに巻き込まれる。けれど、共に闘う仲間が居るから安心しろ』…って、言われてとんだ~」
「「……」」
「…やはり、先代達は皆また闘いが起きると予感していたのですね」
「…みたいだな~。
-あ、そろそろ見えてくるぞ~」
順調に進んでいると、ふと前方に大きな牧場が見えて来た。あれが、北村牧場のようだ。
「良し、止まれ~っ!」
『も~っ!』
「「「ありがとうございました」」」
それから少しして、荷車は牧場の入り口前でゆっくりと止まった。なので、俺達はお礼をして荷車から降りる。
「-あ、お父さんっ!お帰りなさいっ!」
すると、敷地内から俺や桃歌と同じくらいの女の子が出て来てた。間違いなく、彼の子供だろう。
「…あれ?どちら様?」
「萌、この人達はオイラの知り合いだ~」
「あ、そうなんですね。こんにちはっ!」
「「「こんにちは」」」
「んで、萌。この人達を母屋に案内してくれないか~」
「はーいっ!
じゃあ、ついて来て下さいっ!」
すると、萌はそう言って歩き出した。なので俺達もその後に続いた。
「-じゃあ、お母さん呼んで来ますね」
それから少しして、俺達は母屋に案内され居間に通された。そして、萌さんは居間から出て行く。
「…なあ、どうするんだ?」
「…とりあえず、他のご家族と会ってから考えるわ」
ふと、俺が質問すると彼女はそう返した。…つまり、ご家族に彼以外の大人の男性が居なければ勧誘を諦めなくてはならない。
「こんにちはっ!」
「「「こんにちは」」」
そうこうしているうちに、萌さんはお母さんを連れて戻って来た。そして、お母さんはお盆をちゃぶ台の上に置いた。
「はい、どうぞ~」
「「「いただきます」」」
当然、それには木のコップが三つ乗っておりその中には牛乳が入っていた。なので、俺達は挨拶を言ってからコップに手を取り牛乳をいただいた。
「ふふ、礼儀正しい子達ね」
「…なんか、同い年とは思えないな」
「「「…っ。ふう~」」」
萌さん達の感想を聞きながら、俺達は冷えた牛乳を飲み干しコップをちゃぶ台に戻した。
「「「ごちそうさまでした」」」
「どういたしまして。ふふ、ウチの自慢の牛乳はどうだった?」
「「「とっても、美味しかったです」」」
「良かった」
「…あの、もしかして皆さんは家族だったりするんですか?」
「「いや、違うよ」」
「違いますよ?」
すると、萌さんがそんな事を聞いて来たが俺と彼女は直ぐに否定する。…というか、そんな風に見えるのか?
「…そうなんですか。なんか、凄く仲が良いというか息ぴったりだったので」
「あ、皆来たわね」
「「「…っ」」」
そんな時、玄関の方からあの人の気配を感じ気を引き締める。そして、彼は三人の大人の男女を引き連れて居間に入って来た。
「あ、お疲れなさい皆」
「あー、疲れた。…って、お客さん?」
「母さんの知り合い?」
「いえ、お父さんの知り合いよ」
当然、息子さん達はこちらに気付きお母さんに質問した。すると、お母さんは北村さんの方を見た。
「そうだ~。」
-そして、この三人はオイラが『待っていた』奴らなんだ~」
「「「…っ!?」」」
『……』
そして、彼はその流れでとんでもない事を口にする。…当然、俺達はびっくりしご家族は唖然とした。
「…この子達が、父さんの『仲間』になる人達なの?」
『……』
すると、ご家族は信じられないといった顔でこちらを見てくる。…まあ、当然の反応だな。
「こらこら~。人を見かけで判断したらいんだろ~」
「「「…っ」」」
けれど、俺達の実力を知る北村さんは家族を注意する。…しかも、顔は穏やかなのにほんの少しだけ怒っていた。
『……っ。ごめんなさい』
実際、家族はちょっと冷や汗を流しながらこちらに謝って来た。…やっぱ、普段穏やかな人が怒ると怖いな。
「…その、皆さんの不安も良く分かります。
もし、私達が皆さんの立場だったら同じ反応をしたと思います」
「は、はい。…それに、正直自分達はまだまだ未熟者ですから」
「…逆に、足を引っ張ってしまうかもですね」
『…っ』
「いや、優しい子達だな~。…まあ、この子達が良いって言うならオイラもこれ以上うるさくは言わんよ~」
『……っ』
それを聞いた北村さんは、怒りを消した。…すると、ご家族は安堵した。
「…んじゃあ、話は一旦終わりにして昼飯にするか~
「…っ!そうだったわね。…あ、さっきのお詫びと言ってはなんだけど、良かったら貴方達も食べて行く?」
「あ~、それは良いな~」
ふと、奥さんがそんな提案すると北村さんは直ぐに賛成した。…確かに、あれだけ氣と体力を使ったのでかなりお腹が減っていた。
「…ありがたいですが、良いんですか?」
「ああ~。ウチは、オイラや息子達が沢山食うから母さんはいつも多めに作ってんだ~。
それに、もしおかずや米が足りなくなっても直ぐに新しいのを出せるようにしてるから、遠慮するな~」
「…じゃあ、ご相伴に預かります」
「「ありがとうございます」」
「どういたしまして。
ほら、二人共手伝って」
「「っ!うんっ」」
なので、俺達は揃って頭を下げると奥さんは娘さん達を連れて居間を出た。…そして、ほんの少しして大皿料理と大盛ご飯を持って戻って来た。
「-良し、それじゃあ頂きます」
『いただきますっ!』
やがて、野菜炒めと大盛ご飯とお味噌汁が食卓に並び、家長が挨拶してから俺達はご家族と一緒に昼飯を食べ始めた-。