こうして、私と沢田くんはクラスのみんなと一緒に連続で打ち上がる花火を眺めながら、楽しい時間を過ごした。
花火を背景に、今まであった出来事が走馬灯のように蘇る。
沢田くんと初めて出会って、隣の席になって、いきなり「あ、うん」で金剛力士像かって自分にツッコミを入れた沢田くんに驚き、それからずっと沢田くんの声に夢中になった私。
購買でおそろいで買ったおじさんつきシャーペンとの脳内劇場、日直の大声特訓で「ちん」とか「まん」とか叫ぼうとした沢田くんに慌てたこと、ファミレスでは初めて見せてくれた笑顔にときめいて、やっと沢田くんと友達になったこと……。
見せたいものがあるって購買に連れて行かれた結果、のりせんべいおばさんが現れて大笑いして。
そのあと、風邪をひいた沢田くんの家に小野田くんとお見舞いに行って、沢田くんの私への恋心を知っちゃったんだっけ。
ドッジボール大会で奮闘して、遊園地でデートして、席替えで離ればなれになりかけて。
突然沢田くんの声が聞こえなくなって、耐え切れないほど寂しい思いをしたけど──今はこうして沢田くんが隣にいる。
いろいろあったけど、楽しかったなあ。
【佐藤さん……何考えてるんだろう】
ふと、沢田くんの視線を感じた。
私はつい気づかないフリをしてしまう。
【花火に夢中か。可愛いな……佐藤さん(*´Д`*)】
本当は、沢田くんに夢中なんだけどね。
なーんて、やばいやばい。鼻の下が伸びて顔が退化しちゃう。
急に退化したら沢田くんがびっくりするよ。
沢田くんは私がこんなことを考えているなんて何も知らず、また一人でおしゃべりをする。
【まるで夢みたいだよ。佐藤さんと一緒に花火を見てるなんて……(*´Д`*)このまま時間が止まっちゃえばいいのにな】
うんうん。私も同じ気持ち。
【さっき、橋の上で好きって言ってくれたと思うんだけど……夢だったのか現実だったのか自信がなくなってきちゃった(;´д`)どうしよう。もう一度聞きたい(>_<)! でも、そんなわがまま、佐藤さんに言えないっ。゚(゚´Д`゚)゚。】
もう、しょうがないな。
私はこっそり沢田くんとの距離を詰めて、沢田くんの肩に頭を乗せてみた。
【ひゃあああああああっはああああああああああ!!!(*´Д`*)】
無言で、無表情のまま固まる沢田くん。
「沢田くん大好き」
最後の花火が弾けた瞬間に言ってみたけど、ちゃんと聞こえたかな?
【い、今……好きって聞こえたっ(*´Д`*) ……気がするっ! 気のせい⁉︎】
コラ、何回私から言わせる気よ沢田くん!
……次は沢田くんの方から言って欲しいな。
私は花火の消えた夜空を見上げて、そっと笑みを浮かべた。
「あーあ。花火終わっちゃったな」
そう言いながら唐突に森島くんが振り向いたから、私は慌てて沢田くんから離れた。間一髪、私たちがくっついていたことは誰にも気づかれなかったみたい。
「でもこれから夏休みが始まるね。今度はみんなで海行かない?【水着女子と海辺でパーリナイ(((o(*゚▽゚*)o)))ヒャッハーーー♡】」
森島くんは相変わらずだ。
「いいねえ、海! 泊まりがけで行きたいなあ【森島くんを夜這いしたい♡】」
麻由香ちゃんも煩悩を爆発させる。
「ねえねえ、誰かみんなで泊まれるようないい場所知らない?」
ざわざわとみんなの雑談が始まる。
その時だ。
「あ……」
発言したのは、なんと沢田くんだった。
「なんだよ、沢田」
「あ……うん【どうしよう、みんながこっち見てる!((((;゚Д゚)))))))俺の
ええええええっ⁉︎ 島ごと別荘持ってるなんて、沢田くんのおじいちゃんって何者なの⁉︎
「沢田くん、どうしたの?」
「早く言えよ沢田」
みんなのプレッシャーに耐えきれず、沢田くんは震えている。
【どうしよう、こんなに見つめられたのはあの時以来だよ! そう、あれは俺が小四の時……】
えっ⁉︎ 今このタイミングで回想入るの⁉︎ みんな待ってるんだけど!
【あれ? 三年だったっけ。二年だっけ? ま、どうでもいいけど──】
うん、そこどうでもいい!
【クラスメイトの武井くんのレアカードを誰かが盗んだって朝の会で裁判になって……そんな時に、お腹が痛くなっちゃった俺は、手を挙げてこう言ったんだ……。『せんせー。漏れそうなんでトイレ行っていいですか?:(;゙゚'ω゚'):』】
あっ、その話知ってる! って、今頃それ思い出すの?
【あれは恥ずかしかったな〜。みんなが俺の発言に期待しちゃって……ただトイレに行きたかっただけなのに。……って、あ、あああああああ!! 思い出した!! あの顔の怖い人、小野田くんって、そういえばあの時の犯人だったよね!!((((;゚Д゚)))))))同じクラスだったのかーーっ!!】
ええええええええ⁉︎ 小野田くんのこと、いま思い出したーーっ!!
っていうかその犯人は小野田くんじゃなかったんだよ、沢田くん!!
「もう、なんなんだよ沢田。はっきり言えよ」
「あっ。ごめん。うちの島に別荘ある【あっ。言っちゃった((((;゚Д゚)))))))】」
えええええええええ⁉︎ とみんなが大騒ぎし始めた。
「島に別荘ってすげえ! お前んち、金持ちなの⁉︎」
「そんなことないけど……【ど、どうしよう((((;゚Д゚)))))))みんながはしゃいでる⁉︎】」
「じゃあ夏休みにみんなで沢田の別荘行こうぜ!」
【えええええっ⁉︎ 勝手に決めたら母ちゃんに怒られる((((;゚Д゚)))))))】
なんだか、この夏もまだまだ大変なことが起こりそうだね、沢田くん。
私が見つめると、沢田くんも無表情に振り返る。
【佐藤さんも来てくれるかな……?】
私はにっこり笑って言う。
「どんな水着を持っていこうかな」
「み……【水着⁉︎ Σ(゚д゚lll)佐藤さん、なんて大胆なっ!!(*´Д`*)】
ついに沢田くんの顔が退化した。私はそれを見て笑いながら、どこからか流れてきたわたあめの甘い匂いを胸に吸い込む。
祭りの夜は騒がしい夏の始まりを連れて、にぎやかに更けていった。