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120 遠征の肆




 2週間後、わしは中東の大都市ドバイに向かう飛行機の中にいた。

 サッカーのオリンピック最終予選の戦いに赴くU-22日本代表を乗せたチャーター機の中じゃ。


 わしの席の隣には勇殿。なぜか勇殿は落ち着いた感じでスマフォをいじり、サッカー漫画を見ておる。

 そして少し離れたところにはジャッカル殿たちが慣れた様子でくつろぎ、または周囲の選手たちと談話など楽しんでおった。



 しかしながら……うーむ。



 突如この遠征に名を連ねた――というかほとんど部外者のような立場のわしにとって、勇殿や冥界四天王以外の知り合いがおらん。

 他の代表メンバーやチームの首脳陣。バックアップをするスタッフ。日本サッカー協会のお偉いさん。

 いろいろと話しかけてみたい気もするけど、向こうも向こうでわしらの存在が不可解すぎて若干警戒気味じゃ。


 なのでとりあえずは勇殿に一言。


「ずいぶん落ち着いてるね。勇君、大丈夫?」


 だけど相手はスマフォの画面を見つめたまま言を返す。


「うん、吉継さんが楽しそうだからあの4人の誘いに乗ってみろって……。

 それにあの状況……僕らとジャッカル君たちが本気出して戦い始めたらホテルが……ほら……? 全壊しちゃうぐらいに……」


 あぁ、そうじゃな。わしとしてはホテルの1個や2個ぶっ壊したぐらいじゃ気が収まらん。

 だけど吉継も乗り気なこの感じ。それも含め勇殿は割と早い段階で諦めておったのかもしれん。


「人生、たまには諦めが肝心だからね」


 ってか今のわしにとってシンプルながらも、とてつもなく重い言葉が勇殿の口から放たれた。


「うぅ、そ、そうだね……」


 なのでわしもここで椅子の背もたれにだらりと倒れ、と同時に心の中でいろいろなことを諦めてみることにする。



 この2週間、わしらはさまざまなメディアで取り上げられ、あれやこれやといらぬ取材を強いられてきた。

 とくに週刊誌系の取材が過酷を極め、わしや勇殿本人はもちろん、その家族――果てはわしらが通うた小・中学校や高校にまで記者たちが押し寄せたらしい。


 とはいえわしらは中学・高校の学校生活においては品行方正な生徒だったし、悪意のある週刊誌の記者さんたちが一生懸命叩いても、そこに埃など立とうはずがない。

 まぁ、転生者社会におけるわしらは闘争と策略に明け暮れておったから、そっち方面を調査すれば凶悪犯罪者としての一面も簡単に暴くことができそうだけどな。


 いや、甲子園の5連覇を果たした英雄と、有事には全国を飛び回り戦いに明け暮れる中・高生。そして今はサッカーの日本代表選手。

 わしらのキャラ設定というか、経歴がおかしすぎて、普通に記事にするだけでも週刊誌の読者さんたちは十分楽しめる。

 それゆえの取材活動……さすがにわしらの家族にまで迷惑をかけてもらいたくはないが、ある程度は好きにあれこれ書いておいてもらおう。

 その方が逆に転生者としてのわしらの一面をカモフラージュできるような気がする。


 さすれば、とりあえずは3日後に設定されたサッカーの試合に集中するのみ。

 美味しい神戸牛さんに近江牛さん。

 なんか今になってよくよく考えたら、神戸牛を寺川殿に渡したのがジャッカル殿たちのような気もしておるんじゃが、あの夜に極上のお肉をいただいたことで諦めも感じておる。

「テラ先生? これ、昨日のお詫びに光君に食べさせてあげて」みたいな……ちっ。



 石田三成――旨いものを食わせれば、手玉に取るにたやすい武将。



 などというふざけた評価が冥界四天王に植え付けられていた気もするけど、何はともあれあの時の怒りもどこへやら。

 その他もろもろの問題もなんかすべて解決したことにしておいて、とりあえずはサッカーにてわしのやるべきことをこなすのみ。


 と機内の天井を眺めながら色々と頭の中を整理し、何か飲み物をと思ってわしは立ち上がる。

 機内の後方に設置された飲み物コーナーに足を運び、さっぱり系の飲み物にしようか、またはコーヒーなどを飲むことでもう一度頭を目覚めさせ、いろいろと考え事をし直そうか。と、飲み物を物色しておったら背後に人の気配を感じた。


「何を飲むんだ? 決まってないならさっさとどけろ」


 おっ、振り返ってみたら相手は監督殿じゃ。

 最近のわしにこのような態度を取る者も珍しいというか、久しぶりというか。

 もちろんそんな態度におののくわしではないけど、興味津々といった感じで相手の顔を伺う。


「何見てんだ? あぁ? ったく、どこの馬の骨かもわからん奴にいきなりチームのレギュラーを横取りされて……しかもよりにもよって浅山さんとこのお子さんを……」


 ちなみにこの監督殿、経歴がなかなかに波乱万丈でその人間性にも悪い噂の絶えない人物じゃ。

 なんでもこのU-22の代表監督をする前はどこぞのJ2のクラブをしておったらしいけど、そのクラブを監督就任1年目からJ1へと昇格させ、次のシーズンではトップリーグで優勝争いをするほどにチームを成長させたとか。


 とはいえ先も言った通りこやつは人間性というか、グラウンドでの振る舞い等々、色々とネットで批判的な意見を受けるタイプじゃ。

 まぁ、わしとしては殺戮三昧の人生を送ってきたわしらの方が人間性にも大いに問題あるような気もする。

 でもそんな批判も含め、こやつの手腕はやはり本物なのじゃろう。


 名前は……白田……とかいったか?

 それと――こやつが今、口に出した名……浅山? はて、誰じゃろう?


「あっ、すみません。白田監督、お先にどうぞ?」

「……」


 20歳の若人っぽくここは素直に下手に出てやろう。と思ったけど、対する監督殿はわしの言を無視するかのように意中の飲み物をコップに注ぎ始めた。

 ふっふっふ。面白い。

 今のわしにかような態度を取る者などなかなかに珍しいし、そこに何やら私怨のようなものも感じる。

 さて、どうやってそれらを解明してやろうか? とわしは心の中でいろいろ思案しておったら、そやつは別れ際にもわしに向かって喧嘩を売ってきやがった。


「まともに動けないとわかったら、即座に外すからな。いや、次の試合はベンチ入りもさせずに日本に帰す。覚悟しておけ」


 あっ。それ、わしが1番望んでおるパターンじゃ。

 じゃなくて――それはつまり、わしが“まともに動けたら”どうするんじゃろうな? その敵意は手のひらを返すように心変わりするのか?


 ふっ。面白い。

 無理やりここに連れてこられた身としては少し納得できんこともあるけど、できる限りのことをしてやろうじゃないか!


 と思ったんだけどさ。

 わしが監督殿と不穏な空気をさらけ出してると、そこに介入してくるのがあの男な。


「貴様……我々に喧嘩を売るなら、このわしが買うぞ? この機体ごと貴様の体をアラブの砂界にまき散らしてやろうか?」


 というか吉継な。

 いつの間にか勇殿の意識と入れ替わり、その手にはすぐ脇の軽食コーナーに置いてあったプラスチック製のフォーク。それを監督殿の首に触れさせておる。

 完全な脅迫じゃ。

 勇殿というか――その中におる吉継というか。

 相変わらずこの2人はたまにこういうことをしやがる。


「ひっ!」


 もちろん監督殿は怯えた感じで短い悲鳴をあげるのみ。

 だけどじゃ。ここで監督を殺害したら大問題だし、完全に勇殿の有罪になりうる。

 まぁ、一応止めてやろうぞ。


「待って、“勇君”! そいつは殺さないで! 今はまだ……!」


 意味ありげなセリフとともに仲介しつつ、わしは勇殿の手をゆっくりと降ろさせる。

 もちろん吉継の名を出すのは違和感マックスなので、ここは勇殿の名で。


 でもこれで監督殿に対する威嚇は十分。

 あたふたと怯えながら、自分の席へと戻っていった。


「よーしーつーぐーぅ。流石にやり過ぎじゃ」


 と思ったけどさ。


「ふっふっふ。僕だよ、勇多だよ! 吉継さんはまだ寝てるよ!」


 どうやら勇殿が吉継に扮して脅迫しておったらしい!

 おいぃいぃぃぃ! そういうのは本当にやめてほしいんじゃが!?


「じゃあなおさら! 勇君! いや、助かったけども! でもそういうのは止めようよ!」

「ふふっ、光君もついに僕にまで騙されることに……いや、冗談だけどさ!」


 笑えないっ! ただでさえ冥界四天王、その他もろもろのメンバーから人間不信になるようなトラウマを植え付けられている最中に――じゃなくて!


「と、とりあえず席に戻ろうか」


 おそらくは一応勇殿なりにわしを助けに来てくれたのじゃろう。

 そこらへんは嬉しいけども、怖いっちゃ怖い。


 なのでわしはすぐにコーヒーをカップに注ぎつつ、勇殿と一緒に席に戻った。

 だけどじゃ。ここでいつの間にかカロン殿とミノス殿がわしらの座席の背後に移動しておった。


「ふっふっふ。光君、まだ納得いかない顔だねぇ」

「大丈夫だよ。2人なら十分うちの戦力になるからさ」


 ミノス殿、そしてカロン殿の順にそう言いながら、着席したわしらの肩を揉み始める。

 くっそ。なんか一難去ってまた一難みたいな感じ! そんなこと言われると、逆に反論したくなるわ!


「安っぽいお世辞を……! 絶対におかしいじゃん! そもそもうちらサッカーなんて初心者だし!」


 まぁ、ルールの類はある程度知ってはおる。わしも勇殿も結構スポーツ観戦好きだからな。

 オフサイドのルールとか、オフサイドのルールとか。またはオフサイドのルールとか。


 それぐらいは一応知っておるけど、直接フリーキックと間接フリーキックの発動条件などはよくわからん。

 それどころか試合開始までの流れとか、試合中の行動。そして試合後の言動……ルールやテレビ視聴だけでは知ることのないサッカー選手のサッカー選手たる“いろは”みたいな特有の文化があるはずなんじゃ。

 それを違えると、チームメイトはおろか首脳陣、果てはバックアップスタッフにまで迷惑がかかろうぞ!


 というか、何でわしはこんなに各方面に気を使う感じになってんねん! 無理矢理じゃ! 無理矢理こんなチームに招集されたんじゃ!


「ぐぬーぅ」

「あははッ、怒んない怒んない。ほーら……リラックスして……よーしよし」


 カロン殿が背後の席から腕を伸ばし、わしの両肩を揉んでくる。

 わしは首を上げてしかめっ面を見せるけど、そういう抵抗はいまさらじゃな。


「んでさっき監督と話してたっぽいけど、どうしたの? 大丈夫?」


 う、見られておったか。

 でもわしらの気配を敏感に察知し、すぐさまフォローをしようとするあたりは、さすがの冥界四天王といったところか。

 とはいえ飲み物コーナーでのやりとりは大したことではないので、わしは適当に誤魔化しておくことにする。


「いや、べつに。ところでさ。浅山って誰か知ってる?」

「ん? 浅山さん? それならあっちにいるよ。バックアップメンバーだね」


 うーむ。カロン殿の指差す方を見てみたけど、やはりわしが知っておる人物ではない。

 いや、ここ数週間の間にチームメイトなどをネットで調べておるので、その時の記憶がうっすらと蘇ったけど――なのでこのチームに帯同する男にそういう名字のメンバーがいたような気がするけど、あくまでわしの認識はその程度じゃ。

 さすがに縁もゆかりもないこのチームの選手たちを、最終選考メンバーやベンチ外メンバー、そしてバックアップメンバーも含めて30人近い若者たちに至るまで全員覚える暇などない。


 むしろそれはそれでどうなのかとも思えるけど、この飛行機に乗るまでわしと勇殿はチームの練習には参加しておらんのじゃ。

 この代表チームのチームメイトたちも所属する各チームの試合や練習があったし、わしは首相官邸に幾度となく呼び出されたり……まったく。利家殿がわしに頼りすぎて、年々甘えが見え始めて――という事情は今はどうでもよいな。


 勇殿も大学の講義があったりでそれぞれが忙しく、なので時間を無理やり作ってくれたジャッカル殿たちに夜遅く近所のグラウンドまで呼び出され、そこで軽く練習してきただけじゃ。


「でさ。浅山さんもそうだけど、他にもフォワード陣がケガ人続出でちょっとヤバかったんよ。んでどうするかってチームで話し合ったときに……ジャッチがさぁ」


 ちなみに冥界四天王は高校に入った頃からお互いの呼び名が変わっておる。これはフィールドネームというサッカーの文化とも関連があるらしいけど、ジャッカル殿は『ジャッチ』。同様に『カロッチ』、『ミノッチ』、『クロッチ』といった感じじゃ。

 んでそんなこともどうでもよい。

 カロン殿が言の途中に少し離れたところでクロノス殿と並んで寝始めておるジャッカル殿に顔を向け、話を続ける


「ついに我々の最終兵器を出す時が来た、って。あははっ!」


 なんの説明にもなっておらん! 何でわしらが最終兵器になるのじゃ!?

 わしら本格的にサッカーなんてしたことないし、何だったら高校野球引退後にたまにジャッカル殿たちからフットサル遊びに誘われて、そこでちょこっと試合に混じったり、あとフルサイズのサッカーグラウンドでよくわからんフリーキックの練習に付き合わされたり……!

 そしてその時になぜかわしがキッカーの蹴るボールをゴール前でボレーシュートする役になったり!

 あと勇殿は背中に背負った2人の選手をフィジカルで押し返しつつ、近くの仲間にワンタッチでパスを出す練習をさせられたり……!


「あっ……くそ……思い出した! てゆうか今気づいた! あの練習がもしかして……?」


 んで驚きと怒りを同時に顔に出すわし。

 隣を見てみれば、勇殿はミノス殿の肩揉みマッサージにご満悦の表情じゃ。

 じゃなくて!


「あははっ! やっと気づいたん! てゆーか、嘘だろ光君! 光君ともあろうものが、あの練習の違和感に気付かないなんて!」


 そう言いながらカロン殿がわしの肩をぽんぽんと叩く。あとわしの背中で爆笑してるっぽい。


「おぃいぃぃ! マジか!?

 いやいやいやいや。無理だって。あんな練習ちょこっとしただけで日本代表とか! 他の選手にも申し訳ないし!

 いやマジであの練習程度でうちらを招集したんか!?」


 わしは即座に立ち上がり、後ろを振り返る。

 ついさっきまでわしの肩をポンポンしていたカロン殿の両手首のあたりを掴み、力を込めた。

 対するカロン殿も武威を腕に込め、不敵な笑みで言を返す。


「ふっ。大丈夫だって。あの練習、相手はうちらじゃん? それに周りにいた選手もJ1のレギュラーだし」

「嘘じゃろ? あの若人たちが、実はJ1の選手たちだったのか!?」


 あっ、言葉がぶれた。まぁよい。


「うん。本来召集される予定のフォワードが大怪我とその後のリハビリでこの大会に間に合わなくなりそうだったから、クラブの先輩たちに協力してもらってさ。

 でもあの選手たちのディフェンスを相手に、ふっつーにワンタッチでボールを枠に入れる光君と、絶好の場所にリターンを返す勇君。この2人ならA代表でも十分だって。

 そんな先輩方たちの協力もあって光君たちは、めでたく一流の……ぐぐぐ……サッカー選手となりました。あははッ!」


 ちなみにさすがのわしもやはりJ1の選手の顔などを網羅する記憶力と時間はない。

 なのでJ1の選手といえどもそれがA代表でもない限り顔は覚えておらず、わしは彼らのことを普通のサッカー好きな若者としか認識しておらんかった。

 というかあの時集まっておった若者たちは冥界四天王の高校時代のチームメイトという紹介をされておったし、彼らは冥界四天王のフリーキックの練習に付き合うために集まっただけだという嘘の重ね塗りまでされておった。


 その実、彼らがJ1クラブのレギュラークラスだとしたら?

 しかも若い頃から武威と法威の修行――そしてそれを駆使した壮絶な戦いを幾度となく繰り広げてきたわしらの身体能力は、たとえそれが武威や法威の使用を禁じられたスポーツ界においてもトップクラスには届く。

 ゆえにあの時の練習はそれなりにレギュラークラスのJ1選手と対等に渡り合っていた。

 というかむしろその選手たちを相手に、わしら結構思い通りに指示されたセットプレーの動きをこなしておった。



 だけどさすがに……

 そもそもわしら、ドリブルもまともにできない素人なんだけど……?


「ぐぬぅぐぐぐ。いや、それでうちらを招集する理由にはならんのだが? うちらドリブルとかへったくそなんだけど!?」

「いや、光君と勇君は……ぬぉおぉ! ド、ドリブルしなくていいから……ぐっ、どっちもダイレクトでうちらのパスに合わせてくれれば……うぬぬ」


 と武威と法威を駆使してカロン殿の両腕を掴んでおったのだけど、ここでカロン殿がさらなる武威でわしの拘束をはぎとった。

 そして次の瞬間、カロン殿が逆にわしの両手首をむんずと掴み、顔を近づけてきやがった。


「大丈夫。メディアは光君たちの合流を好意的に報道してるし、何かあったら警察が動いてくれるはず。家族の同意も得ているし!」


 こやつ、いまちらっと頼光殿の関与とわしの家族――つまり今現在はわしの妻である華殿の関与もほのめかしおった!


「ぐぬぬッ!」

「ぐっ! ほら、どうした! 石田三成ともあろうものが徳川の1家臣ごときに腕力で負けるのか!?」


 ちなみにクロノス殿が本多忠勝だということは判明しておるが、その他のメンバーについてはいまだ素性を明かしてもらっていない。

 なので今のカロン殿は自分のことを“徳川家の1家臣”などと表現しておるが、その徳川家康本人は今現在わしの弟じゃ。

 じゃなくて!


「ぬぉおぉぉぉ! わしをなめるなぁ!」


 そんでわしは両腕に最大級の武威を流し込み、それを法威で操りつつ、カロン殿の両手の束縛から逃れる。

 だけどなんか腹立ったので、わしはまたカロン殿の両手首を武威・法威の強度そのままに掴み返した。


「おっ、さすがだね。でもまだまだ!」


 そんで今度はカロン殿が両腕に武威と法威を込め――って、なんでこんな流れになったのかはわからんけど、お互いの腕を掴んではそれをはじき、また掴み返すという、そんな腕力勝負をしておったら、「もうすぐドバイ空港に着きます」という機長殿の機内アナウンスが流れた。


「ぐっ、今日のところはこれぐらいで許してやろうぞ……」

「あはははッ! 光君、それ負けた方が言うセリフだから!」

「ま、負けてない! んじゃもう1回!」

「いや、そろそろ着陸の準備を……はい、シートベルト絞めて! この戦いはまた今度ってことで!」

「ぐぬぅ……それなら……仕方あるまい」


 機体が徐々に降下する中、わしは悔しさの滲む顔で椅子に座り、シートベルトを締める。

 カロン殿とミノス殿も後ろの席に収まり、シートベルトを締める音が2つ聞こえた。


 聞こえた……のはいいんだけどさ。



「さーて……オリンピックの出場権と……あとアジアカップの優勝を目指して、がんばろー!」



 ちょっと待て! アジアカップ!?



 え? 何それ!?




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